355話 遠く離れた場所
私たちが転移の魔石によって、飛ばされたこの場所……ラッへが言うには、ここは魔大陸だという。
魔族が住んでいるという、大陸。そんな場所聞いたこともない。
空の色も違うし、ここは私たちがいたベルザ王国から、遥かに離れた場所であることは、確かだ。
「な、なんで、こんなところに……?」
「知るかよ」
頭の中に湧いた疑問を、口に出す。
けれどそれは、答えを得られなかった。当然だ、巻き込まれたラッへにわかるはずもない。
これがわかるのは、転移の魔石をルリーちゃんだけに使おうとした、エレガたちだけ……もしくは……
「私は知らねえが、そいつはどうだかな。あの人間は、そいつに魔石を使った。いや、むしろそいつだけが標的だったはずだ。
魔大陸に転移させられる心当たり、あんじゃねえか?」
「わ、わかりませんよっ。そもそも、魔大陸なんて私も、初めて聞きましたし」
私と同じ疑問を持ったらしいラッへが、ルリーちゃんに問う。
エレガは、転移先をここと示した魔石を、ルリーちゃんに使った。ルリーちゃんだけを、魔大陸に転移させようとした。
ならば、ルリーちゃんに、魔大陸に転移させられるだけの、なにか心当たりはないのか……そう思った。
でも、その考えは当たらなかった。
どころか、ルリーちゃんも私と同程度の知識らしい。ここがどこか、わからない。
「あぁ? お前エルフ族なのに、魔大陸の存在も知らねえのか。今まで命大陸にいたんじゃねぇのかよ」
「え……?」
「ま、待った待った」
どこか驚いた様子で、ラッへは言う。でも、驚いたのはこっちだ。
いきなり、知らない単語をペラペラ話さないでほしい。
ただでさえ、転移だの魔大陸だので混乱しているんだ。
「あんだよ」
「その、命大陸ってのは?」
「……ちっ!」
聞きたいこと聞いただけなのに。そんな露骨に舌打ちしなくてもいいじゃんか。泣いちゃうぞ私。
「……別に魔大陸だけじゃねぇ。大陸は他にもあるって話だ」
でも、ちゃんと答えてはくれるんだよな。
「他にも?」
「……始まりの四種族のことは?」
「世界の始まりの種族ってやつ? そういう種族がいたって聞いたことあるよ」
「わ、私も」
どこかめんどくさそうにしながらも、ラッへは説明をしてくれる。
ため息はつくし面倒くさそうだけど、ちゃんと答えてくれる。
ラッへが口に出したのは、なぜだか始まりの四種族の話。
大陸と関係なくないか、と思ったけど、そんなことを言ったら怒らせそうなので黙っておく。
「その、始まりの四種族。
"竜族"、"魔族"、"命族"、"鬼族"遠く離れた場所……元々は一つの大陸に住んでたそいつらが、ある事情から種族ごとにバラけ、各種族の住まう大陸を作った。
それらを、各種族の名前にちなんで、竜大陸、魔大陸、命大陸、鬼大陸っつうわけだ」
「なるほど」
ラッへの説明を受けて、私は納得する。ルリーちゃんも同様に。
さっきラッへが言ったのは、こういうことだ。命族……今で言うエルフ族は、命大陸とやらに住んでいる。なので、当然他の大陸のことも知っているはずだ、と。
でも、ルリーちゃんは知らなかった。そういうわけだ。
「そ、そうだったんですか。そういう話、聞いたことなかったで……あ、あれ?
そういえば、ラティ兄がそんなこと言ってたような?」
「…………聞いてなかったんだな」
「あはは」
歴史の勉強は苦手だよね。わかるよ、ルリーちゃん。
それに、ルリーちゃんはラティーアって人のこと好きだったみたいだし。好きな人の方に意識が向いちゃうよね。
「……ちっ。まあ、この話は人族は一般には知らないかもな。
……ただお前は、グレイシア・フィールドの弟子なんじゃねえのかよ」
人族は知らない話……そう、ラッへ直々にフォローされたかと思ったら、いきなり師匠の名前を出された。
師匠に聞いてるじゃないのか、という意味だろう。
確かにエルフの師匠なら、そういう話も知ってそうだけど……
「師匠、抜けてるとこあるから、そういうこと教え忘れたんだと思う」
「……あっそ」
私は、魔導学園入学にあたって、師匠からいろんなことを教えてもらったけど……肝心なこと、教えてくれないんだもんなあの人。
師匠が、あちこちで名を残してるかなりの有名人だってことも、入学してから知ったし。
魔導については結構教えてもらったと思うけど、それ以外は全然だ。
「……ここが、その魔大陸、か……ベルザ王国まで、かなーり遠いってことだよね」
「はい。聞いた限りでは、かなーり」
「……みんな、大丈夫かな」
紫色の、空を見上げる。思い出すのは、転移の直前の光景。
大会中に、乱入者があり……魔獣が暴れ、会場は大混乱。
あそこに、みんないた。ナタリアちゃんも、ノマちゃんも、フィルちゃんも……クレアちゃんも。
みんな、大丈夫だろうか。
「こんな状況で、人の心配ができるたぁ、心優しいこって」
ラッへは、相変わらずというか……
「そりゃ、心配だよ。みんなの無事を、一刻も早く確かめたい……」
「お前な……わかってんのか、魔大陸って場所が、どういうとこなのか。
ここにいる私らの方が、よっぽど危険だ。正直、逃げ切れると思って転移に巻き込まれに行ったのを、後悔してるよ」
魔族が住む大陸……魔族ってのは、名前程度しか聞いたことがない。
けど、多分魔物や魔獣と似た類の種族だ。だとしたら、凶暴なのだろう。
凶暴で、言葉が通じるかもわからない。今は、周囲に人の気配はないけど、いつ誰が現れるか、わかったもんじゃない。
……気配と言えば、さっきからなーんか、妙な感覚なんだよな……
「って、ラッへ、大丈夫?」
「あぁ?」
さっきから、気になっていた……妙な感覚。周囲の魔力が、変な感じなのだ。
それに……本人は強がっているけど、ラッへの額から汗がすごい流れている。
もしかして、どこか怪我をしたのか? それとも、他に理由が?
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