910話 仲良くなりたいと考えてる
とりあえずキリアちゃん、ダルマスとは解散し、私は寮への帰り道ルリーちゃんに連絡を取る。
学園の端末なら、離れている相手ともやり取りができるから便利だ。
文字を打ち、メッセージを送る。するとすぐに、ルリーちゃんから返事が来た。
……そして翌日の放課後。
「よ、よろしくお願いします……」
昨日と同じ場所、私たち三人に加えてルリーちゃんもいる。
緊張しているのか、ルリーちゃんはカチコチしている。かわいらしいねぇ。
ルリーちゃんからはすぐに『行きます』との返信があった。ダルマスもいることを改めて伝えたけど『エランさんのためなら頑張ります』と健気に返してくれた。
「ルリーさん、あのときのダンジョン以来ですね」
「そ、その節はどうも」
共に平民である二人。もちろん私は平民だ貴族だと偏見を持つつもりはないけど、それでも平民同士気が楽なところがあるのかもしれない。
二人はあのダンジョン以来久しぶりの顔合わせだ。
使い魔授業のときとか、他にも顔を合わせる機会はあったろうけど、こうして話すのは久しぶりだろう。
それから、ルリーちゃんはダルマスを見た。
「……どうも」
「……あぁ」
なんとも気まずい雰囲気が流れている。
それを見てか、キリアちゃんは私に耳打ちをした。
「エランさんっ、あの二人どういうご関係なんですかっ!?」
「どうと言われても……」
私だってよくわかってない。ただ……
「も、もしかして、あ、あの二人つ、つつつ、つ……」
「大丈夫、キリアちゃんが心配してることだけはないから」
「きあっ……へ?」
そう、キリアちゃんが心配するようなことはないだろう。
ルリーちゃんが、ダルマスと付き合っている、というようなことなんて。
あのルリーちゃんがダルマス……というか男の子とお付き合いするのは考えられないし、もしそうでも私なら気づけるはずだ。多分。
「ルリーちゃん、恋愛にあんまり興味なさそうだしさ」
「そ、そうですか」
食堂でたまに、ノマちゃん主導で恋バナをしても、他のみんなと違いルリーちゃんは少し引いた感じだし。
男の子とも、あんまり距離が近いことはないし。
「あの二人は……ま、いろいろあるんだよ」
ルリーちゃんがダークエルフだと知ったら、今のダルマスやキリアちゃんは……いったいどんな顔をするだろうな。
「こほん。それじゃ、ルリーちゃんにいろいろと教わりたいと思います」
私は、パンパンと手を叩いて三人の注目を集める。
今日ルリーちゃんを呼んだのは、ただ楽しくお話するためだけではないのだ。
うなずくルリーちゃんは、魔法陣を展開。その中から、猫のような犬のような生き物が飛び出してくる。
長い耳が揺れた。
「きゅい!」
元気な鳴き声を出して、その生き物はルリーちゃんの頭に乗る。
その身体を覆う毛並みは、鮮やかな赤のようにも青のようにも見える。不思議な色合いをしている。
印象的なのはつぶらな瞳と、それ以上に額に埋め込まれた赤い宝石のようなもの。私の持っている"賢者の石"とよく似た風に見える宝石だ。
「カーバンクルの、ガーネットです」
ルリーちゃんは、カーバンクルの紹介をする。
その仕草は、その辺りを歩いているモンスターと変わりない。けれど、一つ一つの箇所が普通のモンスターにはないものを持っている。
そのかわいらしさに、キリアちゃんは目を輝かせていた。
「わぁー、かわいいー」
おまかわ。
「確かに、かなり懐いているように見えるな」
じっと見つめながら、ダルマスが言う。
魔法陣から出てきて勝手に飛び回ったりせず、主人に生意気な口を聞いたりもしない。自分から主人にすり寄っている。
これだけでも、二人の使い魔とはかなり違う印象を受ける。
ダルマスは、あるいは羨ましそうに見つめていた。
「それで、使い魔とその……仲を深めるにはどのようなことをしたらいいんでしょう」
恐る恐るキリアちゃんが聞いた。
カーバンクルは頭の上でおとなしくしている。これがキリアちゃんのフクロウだったら、数秒とせず飛び立っていただろう。
「どのような、ですか……エランさんにも伝えましたが、これと言ってなにをしたっていうのは……」
うーん、とルリーちゃんは腕を組んで考える。
「あ、でも……この子ともっと仲良くなりたいというのは、常に考えてますよ。
……って、仲良くなる方法聞かれてるのに、これじゃ答えになってませんよね」
「……仲良くなりたい、か」
それは、答えになっているようでなっていないように思える言葉。恥ずかしそうに話すルリーちゃんに、けれどダルマスはしみじみとつぶやく。
そして、少しの間に目をつぶった。
「……いや、案外そういうことなのかもしれんな」
「え?」
「俺は、純粋に使い魔と仲を深めようと思っていなかったかもしれん。そういう気持ちが、使い魔にも伝わったのかもしれないな」
……術者と使い魔は、契約で繋がっている。
術者の考えていることが使い魔に伝わるならば、心の底でなにを考えているのかもきっと伝わってしまうのだろう。
フェニックスはそれを敏感に感じ取っていたのかもしれない。
だとすると……キリアちゃんも、そうなのだろうか?
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