第四話 手紙とシチュー
サブタイトルに深い意味はありません
「魔女に連れ去られてしまった幼馴染のレーナを助けたいから、その手助けを頼みたいんだ」
「ふむふむ・・・なるほどね。話せる限りでいいから詳しい事を話してくれるかな?」
話を要約すると、少年が住んでいる村から近距離にある古城には魔女が住んでいるといわれているらしい。
その魔女は昼は猫、夜は梟に姿で過ごしている。
人としての姿をしているのは就寝している時と、遊びに興じている時ぐらいだということ。
メルメはその魔女に心当たりが在った。
その魔女はいろいろな面でかなり変わり者であり、関わらない方がいいといわれている。
というか・・・
『男はムサイからいらない。女の子がイイ』
そう宣言し自分の城にきた女性達を捕まえて鳥にしてしまい、その鳥たちを愛でながら暮らしているといわれている。
そして気が向いたら人に戻して食事や遊戯を共にして暇をつぶしているらしい。
そう。其の魔女は同性愛好者でロリータ・コンプレックスなのである!
正直な話メルメも可能な限り関りたくない。
「変態相手・・・いやだな~」
取りあえず情報収集の為に同様の被害にあっている子どもの友人達から情報を集める。
話を詳しく聞いていると、子供達にとって魔女が済む古城は『度胸試しにもってこい』と認識されているらしい。
それが近隣の村の子供達の間で噂となって広まり、実際に古城に赴いた子供達が行方不明になっている。
しかし―――
「夜に度胸試しに行った子ども達は何事もなく帰ってきている、と・・・」
「何でか判らないけどさ、僕は友達と2人で夜にお城にいって冒険している途中で眠くなっちゃって。気が付いたら村の畑の中で寝ちゃってたんだ」
彼が寝かされていた地面の近くに一枚の紙が置かれていたらしい。
なんて書いてあるのかと大人たちに聞くと、『私の城には来るな、特に昼は注意』と書かれていたとの事。
どうやら昼と夜とでは対応が大幅に違うようだ。
昼間いった子どもたちは行方不明。夜に行った子供達は眠らされて強制送還。
そこに何らかの意図が在るのではとメルメは推測した。
「それでレーナちゃんは捕まってるってワケか~」
「レーナって気が強い所あるから・・・レオルの奴にいい所みせたくて一人で行ったみたいで」
普通は逆じゃないだろうか。
そう思うところあったが、取りあえずおいておく事にする。
(まぁ、レオル君は結構病弱みたいだし)
依頼人の風貌を思い出しレーナの気持ちが少し分からないでもないメルメ。
好きな男の子にいいところを見せようとして、古城に行くあたりレーナは行動力ある女の子のようだと思う。
「ん~じゃ、君、『これ以上あんな城に行ってはダメだよ♪』って友達とかに言っといてくれるかな?」
「うん、いいよ。でも度胸試しが出来なくなるのは楽しみが減っちゃう」
しゅん、とする少年。
確かにこの辺りの村には子供達にとって退屈なのだろうと思う。
この時代、親の言いつけを守らない子供は厳しい躾をすべきという思想があり、実際に行われていた。
親の言いつけを守り続けて自分の「したい」という欲求を押さえつけて生活していた。
そんな環境では子供たちにとってストレス発散の手段である遊びは精神衛生上、大切なモノであった。
とはいえ、あまり遊戯などが無かった時代。
子供たちが出来る遊びはそれほど多くはなかったのだ。
「じゃ、代わりに何か用意してあげるよ」
「お姉ちゃんホントに出来るの?」
少年から疑念の視線が向けられる。
いきなり魔女に攫われた友達について尋ねられ、女の子が解決しようとしていることを察知したようだ。
快く話してくれたものの距離を置いて話されてしまったメルメだったが、その反応も至極当然だと思うので何も言わなかった。
「うんうん、まぁ分かってるよ~・・・んじゃ、これはお礼」
「何なのこれ?」
メルメから小箱を手渡された少年から見れば、ただの古ぼけたオルゴールのように見えた。
開けてみたら確かにオルゴールだった・・・ゼンマイだけがない変なオルゴールであったが。
何やら不思議な文字が書かれてある、ゼンマイが無いという変なオルゴールを渡された少年はどうしていいのか分からず質問する。
「ちょっとした条件を満たすと面白い事が起こるんだよ。この件が解決したら詳しく教えてあげる♪」
しかしメルメは少年の問いかけに明確に答えず、代りに感謝の意を籠めて少年の頬にキスをした。
彼女からしたら気軽なお礼、しかし年頃の男の子にとって気軽にされるものではなかった。
「へ?」
少年はメルメの突然の行動に驚いた。
思わず頬に手を当てる。
顔が火照っていくのが自分でも分かるぐらいなのだから、他人から見たらそれこそ熟イチゴのような顔色だろう。
現にメルメの顔は『してやった』と言わんばかりの表情で笑っていた。
「色々話してくれて有難う。それじゃ~ね~」
突如、メルメ達の周囲に突風が吹く。思いのほか風は強く、無意識のうちに少年は目を閉じていた。
箱を持った少年が目をあけたら、不思議な少女は風と共に去っていた。
青く澄んだ空の遥か彼方の高い所に一つの影が消えていくのを少年は気づかないまま、無意識に小箱を大事そうに抱えていた。
※
話を詳しく聞いた上で、今後どうするかメルメは迷っていた。
連れ去られた人たちを解放するのは問題ない。
ちょっと病弱のきらいがある依頼主のサポートに徹するのも何とかなる・・・というか、してみせる積もりでいた。
(あくまで『手助け』、だもの)
ただ、それには多大な精神的犠牲を払わねばならない。
それにちょっと色々用意しなければ・・・。
メルメはあまり選択したくない方法ではあるが、変態魔女に大変有効であると確信できる上に捕まっている人々も無事に救出できる。
メルメだけで助けるならすぐにでも解決できる自信があるが、それは契約違反となる上報酬が得られなくなってしまう為に出来ない。
(うう、できる事なら相手はドラゴンとかが良かった)
メルメは少々先行き不安になりつつも、情報を集めていった。
念の為にと村の大人たちからも情報収集しているうちに夜も更けてきてしまったので、小さい村なので一軒しかない宿屋(民宿)に泊まる事にした。
案内された小部屋はベットや部屋の手入れなどはしっかりされており、今日はぐっすり眠れるとメルメは大いなる期待を抱いた。
荷物をベットの上で点検していると夕食だといわれたので、下に降りると宿の主人一家と夕食を共にすることになった。
「すみません、突然お邪魔して」
「いんや、別にロクに客がこない宿だからむしろ歓迎さ」
これまで一人で生きてきたメルメにとって誰か、しかも温かい家族と一緒に食事をする事が殆ど無かった。
其の為、唯でさえ美味な夕飯がより美味しく感じられた。
ほんのりと香りを漂わせるシチューの味に魔女は単なる少女となった。
「ホントに美味しいですね~♪」
「ほら、ほっぺについてるわ」
一生懸命頬張って食べているメルメを夫婦は温かい目で見ながら一緒に食事を取っていく。
メルメが夢中になって食べているあまり、口元が汚れてしまっているのを婦人がナプキンで綺麗にふき取ってくれる。
妻が少女の世話をしているのを微笑ましく見守りながら、少女に話しかけた。
「それにしても、君みたいな女の子が一人で来るなんて・・・何かこの村に用事でもあるのかい?」
「はい。教会で修行中の身ですので・・・それに用事もありますし」
「若いのにしっかりしているのね~」
若奥様が感心したように吐息をもらす。
ちょっと照れそうになるが、メルメには気がかりな事があった。
聞いてみるべきなのか悩んだが思い切って聴いてみる。
「すみません、ちょっと聞いても宜しいでしょうか」
「なんだい?」
夫婦は笑顔で応じる。
その笑顔に少女の心が痛みを感じさせる。
その明るさに影を落とすとなると分かっていながらも、一石を投じた。
「隣の部屋はとても綺麗でした。使われていた形跡もありましたし・・・・あの部屋は一体?」
それまでの暖かった空気が途端に凍りつく。
しばしの間、静寂が時を支配していたが・・・
「ああ、それはね・・・私達の子供が使っていた部屋だったからさ」
夫が悲しそうな顔でポツポツと話し始めてくれた。
婦人も泣くまいとしているのだが、一筋の流水がそれを無に帰す。
詳しく聞いている内に分かった事は、
この人の良い夫婦には一人の子が居たらしい。
親に似て容姿は非常に優れていた反面、気性が荒かったらしい。
度々問題を起こし、しかもプライドが高かったのが災いして何者かの手によって底なし沼に沈められてしまったというのだ。
「普通なら死んだと思うけど、時折娘の字で手紙が来るんだ。多分、娘の性格が災いとみなされた神様が私達を哀れんでいらっしゃるのだろうと思う」
夫が悲しみを滲ませながら話す横で婦人は声も出せずただうつむいていた。
その手紙はいつどのようにして送られてくるか全く分からないらしい。
しかし見た事のない上質の紙であることや、捕われている状態なのにわざわざ親の所に要求も書かれていない手紙を送るよう犯罪者はいないだろう。
そのことから、ご両親はそういう状況ではないかと推測しているようだ。
「娘さんからの手紙には何て書かれているんですか?」
「何で私がこんな目にあうんだって・・・反省はしていないみたいだ。反省してくれれば戻ってこれるかもしれないというのに」
「私達には手出しできないの。神様が娘自身が変わらないといけない、そう仰っているから・・・」
そう言って夫婦は悲しげに俯いてしまう。
メルメは夕食を台無しにしてしまったお詫びに、一つの提案をする。
「すみません、辛い話をさせてしまって・・・代わりといってはなんですが」
メルメの口から言の葉が緩やかに紡がれていき、夫婦に一つの希望と言う名の言の葉による協奏曲が送られた。
「・・・・・え、其の話は本当かい?」
「はい、少々そういうのに詳しい知り合いが居ますので何とかなるかと思います。お世話になるのですし、これぐらいはします」
夫婦はしばし思案している様子だったが意を決したように頷きあった。
「君がこんな話の後に冗談言うような子じゃないと思う。だから、よろしく頼みたい」
「通りすがりの貴女に頼むのも申し訳ないけれど、私達はあの子に一日でも早く会いたいのよ・・・本当に御免なさい」
本来では報酬を請求するのがメルメの主義だが、今回の『依頼』は自分がこの夫婦に話させたのが原因。
自分のした事ぐらい責任をしっかり取る、それがメルメの信条だ。
「いえ、構いません。此処に少しの間だけお邪魔します。別件でしなければならないこともありますので・・・・・」
レーナちゃん救出の件と夫婦の子供の件・・・・ これらの解決に向けて思案しながら、メルメはシチューのおかわりを求めそっと婦人に皿を差し出した。
やほーい、やっと続きうpできたwww
といいつつmixiの方で続きを書かないといけないんですが、まだ書いてませんorz