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912話 住みやすくなるといいな



 とりあえずルリーちゃんのアドバイスのおかげで、キリアちゃんもダルマスも今後の方向性は決まったようだ。


 二人はもう少し訓練所に残るというので、私とルリーちゃんは一足先に帰ることに。

 自然と二人きりになるなんて、キリアちゃんもやるじゃない。


 ルリーちゃんはカーバンクルを抱きしめたまま歩いている。


「私で少しでもお役に立てたならよかったんですが」


「二人も言ってたじゃない。充分役に立ってくれたって」


 あまり自分に自信のないルリーちゃん。そんなこと言わずに、もっと堂々と胸を張ればいいのに。

 ……まあ、そんなことしたらその大きなおっぱいがどーんと強調されちゃうか。


 とはいえ、初めて会った時に比べたらだいぶ開けた性格になってきたとは思うけど。


「ルリーちゃんってさ、ダルマスのことどう思ってる?」


「え?」


 私はなんとなく、そんなことを聞いていた。

 ルリーちゃんが驚くのも当然だろう。だっていきなりすぎる発言だったもの。


 それでも、ルリーちゃんはそれ以上驚くことはなく「そうですね……」とつぶやく。


「……まだ正直、怖い部分はあります」


「やっぱりかぁ」


 初対面の時のことを思えば、それも仕方ない。ダルマス視点だとあのダークエルフがルリーちゃんだと気づいてはないけど。


 その後同じクラスになるわけでもなく、顔を合わせるのだってそんなに多くはない。

 印象は初対面のときから変わらず、むしろ好印象になれってのが難しい話だ。


「あんなことがあったんだし、顔も怖いしねぇ」


「顔は……あんまり関係ないですよ」


 ……あんまり、なんだ。


「でも、わかってるんです。別に、あの人が特別なわけじゃない……あの反応が、世間が抱いているダークエルフに対する印象なんです。

 クレアさんだって、私の正体を知った時はすごかったですし」


「……そうねぇ」


 あのときあの場所で、たまたまダルマスにダークエルフだということを見られてしまったから苦手になってしまったけど。

 あの場にいたのがダルマスじゃなくても、似たようなことにはなっていたんじゃないだろうか。


 悲しい話だけど、ダルマスやクレアちゃんの反応が、普通なんだろう。私やナタリアちゃんが珍しいだけで。


「だから、せめて仲の良い人には……って思っても、足がすくむんです。また、離れていったらどうしようって」


 ルリーちゃんだって、隠し事はなるべくしたくないはずだ。仲のいい間柄の子にくらい、真実を話してもいいんじゃないか。

 そう思ってもきっと、すんなりとうまくはいかない。そう、クレアちゃんの反応を見たら思ってしまっても仕方ない。


 気のいいノマちゃんだって、ダークエルフに対してどんな印象を抱いているのかわからないし。


「だから私、私のことを知ってくれてるエランさんやナタリアさんの前では気が楽ですし、それに……この子も、私にとって心休まります」


「きゅー」


 腕に抱いたカーバンクルをぎゅっと抱きしめるルリーちゃんは、すりすりと頬を擦り付ける。


 使い魔と術者の間に、大まかに言ってしまえば隠し事はない。もちろん、知られたくないことは隠せるのかもしれないけど、それだと相手の信頼は得られない。

 そもそもカーバンクルは、ルリーちゃんの魔力に反応して召喚されたんだ。ダークエルフということも、込みで。


 ダークエルフの自分のところに来てくれたカーバンクルに、ルリーちゃんは絶大な信頼を寄せている。


「だんだんと、ダークエルフも住みやすいところになっていけばいいのにね」


 と、私はそうつぶやいた。エルフにとっては、それなりに住みやすい環境になってきているんだろう。

 でも、ダークエルフはそうではない。


 いつかダークエルフも……と考える私に、ルリーちゃんは驚いたように目を見開いていた。


「どうしたの?」


「あ、いや……まさか、そんなふうに考えてくれているなんて思わなくて。嬉しくて。

 ……でも、ダークエルフはもう私とリーサちゃんくらいしか残ってないですし、そんな大きく考えなくても大丈夫ですよ」


「……」


 私とリーサちゃんくらいしか……と、ルリーちゃんは少し寂しそうに笑う。

 ダークエルフは故郷を焼かれ、そこからの生き残りは……わかっているのでルリーちゃん、リーサ、そしてルラン。


 でも、ルリーちゃんはお兄さんが生きていることを知らない。知ったらきっと……喜ぶとは思う。

 でも、彼がやったことを思うと……


「あ、すみません。なんだか、辛気臭い話をしちゃって」


「……ううん、大丈夫だよ」


 一度だけ、リーサにルリーちゃんは会った。多分あの出来事以来の再会だ。

 たいした話もできず、リーサは去っていった。当然、ルランのことは話すことはなく。


 私も久しく、あの二人と会っていない。今どこでなにをしているのか……


「私は、少しだけでも……私のことを知っても、仲良くしてくれる人がいれば充分です。それ以上を望むのは、欲張りですよ」


 それはルリーちゃんの本心だろう。けど、どこか寂しそうにも見えた。

 本当は、正体がバレることを気にせずに、みんなと笑い合いたいはず……でも、そんな未来が本当に来るのかわからない。


 ダークエルフに対するみんなの気持ちは、本能に刻まれた呪いが原因だ……と言っていたっけ。それがなくなれば、少しは状況がよくなるのかな。

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