331話 エルフと三ツ目族と魔人
「……なるほど、キミ、"混じってる"のか」
「その目……」
ノマと、フードの人物の視線が交錯する。
得体の知れない人物だ。試合開始三十秒で、すでに選手の四分の三が倒れた。
それをやったのは、この人物……
「これは、さぞや名のある魔導士の方と、お見受けしますわ」
警戒を解かぬまま、話を続けたまま、ノマは考える。今この人物は、混じってる、と言った。
ノマにとって、その言葉が意味することは……自分の魔力と魔石の魔力が混ざり合い、"魔人"と言う存在になったこと。
それを、見ただけでわかるとは……一瞬見えた緑色の瞳は、見間違いではなかったようだ。
エルフ族には、魔力を見る目がある、と聞いたことがある。おそらく、ノマの体内を流れる魔力を見て、判断したのだろう。
相手は、エルフ。ならば、ノマが知らない魔導を使っている可能性は高い。エルフ族は、魔力との相性がいいらしいから。
……そもそも、今のは本当に魔導なのか?
「お褒めの言葉どうも。さすがに、一筋縄じゃいかなさそうだ……
それに、キミも」
「!」
振り向くフードの人物……エルフが指した先には、一人の男が立っている。
シルフィドーラ・ドラミアスだ。彼は額に汗を滲ませながらも、その場に立っていた。
その額には……目が、開いていた。
人についている目とは、別の目。額に開いた、第三の目……
「なるほど、"三ツ目族"か。珍しい獣人……いや亜人かな? まあどっちでもいいか」
一つ、二つ、そして第三の目を持つ三ツ目族。その目には常人ならざる力が備わっていると言われているが、三ツ目族は珍しい。
ゆえに、長寿のエルフであっても、その力は把握できていない。
「なるほど、エルフ、か。
……あっという間に、四分の三も倒してしまうとは……すさまじい速さだな」
だが、今のやり取りでわかった。あの三ツ目は、エルフの"魔眼"のように魔力の流れを見る力がある可能性があること。
そして、目がすさまじくいいのだろうということ。
「お褒めの言葉どうも」
「でも、わたくしたちにとっては好都合ですわ。どのみち、一人しか勝ち残れませんもの!」
体内の魔力を起こし、頭の中にイメージを固める。
腕を伸ばし、人差し指をエルフへと伸ばす。指先に魔力を集中し、作り出すのは弾丸のような魔力の塊。
それを、撃ち込んでいく。一発だけではない、連続して幾弾もをだ。
"魔人"の体となったノマ、以前に比べて魔力の量も、質も、確実に上昇した。ノマはまだ魔術を使えないが、魔術持ちにも対抗できうる武器になるほどに。
放たれた弾丸、それをエルフは棒立ちのまま、避ける素振りもない。ただ、腕を伸ばして……
……魔力の塊を、叩いて吹き飛ばした。
「!」
それを見て、ノマは驚愕する。魔力の塊を、叩き飛ばす……それがどれほど難しいことか。
魔力を伴った拳で相殺する、打ち消すならばまだわかる。だが、叩いたのだ。
それは、どれほど精密な力加減で、魔力の塊を手で弾いているのか。
しかも、弾かれた魔力の塊は、残っていた選手へとぶち当たる。
「ぐぁ!」
「ぎぃ!?」
予想もしていなかったところからの攻撃を、もろに受けてしまい……次々選手は倒れていく。
ならばと、エルフの後ろからシルフィドーラは行動に移す。意識はノマに集中しているはず。
魔力を高め、作り出す風の刃。それを、自在に放っていく。
後ろから、刃に裂かれて隙が生まれたところを、魔術で一気に……
「私をエルフと判断したなら、魔力を起こすのは失策だね」
しかし、エルフはシルフィドーラに背を向けたまま、話す。
そして振り返ることもなく……少し体を動かしただけで、複数の風の刃をかわしたのだ。
「な、に……!?」
「こんなの、後ろ向いても対処できる」
魔力が見えるのは、エルフの"魔眼"によるもの。しかし、見えるのは目だけでも、魔力は体全体で感じられる。
たとえ目をつぶっていても、魔力の流れはわかる。
それを確認し、ノマは魔力弾を放つのを中断。このまま撃ち続けても、いたずらに魔力を減らすだけだ。
もちろん、撃って弾かれたものが他の選手に当たっているから、まったくの無駄ではないのだろうが。
「遠距離からの攻撃が、当たらないのなら……!」
遠距離攻撃は弾かれ、避けられる。ならば、近距離攻撃に切り替えるまで。
ノマは足を魔力強化し、一気に距離を詰める……ことを考えたその時。
「おぉおおお!」
「!」
一人の男が、エルフ族に斬りかかる。振り下ろされた刃は、しかしエルフを守る魔力防壁に阻まれる。
男……冒険者ガルデは、ぐぐ、と手に力を込める。
「っんだこりゃ、びくともしねぇ……!」
「あなた、魔力は使えないんだ。よくさっきので倒れなかったね」
「あぁ!?」
やはり、試合開始直後になにかしたのはこいつか……と、ガルデは睨みつける。
フードに隠れて表情は見えないが、声色から女だろうか。
一旦剣を引くが、続いて連撃を繰り出す。
それでも、ただ鋭い音が響くのみで、魔力防壁を破ることはできない。
「無理だよ。そんなんじゃ、私の魔力は超えられない。お兄さん強そうだけど、それは魔力なしの人間の中ではの話……」
「魔力があるだのないだのと、うるせえな! 同じ魔導士でも、エランちゃんとは大違いだ!」
「……なに?」
ガン、ギン、と音が鳴り響く中、エルフはピクリと眉を動かした。当然、その仕草はガルデたちには見えない。
見えないが、動揺していると、察した。
その理由は、わからないが……
「俺の知ってる子は、魔力があるだのないだのでグチグチ言わない、優しい子だ。
魔導士ってやつは魔力がないからって人を見下すやつもいるが、あの子は違う。あんたとは違って、な!」
連撃の後、大きく振りかぶる。それを、渾身の力を込めて振り下ろして……
「……そう。お兄さん、あいつの知り合いなんだ」
「……っ」
瞬間……ガルデの背筋を、冷たいものが走る。いや、ガルデだけではない。
ノマも、シルフィドーラも……離れていても、感じるこの寒気は……
パキンッ……
「は……ぐっ!?」
次の瞬間には、ガルデの剣は折れ……その首は、伸びてきた手に掴まれ、体を持ち上げられていた。




