341話 晒された素顔の向こう側
『おぉっと、ついにラッへ選手のフードが脱げ、素顔が明らかに…………えっ!?』
大きく叫ぶ司会の声が、困惑を含む。そしてそれは、司会だけではない。
先ほど、Eブロックの試合とは違い……露わになったラッへの素顔は、今度こそ晒される。
モニターにも映し出され、その顔は会場中へと知れ渡った。
金色の髪、白い肌、尖った耳、緑色の瞳……
「え、エル、フ……?」
場内の、誰かが言った。
その言葉を皮切りに、人々の間に、動揺が広がる。
「エルフ……え、あれが?」
「本で読んだわ、髪の色に瞳の色、それに耳が尖ってるって」
「エルフってあれだろ、大昔に……」
「でも、グレイシア・フィールドってエルフなんでしょ……?」
場内のざわめきに気を取れたのか、魔術が止む。
ざわついている観客……その中心にいるラッへの表情は、なにを思っているのか。エランは、その表情から感情を読み取ることが、できない。
エルフ族……遥か昔に犯した罪により、人々から恐れられ、または迫害されてきた種族。
正確には、罪を犯したのはダークエルフであり、エルフはその飛び火を受けたようなものだ。だが、その事実を知る者が、果たしてどれだけいるだろうか。
また、昨今はエルフグレイシア・フィールドの働きにより、エルフに対する意識は変化しつつある。
安心や恐れではない、その中間のざわめき……それが、今のエルフに対する、考えだ。
『こ、これは……驚きました。ラッへ選手、その正体はなんと、エルフです!
し、しかし、これは……』
エランはこの国に来てから、エルフを見ていない。この国にエルフは、いないのだ。
ダークエルフであるルリーはその正体を隠し、その兄であるルラン等も、姿を隠し生活している。
エルフで、この反応なのだ……ダークエルフが晒されてしまったら、いったいどうなってしまうのか。考えたくもない。
「ほぉ、エルフだったとは」
ラッへのフードを払った、アルマドロン・ファニギースが、興味深そうに告げる。
その視線を受け、ラッへは表情一つも変えない。
「悪い?」
「いや、エルフなど初めて見たな、と思っただけだ」
この国にはエルフはいないし、それは国の外も同じこと。今や希少種なのだ、エルフは。
簡単に見れるような存在ではない。
初めて見た、エルフという存在。試合が、誰の策略でもなく、止まる……
そんな中で、ラッへの顔に、眉を寄せ睨みつける者がいた。
「……なあにお姉さん。なにか、言いたそうだね」
フェルニンだ。
「えぇ。……別にエルフがここにいるのが悪いとか、そもそもエルフに悪感情を持っているとか、そういう問題じゃない」
「それは、どうも」
「それより、気になっていることがある。
……なぜ、彼女……エラン・フィールドと、同じ顔をしている」
「……」
驚愕に震えるフェルニンが紡ぐ、言葉……そして、視線を移す。ラッへも、そしてアルマドロン・ファニギース、ブルドーラ・アレクシャンも。
さらには、会場上の視線が、エランに注目した……そう、エランは感じた。
金色の髪、白い肌、尖った耳、緑色の瞳……それは、エルフの特徴だ。
しかし、そういった"エルフの特徴"を除き去ってしまえば……
そこにあるのは、エラン・フィールドと瓜二つの、顔だった。
『これは、どうしたことでしょうか……!
素顔が表れたラッへ選手、しかしその素顔は、同じく試合舞台に立つ、エラン・フィールドとそっくりです!』
会場のざわめきが、いっそうに強くなる。
黒髪黒目、珍しい特徴を持つ少女エラン。エランと同じ顔をした、エルフ。
状況は、困惑の中にあった。
「なぜ、と聞くか。なぜ私に聞く……?」
「……」
「聞きたいのは……こっちだよ……!
"潰れろ"……!」
フェルニンの問い、それにしばし考える様子を見せたラッへは……その瞳に怒りを宿す。
直後、放たれるのは"言霊"だ。
それは、容赦なく目の前の人物たちに、襲い掛かる。
「っ……」
「ぐぅ……」
フェルニン、エランは、真上から掛かる負荷に体が潰されてしまいそうな感覚に陥る。
倒れてしまわないよう、なんとか踏ん張っている。
一方で、アルマドロン・ファニギースとブルドーラ・アレクシャンは、平然と立っていた。
「……"言霊"を人に向けて放つには、魔力で押しつぶさないといけない。平時の状態なら届かなかった"言霊"も、精神が動揺したおかげであの二人には通じた。
なのに、そっち二人には効いてないんだね」
「あいにくと、やすやす揺らぐ精神力は持ち合わせていない」
「そもそも、私はあの少女のことはよく知らない。キミと顔が似ているからといって、なにを動揺することがある」
"言霊"の効果が、表れている者と表れていない者。なるほど、エラン本人とエランを知っている人物なら、この顔に動揺するが……
そうでなければ、たいした動揺にはならないということだ。
「くっ……あぁあああ!」
押しつぶされそうな感覚の中、エランは必死に抵抗を始める。
相手はエルフだとか、自分と顔が似ているとか、いろいろ気になることはある。だけど、今はいい。
今はただ、試合に勝つことだ!
「ぬ、ぅうううう……!」
「無駄だよ、"言霊"の力からは……」
凄まじい力に、押しつぶされそうだ。しかし、エランは諦めない。必死に抗い、強く、睨みつける。
その瞬間、彼女の体に異変が訪れる。
髪が……彼女の黒髪が、白く変わっていく。
同時に、溢れ出す魔力。それは、破れないはずの"言霊"の拘束をも、破ろうとして……
「! なん、なんだその力……なんだ、その目は……!
なんでお前は、私と同じ顔をして……なんでお前は、私と同じ……!」
「ジ、エンッドゥ」
エランの底知れない力に、ラッへが忌々しげに叫ぶ。
自分と同じ顔をした相手に。そして、自分と同じ……
……そのすべてが言い切られる前に、声が響いた。この場にいる誰のものでもない、男の声が。
パリンッ……!
なにかが、割れる……そう、結界が割れた。
そして、何者かが上空から、降り立つ。包帯で顔をぐるぐる巻きにして、顔を隠した何者かが。
「だ、誰……」
「残念だが……大会は、これにて中止だぁ」
外部からの干渉は、不可能……そのはずの、結界を砕いて。
乱入者が、不敵に笑っていた。




