334話 その素顔に隠された秘密
"魔人"であるノマを一気に倒してしまおうと、魔力を溜めていたラッへ……しかし、その動きが止まる。
否、止められた。
自身の動きを止めた要因へと、ラッへは振り返る。なんとか、振り向くことくらいはできる。
そこにいたのは、額に三つ目の目を開いたシルフィドーラ。その力こそ、三ツ目族の能力の一つだ。
「三ツ目族は珍しい種族だから、力の詳細は謎に包まれてる……体の拘束を奪うのが、その目の秘密?」
「ふん、話すわけがないだろう」
「そうだね」
これがあの目の力であることに、違いはない。だが、それが種族としての能力だろうと、魔力によるものだとしても、どちらでも変わらない。
なにが相手だろうと……やることは、変わらないのだから。
「……っ」
次の瞬間、ラッへから一気に魔力が吹き出し……拘束が、強制的に解除される。
力を破られたことにシルフィドーラは驚愕し、その隙をついてラッへは魔力弾を撃ち込む。
シルフィドーラは次なる動きを見せようとしていた……それを、事前に防いだ。
なにをやるつもりだったのか、興味がないわけではない。だが、珍しい種族だからといって、わざわざ待ってやるつもりもない。
「せやぁあああい!」
「わざわざ声上げたら、後ろから仕掛ける意味ないじゃん」
「どうせ、魔力の動きはわかっているのでしょう!」
ラッへの背後から、勢いの強い掛け声が。同時に飛び上がるノマは、魔力を纏った右拳を振り落とす。
寸前に展開された魔力防壁、それと拳とが衝突し、激しい風圧が生まれる。
展開された魔力防壁は、ピシッ……とヒビが入る。眉を寄せるラッへは、その場から後ろへと飛び、離れる。
その直後、魔力防壁は砕ける。
「だんだん力が増してる、か」
冷静に分析し、追撃してくるノマに反撃。拳が、蹴りが、互いへ向かって放たれる。
その余波に巻き込まれ、残る選手も吹き飛ばされ……
ついに舞台上には、ノマとラッへの二名だけが立っていた。
『残るはついに二名! 魔導学園生徒ノマ・エーテン選手! 対するは、謎の参加者ラッへ選手!
どうやら戦況は、徐々に傾いてきている模様!』
「くっ、ぅあ……」
傍目からは、両者の戦いは互角に見えていた……しかしそれは、次第に素人目にも、戦況が傾いてきていることを理解させる。
そう、ラッへ優勢へと。
"魔人"であるノマに、半端な攻撃は通じない。その硬さを持ってして、ラッへの攻撃を防ぐことはできない。
「く、ぅ! とりゃ!」
「"消えろ"」
殴り合いの勝負では敵わない。ならば魔導で、と思い魔法を放つが、それは言霊により打ち消される。
ノマの放つ手段が、一つ一つ消されていく。
このまま、ただ一方的に負けてしまうのか。どれだけ努力しても届かず、事件に巻き込まれた副産物でたまたまこの力を手にして、それでも……
まだ彼女には、届かないのだろうか。
「エラン、さん……」
この試合に勝ち、決勝をエランと戦う……その思いは、どうやら叶いそうにない。
こんな体たらくでは、エランにはまだまだ、追いつけない。
自然と、彼女の名前が口に出た。その瞬間……
「っ……」
ラッへは歯を食いしばり、ノマを睨みつける。伸びる手は、ノマの首を掴む。
そのまま、地面へと打ち落とそうとして……
「ぐ、ぅ……」
せめて……最後の悪あがきで、ノマはもがき、暴れる。
それが鬱陶しくて、ラッへは首を絞める手に、力を込めて……
「あっ、ぐ……!」
苦しみに喘ぐノマ。しかし最後まで、その目は死んでいない。勝てないだろうとわかりながら、せめて最後まで足掻いてやる。
エランだって、ゴルドーラとの決闘では、あんなにも足掻き、最後まで戦ったではないか。
ノマは、暴れ、もがいて……目の前に見える頭へと、思い切り頭突きをする。
「っ、つ……」
ゴンッ、と鈍い音がして、少しラッへが後退りした。ここにきて、ついに攻撃が当たった。
早く、距離を取らないと……そう考えるノマは、ラッへの手を引き剥がそうとする。
……しかし、次の瞬間には動きが止まってしまう。止まってしまった。
「ぇ……」
目の前の……露わになった顔に、たまらず息を呑む。
頭突きをした影響で、フードが捲れたのだ。ノマは目の前にある、ラッへの顔を見ることになる。
金色の髪、緑色の瞳、尖った耳……思っていた通り、エルフだ。それも、おそらくは女……見た感じ、ノマと同い年くらい。
もっとも、エルフ族は見た目と中身の年齢が合わないが。
しかし、ノマが驚いたのは、エルフという予想が、当たっていたからではない。
……そこにあった顔が、見知った顔にそっくりだったから。
「……エラン、さん……?」
ラッへ……彼女の顔は、エルフ族の特徴だ。彼女がエルフであることに、間違いはない。
問題があるとすれば、ラッへの顔が、ノマにとっておまりに身近な人物だったということ。
こんなギリギリの状態でも、視線を外せない。……ラッへの素顔が、エランにうり二つだったからだ。
「……っ!」
それを指摘された瞬間、ラッへは怒りに瞳を燃やし、力任せにノマを地面へと叩きつける。
さらに、抵抗できないノマに、至近距離から魔力エネルギーをぶつけるという、おまけつきで。
「……かっ……」
さすがのノマも、こんな距離から攻撃を受けては、なす術はない。
ついには気を失い、それを確認してラッへは離れる。フードを被り直し、その顔を再び隠して。
『け、決着ぅー! Eブロックの試合、ここに決着しました!
最後まで立っていたのは、ラッへ選手! 決勝へ進むのは、ラッへ選手です!』




