350話 ダークエルフを消す
ダークエルフを"消す"……そう、エレガは言った。
その言葉に、とっさに反応するエランは、魔導の杖を構え、魔法を放つ。火の槍をイメージした、殺傷能力の高いものだ。
放たれたそれは、狙い狂うことなくエレガの顔に向かって……寸前で、打ち消された。
「!」
「おいおい、あぶねぇなぁ……ここは結界の中だが、一部割れてるから効果は機能してねぇ。
つまり、あんなのが眉間にぶちこまれりゃ死ぬ。殺す気だったのか? ビビらせんなよ」
ケラケラと笑うエレガは、その言葉とは裏腹に平然と立っている。
今すぐに、その顔をぶん殴ってやりたい。
ここは結界の中だが、一部割れてしまっている以上、その効力は失われた。
でなければ、クレアがあんな傷を負うこともなかった。
「お前、ルリーちゃんになにを……」
「そっちのクレアちゃんと、ダークエルフ。どっちも助けようってか? 優しいねぇ」
「けど、その優しさが隙だらけ」
激昂するエランの背後で、冷たい声が響く。聞き覚えのある声だ。女の声。
ジェラか? いや違う。これは……
「っぶ……!」
振り向く……と同時、頬になにかがめり込む。これは、つま先か。
どうやら、背後から蹴られた。エランの体は、吹っ飛んでいく。
しかし、強引に地面に踏みとどまり、すぐに顔を上げた。
そこにいた人物は、自分やエレガ、ジェラと同じく、黒髪黒目をした特徴的な人物……
「れ、レジー?」
「よーぉ、あんときぶりだな」
ここにはいないはずの人物。レジーと名乗った女が、いた。
以前、王都内で魔獣オミクロンを呼び出し、甚大な被害をもたらした女だ。運良く、人死には出なかったが。
暴れる魔獣を、ゴルドーラとサテラン教諭に任せ、エランはレジーと対決した。
その際、ルランの介入もあり、捕らえることに成功し……地下牢に、閉じ込めていたはずなのだが。
「ど、どうして、ここに……」
痛む頬を抑えつつ、エランは立ち上がる。
同時に、確信する……予想はしていたが、レジーとエレガたちは、仲間だったのか、と。
それに、よりによってこのタイミングで……
奴らの仲間なら、誰かが助けに入ったのか。
「さぁて、どうしてか、な!」
「!」
考える暇もない。迫るレジーは、身体強化で己を強化し、エランに接近戦を挑む。
とっさにエランは防御態勢を取り、繰り出される拳や蹴りを弾いていく。
それは、エランをその場に留めておくための、時間稼ぎ……ちらっと視線を向ければ、エレガとジェラが、ルリーに標的を絞っている。
足止めで、充分なのだ……ルリー一人なら、どうとでもできるから。
フェルニンたちは、魔獣の対処でそれどころではない。なにより、クレアがあの反応なのだ……ルリーのことすら知らない人が、ダークエルフを助けるために動いてくれるとは、思えない。
そして、クレアは……
「……」
悲鳴を上げ続けたためか、今はおとなしい。しかし、放心している。
ダークエルフ、ルリーの正体、自分の身に起こったこと……それらが処理しきれず、放心してしまったのか。
いずれにせよ、ルリーに迫る危機を、クレアは認識してすらいない。
「っ、この……」
焦る気持ちが、さらにエランの行動力を制限していく。
早く助けに行かなければ。そう思えば思うほど、目の前のレジーへの対処が、遅れてしまう。
さらに、焦りがエランから、集中力を奪っていく。
無論、この程度で魔導が使えなくなる、といったやわな鍛え方はしていないが……
「おらおらどうした! 動きが鈍ってんぞ!」
「っ……」
同じく身体強化の魔法をかけていたエランだったが、本来の実力を出し切れていない。
ただでさえ時間稼ぎに徹しているレジーに、これでは押し切ることもできない。
このままでは……
「よぉダークエルフ。どうだお友達のあんな姿見て……どんな気持ちだ」
「……っ」
「これがてめーら、ダークエルフだ。見てみろよ、あんなになってかわいそうに……クレアちゃんのためにも、おとなしくこの場から消えちまえよ。な?」
「! ルリーちゃん、聞いちゃだめ!」
それはまさしく、悪魔の囁き。
ルリーは、クレアの姿を見る。思い出すのは、彼女から拒絶された事実。
これまで正体を隠してきた。だから、こんな反応をされると、思っていなかった……
いや、本当はわかっていたのかもしれない。自分が、ダークエルフが、思った以上に嫌われる存在なのだということを。
ならばいっそ、消えてしまえば、彼女も自分も、楽に……
「ルリーちゃん!
……っく!」
エランの言葉は、届かない。反応もしてくれないが、なにか良からぬことを考えているだろうことは、わかった。
このままでは、本当に……!
「お……」
ふと、レジーが声を漏らす。それは、エラン自身にはわからない変化。
エランの動きが、よくなってきた……というより、規則性がなくなってきた。こちらからの攻撃を弾くだけでなく、カウンターまで入れてくる。
これは、エランが意識的にやっているのか、それとも……
「……っ」
しかし、それよりもエレガがなにかをしようとするほうが、早い。右手に、なにか持っている。
魔石だ。色のない、透明な魔石……あんなのは、見たことがない。
……いや、ある。いつだったか、グレイシアとの修行の最中、見つけたものが……
「ひひひ、じゃあなダークエルフ。一人寂しく、ここじゃないどこかへ送ってやるよ」
喉の奥から笑い、エレガは手に持つ魔石を、握りしめる。
それを、ルリー目掛けてぶん投げようとして……
「調子に……乗るな!」
「!」
鋭く伸びた、長い足。顔を狙ってきたそれを、とっさに腕でガードする。
じんじんと、痛む。蹴りを放ったその人物……
ラッへが、怒りの感情を瞳に乗せていた。
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