365話 魔族の子供
家の中に入ってきた気配……それが、背後に迫ったのを確認。
私は警戒心を露わに、太ももに差していた魔導の杖を抜き、振り向くと同時に、杖を向けた。
……そこにいた人物に、私は警戒の気持ちが削がれていくのを、感じていた。
「……子供?」
杖の切っ先が向けられた先……そこにいたのは、私よりも小さな、子供だった。
だけど、私が知っている子供とは、外見が異なる。
青色の肌に、目は黒い……瞳は赤色で、とても人間とは思えない。
ボロボロの服を着ていて、短い黒髪を無造作に伸ばしている。
私の、知らない……人間や獣人、亜人でもない。魔族の子供が、そこにいた。
「ひっ……」
子供は、杖を向けられて、攻撃されると思ったのか、小さく声を漏らした。
その様子に、私は向けていた杖を、ゆっくり下ろそうとして……
「おい」
ラッへに、止められた。
「てめえ、まさか相手がガキだからって、油断してんじゃねぇだろうな」
「それは……」
「ガキでも、魔族だ」
鋭いラッへの眼差しは、私を見ていない。目の前の子供を見ている。
言葉では私を注意しつつ、意識はしっかり魔族へ……さすが、油断なんてしていない。
ラッへの言いたいことは、わかる。子供だからって、それだけで警戒を緩めていい理由にはならない。
ここは見知らぬ土地で、相手は話にしか聞いたことがない、魔族。おまけに、私たちの背後に迫っていた。
見たところ、丸腰……でも、素手だって人を害そうと思えば害せる。
「お前、誰だ。私らを襲おうとしたんじゃねえだろうな」
私がいろいろ考えている間に、ラッへが言葉を投げかける。
その言葉には、鋭さがある。いや鋭さしかない。
「っ、お、お前らこそ、誰だ! ここは、ボクの家だぞ……!」
返ってきたのは、怯えながらも勇気を振り絞った、魔族の子供の言葉だった。
それを聞いて、私は思う……その通りだな、と。
ここが魔大陸で、誰かの家である以上、部外者は私たちだ。
逆に聞きたいのはそっちだよなぁ、と。
「ねえ、わりとこの子のほうが正論な気がするんだけど」
「知ったことか」
侵入者は私たちのほうで、この子には正当に怒る理由がある。
けれど、ラッへは敵意を隠そうともしない。そのせいで、子供は怯えている。
相手は魔族だ。とはいえ、この状況でこの子になにができるとも、思えない。
私は警戒を緩めるけど、解きはしない。その状態で、魔族の子供に話しかける。
「ねえ、この村に他に人……じゃなくて、魔族はいないの?」
「おい」
「大丈夫だよ。それに、貴重な情報源だよ」
そう、今の私たちでも、三人いれば魔族の子供をどうとでもできるだろう。
だけど、いきなり攻撃を仕掛けて倒しちゃうなんて、そんな乱暴なことはしたくない。
それどけじゃない。この村で見つけた、村人だ。そのため、なにか情報を持っているはず。警戒はしたまま、警戒されないように……って、なんだかすごく変だけど。
とにかく、話しかける。
「……」
「私たちは、ただ元いた場所に帰りたいだけなの。キミにはなにもしない、他の人にもね。
他に誰かいたら、大人を……それか、地図なんかでもあれば、ありがたいんだけど……」
「……いないよ」
「え」
若干うつむいていた、その子が……ポツリと、つぶやいた。
聞き間違い……では、ないだろうか。そう思って、振り向いてルリーちゃんを見るけど……ルリーちゃんも、驚いた表情を浮かべている。
「えっと……いない、って、どこかに行っちゃった、ってこと?」
「違う……」
魔族の子供は、違う、と首を振る。
だけど、それ以上を話そうとはしない……再びうつむいた、ままだ。
私が何度か聞いても、ラッへがすごみを効かせても。口を開かない。
よほど話したくない理由でもあるのか……わからないけど、わかった。
得たものはあった。この村には、この子以外には誰もいない。魔族と会わなくて、ホッとしたような残念なような。
さて、この子はどうしよう。なんの縁もゆかりも無い、会ったばかりの、魔族だ。でも、誰もいないこの村に、一人置いていく?
それは、かわいそうではないか。だったら……
「! なにか、きます……!」
「なんだ……?」
そのとき、ルリーちゃんが叫ぶ。目を見開き、その表情は少し青ざめている。
同じくラッへも、なにかを感じ取ったようだ。眉を寄せ、尖った耳が小刻みに動いている。
フードに隠れていてわからないけど、多分ルリーちゃんの耳も、同じようになっているだろう。
「! 揺れてる……?」
私は、なにも感じなかったけど……異変はすぐに、伝わった。
地面が、揺れているような感覚……いや、感覚じゃない。静かに、徐々に強く、地面が揺れている!
これは、地震か……?
……いや、それにしては、なんか……うまく言えないけど、なんか"違う"気がする!
「! とりあえず、家の外へ!」
私たちは、飛び出るように家の外へ。魔族の子供も、抱えて一緒にだ。
その直後……私たちがさっきまでいた家が、地鳴りによって崩壊していく。
いや、そこだけじゃない。他の建物も……
「! 下だ!」
ラッへが、叫ぶ……その直後。
目の前の地面が盛り上がり、割れていく。その下から、なにかが現れる。
地面の下に……なにかが、いる……!
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