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第六話 変態というなの淑女

ようやく敵キャラが登場!

変態って・・・なんでここまで書きやすいんだろう?

澄み渡った空をメルメは天然の緑羽毛に腰を下ろしながら見上げていた。



村はずれの小さい原っぱを駆け抜ける一陣の風が帽子を飛ばそうとするが、思考を張り巡らせながらもメルメは手で押さえて風による帽子誘拐を阻止する。






(正直な所、もう少し詰めたいんだけど)






大体は情報収集したとはいえ、詳細な情報は事前に出来るだけ欲しい。



子供は純粋である為に大人が気のつきにくい印象まで覚えていることが多いので、メルメは子供たちに重点を置いて聞き込んできた。



しかしそれも季節は秋、農作物の実りを迎える農村は収穫に備える為に次第に忙しくなる。



大抵の農村は子供にも手伝わせており、子供たちもそれなりに忙しそうに働く為にこれ以上情報収集に協力してもらうのが限界を迎えつつあったのだ。






(さて・・・・上手くアイツが石頭を説得する事を期待して待つとして)






『あちら』に送った手紙の返事は正規の手紙ならそれほど時を置かずして返信される。



だが今回は完全に私事である上に、処罰が下されている少女に対しての免罪要請。



首尾よく石頭(メルメ主観)を説得してくれたとしても、かなり返答が伸びてしまうだろうから返事が来るのは一週間程度延長されるとメルメは踏んでいた。






(準備が出来上がる頃合はまだ先みたいだし・・・・よし)






魔女っ娘は静かに立ち上がり横たえてあった箒をしっかりと握る。



握り締めた自分の相棒をを空中で円を描くようにして勢いよく手首のスナップを活用し、投げる。



犬と遊ぶ為に作られた円盤のような綺麗な軌跡を辿って、箒は猛烈な回転を維持したまま、持ち主を目掛けて襲いかからんと―――する直前。




「―――よっ」




メルメは上に跳び、同時に手を伸ばして箒に手を添えて言の葉を紡ぐ。






『飛翔せよ、我が僕・・・汝と共に飛び立たん』






慣性のまま空中に投げ出されようとした箒は主の命に従い、主を乗せると浮遊力を調整する。



其の為乗った直後は少しだけ下に落ちてしまうが、すぐにメルメを乗せて白と青の雄大な世界を切り裂かんと駆け上っていった。



(もう情報を得られるのは自力でのみ。なら、偵察とでも洒落込みますか♪)



そう思うや否や魔女っ娘は一直線にヘンタイと知られている魔女の古城へと向かった。








レオルたちの村から程近い老朽化しているものの、誰かが住んでいる古城がある。



昔はこの辺りを統治していた貴族の居城と言い伝えられているが其の名残は外観を留めるだけであり、子供たちにとって肝試しには持ってこいの場所と化していた。



かつては欧州を支配した王朝に仕えた有力な貴族の居城だったらしく、所々にその面影を色濃く残している。



中には高価そうな調度品もあったが、長い年月の経過の果てに埃が積もるに積もってしまい今となってはあまり価値がなくなってしまっているガラクタと化したものが多く見受けられた。



しかし歴史の遺跡となった城には誰も住んでないという訳ではない。







「これからどう暇を潰そうか・・・・・・ねぇ可愛い小鳥たち」






現在の古城の主たる魔女はこの日ばかりは昼間であるにも関わらず人の姿でいた。



彼女の目の前には大きな鳥籠があり、その鳥籠は装飾が質素だが繊細かつ丁寧に作られていることが分かる。



また錆具合からも長い年月使用されていた物と推測できるが、扱うものが大切にしている事が一目でわかる雰囲気を醸し出していた。



一つだけでなく魔女の部屋には複数の鳥籠が並べられており中には十数羽の鳥たちが震える肩身を寄せ合っていた。



怯える小鳥達をゆっくりと視線で玩んで、一つの籠の中からこちらを睨みつける一匹に気がついた。




「あら・・・・・」




静かに籠の中から取り出し白い陶器の如き細指で優しく包み込むが、 それでも小鳥は警戒して微塵も様子が変わらない。



魔女は一向に気にする事無く、慎重に丁寧に手の中の小鳥を撫でては愛でる。



其の仕草は心から可愛がっていることを窺わせる自然な動作だったが、小鳥たちからしてみれば恐怖でしかありえなかった。




「あなたは一向に私になついてくれないのね・・・・・・・レーナちゃん」


(ふ、ふん。・・・・このオバサンは神様にやられちゃえばいいのよ)





魔女の顔に悲しみの影が差し込む。



他の小鳥達が怯えながらも見守る中、レーナは沈黙の抵抗を視線で行っていた。



時折『遊び』や『食事』に他の子と一緒に時を過ごしたが、この娘だけは怯え魔女に媚びることは一切しなかった。



ある程度は時間を共に過ごさせられたが、捕らわれの少女は自らを奮い立たせてそういう素振は見せなかった事から並々ならぬ興味を抱かれてしまう。



しかも心では抵抗していても、体は魔女の術によって人から鳥へと変えられてしまった恐怖がある為に僅かに震えてしまった。



そんな手中にある可愛い小鳥の仕草に魔女が気付かないはずがない。



戯れに魔術で子鳥たちの考えを読みとってみると、健気にも自分を奮い立たせている様が窺えた。



魔女は笑みが零れてしまうのを抑え切れなかった。



こういう気丈な子ほど、躾ける事に楽しみが在るのだから。






「ふふ、強がっていても体は正直ね・・・・」





ゆっくりと小鳥の羽を撫でていく。



魔女は繊細な羽ざわりと若さがもたらす柔らかさに恍惚の表情を浮かべ、さらなる行為へと――――及ぼうとした瞬間。






『そこまでにしてもらえますかね、このヘンタイ魔女』







年若い女の子の声が魔女に行為の中止をさせる為、朗々と部屋に浸透する。



変態よばわりされた女性は突然の闖入者に驚く様子も無く悠然と後ろを振り向くと・・・・



其処にはふわりと空気に揺られるマントを羽織り、少々大き目の帽子を被った一人の魔女っ娘が大胆不敵に仁王立ちしていた。





「・・・・何方かしら?」





横槍を入れられた為か若干鋭い眼差しを向けられても、問いかけに臆する事無くその少女は堂々と答えた。




「メルメ。メルメ=ルルティア―――――人助けしている普通の魔女っ娘よ」

















(やば、あまりの変態ぶりに思わず飛び出しちゃった・・・)






メルメは自分の行動の軽率さに自己嫌悪を覚えたが、もう魔女と小鳥達(捕われた女性達)の前に堂々と両手を腰に当てて名乗ってしまったからには後に引けない。



まだ太陽が出ている時間だというのに、薄暗い一室に颯爽と現れた少女を見つめる幾つもの視線。



小鳥に変化させられた少女や女性達の期待や訝しげな視線まで幾数多の目がメルメに向けられるが、その的となっている飛び出し魔女っ娘は内心焦っていた。





(予定じゃ城の構造とレーナちゃん達がどんな様子か調べるだけのつもりだったのに)





外から見れば威風堂々。しかし内心は驚天動地という少女に自分の楽しみを中断されても、古城の主は突然の招かざる客にも悠然とした態度で歓迎の言葉を述べる。





「これはこれは・・・・噂は聞いていますよ、メルメちゃん。ようこそ、我が城へ」


「変態にちゃん付けで呼んでほしくないわね」




少女は笑顔のままで相手の言葉を否定する。



変態魔女はメルメから発せられる強烈な嫌悪オーラを一身に受けても笑みを崩さない―――どころか恍惚の表情を浮かべている。



それは余裕があるからなのか、好みのタイプだったのかは・・・・・・恐らくは後者である事は想像に難くない。いや、純粋な変態であるとメルメは断定した。






「あら、嫌われちゃったかしら?」


「決まってるじゃない♪」






笑顔で会話を進める二人は、一見和やかに談笑しているように見える。



だが・・・お互いに決して所持している杖を放そうとはせず、むしろしっかりと握り締め双方共に隙をうかがっていた。






この世界での魔術とは邪悪なる者達が使うとされ、聖職者や聖なる加護を得た者たちが使用する術は神術と大別されているが、実際は術者の精神性によって左右される。



統計的に判別すると魔術は攻撃主体であり、神術は防御主体とされる。



二人の魔女も決して例外ではなく、術は性格に大きく影響を受けざるをえない。この世界に生きる命である以上、この法則は決して破る事は不可能とされているのだから。



一応『魔女』という看板を両者共に持っている為、邪性に傾倒しているということ、つまり攻撃が得意である事になる。



互いにどのような性格かを噂程度には知っているが、程度を知らないが故にうかつに手を出せない状況なのだ。






(う~・・・周りの子まで巻き込んじゃう危険があるから、高威力の術は使えないな)


(私の天使を傷つけるなんて出来ないわ、威嚇程度にしましょう。その後で・・・フフ)




双方共に影響を考えながら術を構成していく―――というよりもヘンタイの方はメルメに運命の出会いを感じているらしい。



熱っぽく恋する乙女の潤んだ瞳で対峙する魔女っ娘を見つめながら術を練っている姿は正に彼女らしさを表していた。



正面から強烈な愛の熱視線を受けているメルメ。だが断る。



もう本当に個人的理由から逃げ出したかった・・・が、依頼を果たす為に単身調査しに来たのだから手ぶらで帰るのは嫌なので、





「何でこんな事やってんのよ・・・・ホムンクルスでも仮想人格を持ったゴーレムでも姿形似せれば十分でしょうが」





不屈の闘争心で踏みとどまりながら世界の摂理と接続し、箒を妖艶なるヘンタイに向けた。



正論を言われた怪しい魔女は怯む事無く、むしろ自分が正しいのだと言わんばかりに論理整然と自己主張し始める。




「貴女こそ何をいっているの?・・・・所詮作り物は作り物。可愛い女の子はやっぱり直に本物を愛でなきゃ私の誇りが廃れてしまうじゃないの。まぁ、貴女にはメイド服とか着てもらうわ」




何やら不思議な言葉がメルメの耳に入ってきたような気がした。



魔女っ娘は相手を見くびっていた事を痛感した。



実力は相当なものであると雰囲気から察する事が出来た。



しかし、しかしである。



まさか・・・此処まで真正のロリコンだったなんて想像出来なかった。



恋の指名手配された少女は頭を抱えたくなるのを堪え―――







「いい加減にしなさい、この変態は――――!!!!」





―――――よう頑張ったのだけれど耐え切れなかった。



世界の自然摂理との接続、自己精神の性質顕現調節、そして創像した術の実態化・・・それら全てを一気にこなし、周りの事を巻きこまないよう配慮しつつも入魂の一撃を真正の変態に放つ。



彼女の意思に従って造り上げられた氷の槍群は十を超えており、槍先を敵の鮮血で化粧せんと一気に普通なら回避不可能な速度で打ち出され、





「あら、美しさは真理よ!」




真正変態の言葉と共に発せられた炎の鞭によって全て打ち落とされ、防がれてしまう。



発射から着弾までの時間は刹那ほどしかなかったというのに、変態魔女は平然と魔術を構築し、魔女っ娘とほぼ同等の速さで術式の実体化までこなしてみせた。



其の事実は、二人の力量がほぼ同等である事を顕示するに十分であるといえよう。





(何て変態なの・・・!)





メルメは戦慄した。


自分の魔術の速さは密かな自慢だったし、十八番の氷槍がいとも簡単に防がれた事実は魔女っ娘の頭に冷静さをもたらすと共に一つの現実を受け入れさせた。





(・・・このまま戦いあっても意味はない、ファミリアを置いとこう)




ここに来た本意を思い出し生理的拒否感を理性で押さえつけ、調べの為に待機させていた斥候を密かに古城に侵入するよう命令を下した。




「・・・・また来るわ。今度は本当にお仕置きしてあげるから」




魔女に向けていた箒の先を静かに下ろし停戦の意を示し、変態もそれを受け入れ、構えを解いた。




「あら、そういうのも悪くないわね。色々と用意して待っているわ」




先ほど殺意を向けられた事など忘れ去ったかのように、満面の笑みで迎えてくれると宣言する美女に頭抱えるメルメ。



こうして二人の魔女の初邂逅は終わりを告げた。



魔女っ娘は入ってきた時と同じようにして窓から身を躍らせ、浮遊感に包まれて・・・・










『どすっ』












「~~~~~~~~~!!」








草の絨毯に重力の導きのままに尻餅をついてしまう。



二階から恰好つけて飛び降りてしまった代償の痛さから半泣きになりながらも、依頼主たちの村へと飛び去っていった。



その日の昼、尻をさすりながら箒に乗って空を飛ぶ少女を見たという話が噂されたが彼女の事であるかは定かでない。

正直な所、主人公よりも愛着のある敵役の登場です。

設定やら時代背景やら考察していたら、こやつが一番愛着が湧いてしまった!

変態、馬鹿、そして戦闘狂は私の大好物ですwww


皆様のご意見、ご感想お待ちしております。

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