329話 いざ決着のとき
イザリの放つそれは、剣技と魔術を織り交ぜたもの。
火の属性を持つ魔術の力を、魔導剣に集約させることでそれを『魔剣』とする。
炎を彷彿とさせる魔力は刀身に纏い、銀色の刀身を赤く染める。
エランには、わかった……あの刀身の部分に、魔力がほとんど注ぎ込まれていることを。
イザリはそれを、火の型と言った。おそらく、魔術の属性だけ……水の型、風の型、土の型が存在するのだろう。
これまで、グレイシアの下で、様々な魔法を、魔術を見てきたエラン。彼女は、ただ笑っていた。
まだまだ、自分の知らない魔導が、あるのだと。
「はぁああああ!」
迫るイザリは、一直線にエランを狙う。
炎のような魔力は、ごうごうと揺らめき、まるで狼の牙のような鋭さを持っている。
いや、剣だけではない……まるで、イザリ自身が、魔力の塊だ。
ほとんどの魔力は剣に、そしてイザリ自身にも。身体強化に近いが、それとは違いを比べるまでもない。
圧倒的な力は、まだ距離のあるエランさえ燃やしてしまいそうだ。
「きっひひ、いいよ! じゃあ私も……!」
迫るイザリの姿にエランは笑みを深め、己の中の魔力を高める。
先ほどから、いやに気分がいい。高揚している。体もなんだか、軽い。
魔術に対抗するには、魔術が有効だ。ゴルドーラのように魔術に対抗できる使い魔はいないし、ヨルのように魔力を吸収することもできない。
しかし、今のイザリを前に、のんきに詠唱していれば、魔術を放つ前に斬られる。
ならば、イザリが構えている間に魔術詠唱をすればよかった……?
……なぜだろう、エランの頭の中に、その考えは存在しなかった。
「きひひ……たーのしいなぁ!」
己の中で高めた魔力……それを、全身へと行き届かせる。全身強化の魔法だ。
下手な魔法で対抗するよりも、これが一番有効だ……なぜだか、そう感じた。
そして、魔導の杖を構えて……魔力を送る。
剣をイメージし、杖を剣代わりに。先ほどと同じこと……しかし、先ほどとは力が、大きさが、まるで違う。
「おぉおおおおりゃああああああ!!」
「せやぁあああああああああああ!!」
ついに眼前にエランを捉えたイザリは、横薙ぎに魔剣を振るう。一太刀通れば、それを受けた者は戦闘不能に陥るだろう。
対してエランも、杖を振るう。強大な魔力と魔力とが、ぶつかり合う。
互いの力は拮抗……イザリの魔術と、エランの魔法は押しも押されもせぬ、一進一退の攻防を見せる。
『お互いの力と力が、ぶつかり合っています! なんというすさまじい力でしょうか!』
長いようで、しかしそれはほんの一瞬の出来事……
エランから漏れ出す魔力は、留まるところを知らない。全身に巡らせた魔力が活性化し、杖に纏う魔力はさらに強大に。
白く染まった髪が揺れ、黒い瞳は目の前のイザリを映し出し、ニッと笑みを浮かべて笑う。
力を込め、イザリの魔剣を押し切る……さらには、がら空きとなっているイザリの横腹へと、つま先を突き刺した。
「っ、ぐぅ……!」
エランの鋭い蹴りが、イザリから苦悶の表情を引き出す。それが一瞬の隙となり、エランは腕を振るう。
魔剣は弾き飛ばされ……くるくると空中を舞った後、地面へと突き刺さる。
そして……多大な精神力を使い果たしたイザリは、その場に膝から倒れた。
普通に魔術を使うだけでも、並の精神力ならば一発撃てて限界だ。それを、魔導剣と組み合わせ、魔剣と成すにはどれほどの精神力を必要とすることだろう。
それも、イザリはこの試合で、初めてこれを試みて、魔剣を成した。しかし、まだまだ、完成には程遠い。
『き、決まったぁー! Dブロック試合、最後はこれまでにもない白熱のぶつかり合いを見せてくれました! それを制したのは、エラン・フィールド選手ぅううう!』
「うっはっはー!」
試合終了を知らせる声に、エランは両腕を掲げて応える。
会場からは、割れんばかりの拍手と歓声が。それを受け、エランは吠えるように笑っていた。
倒れた選手を運び出し、歩ける選手は自分で会場の外へ……
「あー、たのしかったー」
先ほどまでの熱を、エランは思い出して笑う。様々な選手との打ち合い、魔導剣士の見たこともない魔導。
勝ち上がった後の決勝では、もっとすごいものが見れるだろうか。
残すは、Eブロック……戦いの様子を見つめていたノマは、ふんと鼻を鳴らした。
「フィールドさん、すごいですわ……わたくしも、やりますわよ!」
次に試合が控えていなければ、直接試合を見たかったものを。モニター越しでこれなら、直接ならばもっと熱くなれたに違いない。
先ほどから、体がウズウズして仕方ないのだ。
選手たちは、会場内へと戻っていく。
……ちらと見えたエランの、白く染まった髪は、いつの間にか黒に戻っていた。
「なんだったのでしょう」
髪の色が変わるなんて、不思議なこともあるものだ。
なんにせよ、エランが勝ち上がったのだ。自分も勝ち進み、決勝でエランと戦おう!
そんな、気合いを入れたノマとは別に……集中力を高めている、魔導学園生徒会所属シルフィドーラ・ドラミアス。
同じ生徒会ではあるが、エランのことを認めてはいない。決勝で戦い、完膚なきまでに叩き潰してやる。
さらには……エランの戦いを映していたモニター。それをじっと見つめる、フードを被った人物がいた。
……波乱のEブロックが、始まる。




