340話 段違いの魔導士
『おぉ、これは! Cブロックで、ナーダ・デルマニ選手が見せた雷の魔法だぁ!』
「ボックの魔術だぞ!」
客席から、声が飛ぶ。ちなみにナーダ・デルマニの魔術ではない。
しかも、規模が段違いだ。
降り注ぐ雷の柱……それは、ナーダ・デルマニが放ったものとは太さも、威力も、全然違う。
実はラッへも、魔術は無詠唱で使える……しかしそれは、慣れた魔術での話。今回初めて使うものには、やはり詠唱が必要だ。
先ほどの試合で、ナーダ・デルマニが使っていた魔術……それを見ただけで、実際に使いこなせる力が、ラッへにはあった。
「そんなに邪魔したいなら、もろともに吹き飛ばしてやる」
「くっ!」
エラン含め、四人の選手を雷が襲う。
フェルニンは魔法でなんとか弾く。しかし、一つの柱を弾いても、続けざまに放たれるのだ。いちいちすべてを対処は、できない。
各々がそれぞれの対処をする中で、雷の柱が集中的に狙う場所がある。それは……
「うぉおおおおおおおお!」
ダッシュで駆け走り、叫び声を上げるエラン。一歩でも足を止めれば、すぐさま雷に打たれる。
そのあとは、幾つもの雷に集中砲火される。
……この雷の魔術。実は一本一本は、元来の魔術の威力とはいかない。この魔術はあくまで"降り注ぐ雷の柱"という魔術なのだ。
なので、一応魔法でも対処できないことはない。一本や二本なら。
しかし、降り注ぐものが幾本もの柱となれば、話は別だ。おまけに、魔術は大気中の魔力を使うため、精神力が続く限りガス欠はない。
「ぅわっち!」
「逃げてばかりか、エラン・フィールド!」
降り注ぐ雷とはいえ、そのすべてがただ単に降り注いでいるわけではない。ある程度は、術者がコントロールできる。
今エランが集中的に狙われているのが、その証拠だ。
足元に雷が落ち、飛び跳ねる形でエランは顔面から地面に着地。
ある程度のダメージは無効化される結界内でも、ある程度以内のダメージはそのまま適応される。
顔を押さえて悶絶したい気持ちを抑え、すぐさまその場を離脱。雷が、降り注ぐ。
「逃げるなエラン・フィールド! そんなものか!」
「そんなこと言ったって仕方ないじゃん!
……なぁんて」
逃げる、逃げる、逃げる……しかしエランの狙いは、ただ逃げるだけにはない。
あっちこっちに逃げ回っていたのは、撹乱するため。本当の狙いは、逃げるふりをして術者を叩くこと。
魔法も魔術も、魔導そのものを打ち消す以外ならば、術者を倒せば消える。
まして、必要以上に精神力を使用する魔術ならば、少し切り崩すだけで充分だ。
「覚悟ぉー!」
「だろうと、思ったよ」
飛びかかるエランに、ラッへは口元を歪ませた。フードに隠れて、その姿は見えない。
直後、エランに向かって魔法が放たれた。とっさのことにエランは、ギリギリ体をひねってかわすので、精一杯。
ラッへを狙っていたその思惑は外れ、着地する。
今のは、魔法だ。ラッへは目の前にいる。ならば、他の選手か。
フェルニンか、アルマドロン・ファニギースか……
「! あー、そういうことか」
誰にせよ、警戒は怠らない。目の前のラッへに注意を向けつつ、視線は魔法を撃ってきた術者へ。
そこに立っていたのは……ラッへだ。
二人のラッへが、エランの視界の中にいた。本来ならば、ありえないこと……しかし、魔導がそれを可能にする。
しかも、エランは実際にやったことのある魔法だ。
「分身魔法か」
「そういうこと。……足、止めていいの?」
「おわっ!」
ラッへが二人いる理由……それは、分身魔法に他ならない。
片方が魔術を放ち、片方が今エランを狙って魔法を放った。魔術を放ちながら器用なことだ、とは思ったが、実際エランは分身魔法での二重詠唱を行った。
相手がなにをしても、不思議ではない。
そして、実感する……分身魔法の、その厄介さを。
「ピギュアァ!」
「ウォーリー!」
アルマドロン・ファニギースの使い魔、ウォーリーが雷に打たれ、撃墜される。空を飛ぶ鳥は、かっこうの的だ。
あちこちに落ちる雷が、次々と選手たちの退路をなくしていく。
元々逃げ場などない舞台上だ、逃げる場所もそう多くはない。
ならば、それぞれの思惑は一つ……ラッへ本体を狙う。
しかし、本体を守るように、立ちふさがるのは分身体だ。
「おのれ、ウォーリーの仇だ!」
「あ!」
足踏みすることなく、立ち向かうのは使い魔をやられた、アルマドロン・ファニギース。彼はその巨体からは考えられない速度で、ラッへの懐へと潜り込む。
が、それを読んでいたのか。目の前に来たアルマドロン・ファニギースの眼前に、手のひらが突きつけられていた。
魔力の流れを制御できるラッへに、杖は必要ない。ゆえに、手のひらから遠慮なく、魔力弾が放たれる。
もっとも、この距離からなら制御が効かなくとも、放って問題はないが。
強烈な魔力弾と、正面衝突……する未来は、しかし訪れない。
「っ?」
放たれた魔力弾……しかしそれは、アルマドロン・ファニギースの顔面には当たらなかった。
それはなぜか。魔力弾をかわしたから……ではない。
魔力弾が、止まっているからだ。
「これは……」
「せい!」
その光景に、ラッへがあっけにとられる。その一瞬の隙を狙い、アルマドロン・ファニギースはラッへの分身体を投げ飛ばす。
邪魔者がいなくなり、続いて本体へと手を伸ばして……
「っづ……!」
のけぞるラッへの、フードに指先が触れ……その素顔が、露わにとなった。
美しい金色の髪、白き肌、尖った耳、そして緑色に光る瞳……
その特徴を持つ存在は、一つしかいない。
「エルフ……?」
誰かが、つぶやいた。
さらに、驚くべきは……ラッへの顔だ。その顔は、ある人物にそっくりだった。
「わ、私……?」
そう、エラン・フィールドに。
――――――
「……エルフ、見ぃつけた」
エルフの存在に、ざわめく会場……そんな中、観戦席にいたある人物が、エルフの存在に、にやりと笑みを浮かべた。
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