312話 魔力上昇のカラクリ
「せい!」
「っ!」
振るわれた刃を、ゴルドーラは杖で受け止める。その杖には、ゴルドーラの魔力が纏っている。
魔導の杖に、魔力を纏わせ剣のように振るう。これも魔力強化の一種で、これはほとんど誰もが使う方法だ。
身に持っている魔力を、意識して体に流すか杖に流すか……それだけの違いだ。
極論を言えば、棒状のものであれば杖でなくとも、魔力を流し込めば剣のように振る舞うことはできる。要は魔力の質の問題だ。
しかし、その身に纏う魔力を一つに収束させ、それを剣のようにするなど……よほどに膨大な魔力がなければ、できる話ではない。
魔力で剣のように強化したのではない。魔力そのものが剣となったのだ。
「なるほど、すさまじい魔力だ」
「お褒めの言葉どうも!」
他の参加者の相手はサラマンドラに任せ、ゴルドーラはヨルに向き合う。
百一名が入り乱れていた乱戦は、すでにほぼこの二人の戦いへと変化していた。
ヨルは自ら積極的に踏み出し、ゴルドーラに反撃の隙を与えまいと猛攻を繰り出す。
なるほど剣の形を模した魔力を使うだけあって、ただ闇雲に振り回しているだけではないらしい。
それでも、ゴルドーラにとってはまだ余裕がある。
「爆ぜろ!」
「!」
しかし、それも束の間。
斬りかかると見せかけたヨルは、魔力を手放す。直後、魔力が大きく膨れ上がった。
剣の形をした魔力は、二人の間で宙に浮き……落下すると同時、大きく膨れ上がる。同時にヨルは後ろへと飛び退いた。
それがなにを意味するか、ゴルドーラにも理解できたが……出遅れた。
ドッ……
爆ぜろ……その言葉の通りに、魔力は膨らみ、爆発した。
先ほどのゴルドーラの魔術のような規模ではさすがにないが、近くにいれば大怪我は免れないだろう威力。
結界内では、一定以上のダメージ……例えば死に直結するようなダメージは、無効化される。代わりに、疲労などといったものは無効化されずそのままだ。
一定以上のダメージは無効化……それは逆に言えば、一定以下のダメージは無効化されないということ。
「くっ……」
ゴルドーラは後ろへと飛び退くが、激痛にたまらず声を漏らした。
とっさに、右腕を前に出し、体を庇った。結果として、顔や体は軽症で済んだが……
右腕は、もろに魔力爆発を受けてしまった。
「悪いね騙し討ちみたいなやり方で!」
追撃するヨルは、今度は両手にそれぞれ剣の形を模した魔力を持つ。対するゴルドーラは、ただでさえ魔力を纏わせられる武器は杖しかないのに、使えるのは左腕のみだ。
だが、それを悲観するつもりはない。
杖のみで、振るわれる二刀を弾いていく。
「おおっ、やるぅ!
悪いとは言ったけど、俺別に剣士じゃないから、恨み言は受け付けないよ!」
「問題はない。卑怯だなんだと言うつもりもないしな」
先ほどのヨルの動き……それはゴルドーラにとって、まさに虚を突かれた一撃だ。
剣の形を模した魔力……それを振るっていることで、相手は剣撃による接近戦を挑んできたのだと思い込んだ。
しかし、剣撃を繰り出すのは囮……本命は、ゴルドーラの意識が剣撃に向いたところで、至近距離から魔力爆発をくらわせること。
まさか、自ら得物を剣から爆弾に変更させるなど、思いもしなかった。
そもそも、ヨルの使っている得物が剣ではなく"魔力"だった時点で、警戒しておくべきだったのだ。
剣の形を模しても、魔力は魔力……形を変えることもできるし、爆ぜさせ爆発させることもできる。
「よっ、ほっ! はは、うまく捌くなぁ!」
「お前は剣士ではないからな。太刀筋などはないが、見極めきれんことはない」
「なぁる。
使い魔を呼んでもいいんだぜ?」
「そうしたいところだがな……」
攻防もそこそこに、ゴルドーラはチラリと使い魔……サラマンドラの方を見る。
そこには、数人がかりで挑んでいる参加者の姿。
サラマンドラは他の参加者に止められている。さすが、大会に参加している者たち……誰もがあっさりやられてしまうわけではないようだ。
これでは、サラマンドラが他の参加者を倒しているのか、他の参加者にサラマンドラが足止めされているのか、わからない。
図らずも、ゴルドーラとヨルの一騎打ちのような構図になってしまっている。
……しかし……
「……?」
ふと、違和感に気づく。
剣と剣……正しくは中身は違えど互いに剣の形を模した魔力であるが……それが打ち合う度に、違和感を感じた。
そして、その違和感はどんどん大きくなる。
打ち合うヨルの力が……魔力が、上がっている。そう理解した瞬間、ヨルは自分の魔力の量を確認する。
相手の魔力が上昇する……これに対して考えられるのは、打ち合う相手、つまりゴルドーラから魔力を吸い取っているパターン。
そういった手合いは、いると聞く。
それについ最近、エランとの決闘で、魔力を吸収する魔導具と対峙したばかりだ。もっとも、あれは刀身となる部分に魔力を吸収させるため、ある程度接近しなければならない。
対象の魔力に近いと、魔力を吸収できる……
ゆえに、ゴルドーラは自身の魔力を吸い取られていないか、疑念を持ったのだが……
「……変わりはない、か」
今のところ、体に変化はない。
だが、ヨルの魔力は確実に増している。
ならば、他に考えられるのは……
「お前は……周囲の人間の魔力を、吸収しているのか?」
「! へぇ、もう気づいたんだ」
ガギンッ、と、互いの魔力がぶつかり合う。
ゴルドーラとヨルとでは手数が違う。しかしゴルドーラは、押されはしない。
「さっすが……けど、いつまで持つかな」
「……っ」
徐々に、ゴルドーラの体が押され始める。こうしている間にも、ヨルの魔力は上昇している。
ゴルドーラ自身の魔力は減っていない。逆に、ヨルの魔力は上昇する。
触れているゴルドーラから魔力を吸収するならまだわかるが、ヨルは、触れてもいない周囲の人間から魔力を吸収しているというのだ。
「俺には、他人の魔力を吸収する力がある。自前の魔力に加えて、他人の魔力も合わされば……無限に力が上がるってことだ!」
「……触れずに、他人の魔力を吸い取るか。なるほど、気絶はしていても魔力までなくなるわけではない……お前は百名近い参加者の魔力を、吸い取っているわけだ。
だが、なぜそれを俺にしない?」
「誰でも無条件に、ってわけじゃないんでね!」
ゴルドーラは、後ろに吹き飛ばされる……いや、自ら後ろに飛び、距離を取ったのだ。
ヨルの魔力が上昇しているカラクリはわかった。その全てを明かすつもりがないことも。
そして、このままではヨルの魔力は上昇し続ける。
さすがに、本人の言うように無限に、とは思いたくはないが。エランの使っていた魔導具だって、吸収限界があった。
だが、エランは魔導具の吸収限界を知らないようだし……今回の場合、ヨルは自分の体のことを把握していないとは考えにくい。
吸収限界には期待しない方がいいだろう。
「厄介だな……」
エランと同じ、黒髪黒目の人物……しかし、エランとはまた別の意味で厄介だと、ゴルドーラは自らの唇を舌で舐めた。




