363話 食べられるのかなぁ
発見した、街……というか近づいてみれば、村らしきところ。近づけば手作り感のある建物がいくつかあるし、誰か住んでいるのは、間違いなさそうだ。
村の外には、誰もいない。ベルザ王国だと、門番とかいたけど……まあ、あっちは国だったし、規模が違うか。
村の周囲は塀で囲われている。ただ、塀といっても木の棒を使った簡易的なもの。あれじゃあ誰でも通り抜けられると思うんだけど……
まあ、塀のない正面入口から行くけどさ。
「ドキドキ……」
「わざわざ声に出すなうっとうしい」
「い、行きましょう」
ルリーちゃんはフードを深く被り、一応準備はオーケー。
外から見ても誰もいない村の中へと、いざ足を踏み入れる。
……入口をくぐったからって、空気が変わる、とかそういうことは、ないようだ。
「お、おじゃましまーす……」
「……誰か住んでた気配はあるが、誰か居る気配はねえな」
周囲を見渡しても、誰もいない。影も形もってやつだ。
誰もいなくてほっとしたような、ちょっと残念なような。
いやいや、油断しちゃいけない。集中集中。
「ま、誰もいないなら好都合だ。飯屋か、食料売ってるどこでもないか、探すぞ」
「ま、まさか盗むの!?」
「飛躍しすぎだろ発想が。ま、誰もいなきゃそうなるだろ」
こっちは生きるか死ぬかの問題なんだ、と、ラッへは周辺を散策し始める。なんか肝が太い。
あれくらい豪胆になったほうがいいのだろうか、と思いつつ、私たちも周辺を見回す。
本当なら、三人分かれて散策したほうが効率的なんだろうけど……未知の場所だ、分かれるのは危ない。
それに、いきなりなにかに襲われた場合。私とラッへは戦えない……ルリーちゃん頼みになっちゃうわけで。
あんまり、離れるわけにもいかない。
「……どうなってんだ、誰もいねえ」
しばらく村の中を見て回って、気づいたことがある。
人っ子一人……いや魔族子一人? ともかく、この村に、魔族は……誰も、いない。
それなりに、広い村だ。誰かが住んでいた形跡も、まあある。
だというのに、誰もいないってのは……どういうことだ?
「もしかして、さっきの鳥に残らず食べられちゃった、とか?」
「なんて残酷なことを言うんだてめえは。
……そこのダークエルフの魔法で倒せる奴に、魔族が遅れを取るとは思わないけどな」
誰もいない……なんだか、ちょっと不穏だ。
とはいえ、誰かに会いに来たわけじゃない。私たちは食料と、可能ならベルザ王国に帰るための手がかりを、探しに来たんだ。
誰もいない理由は後回しにして、今はなにか、実になるものはないか。私たちは別に、謎解きしに来たんじゃないもんね。
村にいた人たちごと、少し前にどっかに引っ越したのかもしれないし。今考えることじゃない。
「……この木の実……? 食べられるのかな」
とある家の、机の上に、木の実らしきものが置いてあった。らしきもの、というのは、周囲に木なんか一本も生えてないので、これホントに木の実か? と思ったから。
でも、見た感じ木の実っぽいんだよな。
薄紫色の、木の実。手で叩くと、こんこんと音がするから、硬そうだ。
ここが魔大陸であるからだろうか、この色は。あんまり食欲をそそる色を、していない。
「とりあえず食えそうなもんは取っとけよ。後でどく……食べてみればいい」
「今毒見って言おうとした?」
「腹が痛くなろうが、食った瞬間に死ぬってことはないだろ」
「今毒見って言おうとした!?」
「見つけたやつが奴が最初に食うってことで」
「私に毒見させようとしてるよね!」
固い木の実とはいえ、割るのは難しくないだろう。最悪魔法を使えばいい。
ただ、おいしいかどうかわからないものに魔力を使うのは、なんだか……もったいないような気もする。
そりゃ、これを食べれば魔力が全快しますよ、っていうのなら、食べるために全力出すけどさ。
……さすがにないよね?
「しかし、他にめぼしいもんはねえな……どうなってんだこの村は」
人……魔族が暮らしていた形跡は、ある。でも、ここには誰もいない。
さっきは、鳥に食べられちゃったって予想をしたけど、それにしてはきれいすぎる。戦闘の跡すらない。
結局、村には特に、手がかりになりそうなものはなかった。
戦利品といえば、この謎の木の実だけだ。
「どうすんだ、それ」
「うーん……食べて、みようかな」
「エランさん!?」
これが本当に食べられるものかは、わからない。でも、見た目がどうあれ、食べ物であることは間違いないはず。
だったらまず、食べてみる。生きるか死ぬかなんだ、好き嫌いは言ってられない。
私は、魔導の杖を魔力で強化し、短剣のようにする。それで、木の実を切るのだ。
さくっ、と刃のようになった杖が入り込み、実を切っていく。
さてと、中身はどんなだろう。
「……毒々しいな」
「……」
割った中身から溢れ出したのは、紫色の液体……いや果汁か。
一気に食欲が失せる色だ。なにこれ、こんな食べ物がこの世に存在するの?
さすがにラッへも、言葉が見つからないようで……ルリーちゃんに至っては、ただただ沈黙。
これを……食べられるのかなぁ?




