313話 うっとうしかった
他人の魔力を吸収する。
触れた相手の魔力を吸収するというのなら、わかる。しかしヨルのそれは、触れていない者から魔力を吸い取っているのだ。
それは、ゴルドーラにとっても初めて見るものであった。周りの魔力を吸収することで、必然的にヨルの魔力も増していく。
剣の形を模した魔力は、どんどん威力が上がっていく。杖に魔力を纏わせない理由の一つがこれだ。
一部に魔力を纏わせるよりも、全体が魔力であったほうが、力の上昇率は上がる。
ヨルの魔力が増していく事実に、ゴルドーラは小さく舌を打つ。直接打ち合っているゴルドーラが、一番ヨルの力に気づいている。
「なあ、なんかゴルドーラ様押されてないか?」
「えぇ? どうしたんだろう」
観戦席にいる者たちは、魔力を感じる力が弱ければ、ヨルの力のカラクリに気づかない。単に、ゴルドーラが押され始めたと思うだけだ。
一方、そうでない者は、ヨルの力の凄まじさに気づき始める。
それは、試合をじっと見ていたエランも同じ。
「ゴルさん……」
Bブロックの試合、先ほどのAブロックと同じく強い者は多いし、最後にどんでん返しの可能性もある。
それを考慮しつつも、最終的に勝ち上がるのはゴルドーラだろうと、彼女は思っていた。
しかし、百名近くいた参加者の中で、舞台に立っているのはもはや十名を切っている。
そのほとんども、サラマンドラを倒そうと奮闘している。実際に戦ったエランだからわかるが、あれは単体でも並の魔導士では手も足も出ない。
そのサラマンドラとは別に、ゴルドーラと一対一で戦っているのが……ヨルだ。
「あいつ……」
エランは小さくつぶやく。ヨルに関しては、正直いい印象なんてない。
初対面でありながら、いきなり迫ってきたのだ。しかも、イセカイがどうのメガミがなんだと、わけのわからないことを言いながら。
ぶっちゃけ怖かった。
その後は、なるべく関わるまいとしていたが……クラスの代表者になってしまい、週一の代表者会議で顔をあわせるハメになったり。廊下ですれ違ったり。
その度にやたらと馴れ馴れしく話しかけてくるのだ。うっとうしかった。
しかも、学園で二人しかいない黒髪黒目という特徴から、一括りにされることも多くその度に神経が逆なでされたものだ。
「わぁ、ヨルさん……でしたか。フィールドさんと同様、組分けの際に魔導具を壊した方ですわね」
「……それも忘れられないよねぇ」
組分けの際の出来事から、エランとヨルが注目されるようになったもの大きい。
それは、おそらく二人の特徴以外にも、名前が印象的だったからだろう。一人は、グレイシア・フィールドと同じ家名……そしてもう一人は、家名を持たない平民だ。
なので生徒の間では、エランとヨルがよくよくセットで話されたりする。
腹立たしいことこの上ない。
「入学から半年以上経ちますのに、まだヨルさんがお嫌いですの?
殿方に話しかけられるなんて、女性としては嬉しいではないですか」
「そりゃ、ノマちゃんの場合はイケメンばっか寄ってくるじゃん。目の保養になるってもんだよ。なにより、初対面で迫ってなんて来ないしわけのわからないことを言いもしない」
「イケ…………そんなに気に入らない相手なら、もういっそ突き放してしまえばいいですのに」
「うーん、今までは冷たく当たってきたのにめげなかったからなぁ。
……まあ、あいつが高い魔力持ってるってのは、興味はあるけど」
本当ならば、一度席を共にしてお茶を飲みながら、お互い魔導について語り合いたいものだ。ヨルがあの性格でなければ。
正直、エランは同級生で自分ほどの魔力を持っているのは、ヨルかナタリアくらいだと思っている。
決して自惚れるわけではないが……そう、自負はある。
もちろん、魔力の量だけでその人の価値観まで決めるわけではない。ダルマスのように、エランにはない技量を持っている人だっている。
向こうから話しかけてくるので、話をしようと思えばできるのだが……エランはどうも、気乗りしない。
ルリーと同じクラスであるため、ルリーにちょっかい出していないかと思っていたが、そこは心配ないようだ。
「それで、フィールドさんはこの展開をどう見ますか?」
「うぅん……」
エランの心情としては、ゴルドーラに勝ってほしい。そして自分も勝ち上がり、もう一度戦ってみたいのだ。
学園では、一対一をするには決闘を申し込む方法がある。もちろん、同じ相手にまた挑んでも構わない。
だが、さすがにエランも弁えている。王族に決闘を挑むことの意味を。周りも、もう許してはくれないだろう。
なので学園で戦うことはできない。手合わせという意味なら別だが、エランが望むのは本気の戦い。
この大会は、それを実現するのに最適なものだ。
一方で……現状有利なのは、ヨルだ。ヨルの魔力は、時間が経つに連れ膨れ上がっていく。
気絶していても、人には魔力が流れている。血が流れているのと同じように。
「あのままヨルの魔力が上がり続けたら……さすがのゴルさんでも、ヤバいと思う。
下手したら、ヨルの魔法が魔術級の威力に、なんてことにもなりかねない」
「ですわねぇ。ゴルドーラ様も、フィールドさんと同じように何発と魔術を放てる魔力と精神力がありますが……」
「それでも、消耗はする」
「あ、コロニアちゃん」
隣に、先ほどの試合を終えたコロニアが並ぶ。
二人に向かって、コロニアは「やほ」と手を振った。
「試合、残念でしたわね」
「うーん、まあ仕方ないよ。
それよりも今は、お兄様の試合でしょ」
気にしていないのか、それとも強がっているのか……コロニアは早々に、話を目の前の試合へと戻す。
「魔法と魔術が同威力になったとき、不利なのは魔術だよ」
「詠唱の時間、だよね」
「ん」
そう、魔術には詠唱が必要だ。ゆえに魔術は魔法よりも高い威力を持つ。極めたものならば、一の魔術で百の魔法を消し飛ばすこと可能だろう。
魔術は魔法よりも強い。これは絶対の理だ。
だが、ヨルの力はその理をひっくり返す。他人の魔力を吸収し、己の魔力を高める。
「普通に考えれば、一人二人の魔力を吸収したところで、魔法が魔術に迫ることなんてないけど……」
「百名にも及ぶ魔力を吸収すれば……」
「……ん」
なんと、恐るべき力だろうか。世界の常識すらひっくり返す、それがヨルの力だ。
その事実に、ゴルドーラが気づいていないはずもない。なので、早く勝負を決めようとしているはず……
しかし……
「ぁ……」
エランたちの見ている前で、状況は動く。
杖と剣、二つの魔力がぶつかり合い、拮抗を見せていたが……ついに、ガキンッと音を立てて、宙を飛んだ。
……ゴルドーラの杖が、弾き飛ばされていた。




