310話 ゴルドーラとヨル
サラマンドラの巨体を蹴り飛ばしたのは、ヨル。その表情には、どこか余裕のようなものを感じさせる。
サラマンドラほどの巨体が倒れれば、それだけで被害は甚大だ。倒れた風圧に、参加者たちは吹き飛ばされていく。
それに伴い、司会の熱も上がっていく……が、あいにくとゴルドーラに、そちらを気にする余裕はない。
「いやあ、これだけ人数が居たら、どこに会長さんがいるんだろって思ってたけど。
あんな大きい使い魔がいたら、すぐにわかったよ」
「俺を捜していた、と?」
「いんや、単純に戦ってみたくてさ。
せっかくのこの力、全力で試すところがなくてうずうずしてたんだよね」
話の間も、ゴルドーラはヨルの魔力を探ることを忘れない。
やはり、身体強化の魔法を使っている。それも、全身にだ。
身体強化の魔法は、魔法の基礎且つシンプルゆえに極める者は少ない。
一部分を強化できる者は魔導を使える者なら当たり前にいるが、それを全身ともなるとその数は激減する。
もっとも、一流の魔導士は、それも怠らないようだが。
「お前は、それなりに魔導を極めているようだな」
「え? あはぁ、まあねー。けどさ、この力確かにすんげー魔力だし転生特典ってのも納得する部分はあったんだよ。
けど、いざ魔導学園に入ったらさ、俺に匹敵する魔力の持ち主がいるじゃん。エランも黒髪黒目だし、もしかして俺と同じ境遇なのかと思ったけど、なんか違うみたいだしさー。
わーチートだーって喜んでたのにさ。エランもテンセイシャとかなら、まあ納得は出来たんだけど。あっさりと現地人に負けるのって悔しいじゃん」
「……?」
口早に、ヨルがなにか話し始めたが……その内容が、ゴルドーラには理解できない。
以前、エランからヨル……というか自分に変な迫り方をしてきた不審人物の話を聞いたが。
これはなるほど、彼女の言う通りかもしれない。言っていることが、ちっとも理解できない。
ただ、戯言を言っているにしては、どこか真に迫っている感じもする。
「で……結局お前は、どうしたいと?」
まだなにかしゃべっているヨルに、問いかける……すると、ヨルの口が閉じ……
ゴルドーラを見て、にやりと笑った。
「この大会で、エランとヤりたいってこと」
「ゴォオオオオオ!」
……蹴り倒されていたサラマンドラが、ヨルの背後から襲い掛かる。
右足を振り上げている。それに踏み潰されれば、ぺしゃんこになってしまうことだろう。
だが、ヨルは避ける素振りも見せず……
ドォン……!
まるで伸びでもするように、右手を空へと上げて……振り下ろされたサラマンドラの右足を、受け止めた。
「なに……!」
その様子に、ゴルドーラが目を見開いた。
避けたというならわかる。先ほどの身軽さなら、それも難しくはないだろう。
だが、受け止めた……あの巨体から繰り出された右足を、あんな涼し気な表情で。
それだけではない。
「よっ、と」
「ゴッ……」
右足を受け止めたまま、ヨルはそれを掴みなおし……サラマンドラの巨体を、ぶん投げた。
これまでにも、サラマンドラに対してなんらかの対応をしてきた者はいた。ある者はサラマンドラに返り討ちにされ、ある者はサラマンドラを倒すこともあった。
だが……サラマンドラをぶん投げる。それをしたのは、ヨルが初めてだ。
「あは、そんな顔もできるんだね、会長さん」
「ちっ……
……邪魔だ!」
「ぐぇあ!?」
サラマンドラが投げ飛ばされ、またも周囲には被害が生まれる……
その隙をついて、ゴルドーラの背後から音もなく忍び寄った別の参加者が、あっさりとゴルドーラに背負い投げされてしまった。
その様子に、ヨルは「ひゅう♪」と口笛を鳴らす。
「さっすが会長さん、魔導使わなくても、それくらいおちゃのこさいさいってわけだ」
「おちゃ……?」
パチパチ、と手を叩くヨルは、バカにしているのかそれとも本当に感心しているのか。
いずれにせよ、これ以上サラマンドラをぶつけても、意味がなさそうだ。
「お、やっと俺のことちゃんと見てくれた」
「……お前は言ったな。エランのことを、俺に匹敵する魔力の持ち主がいる、と。
よもや、エラン以外は眼中にないと言うのではないだろうな」
「エラン以外眼中にないのは、どっちのことだろうね」
ヨルも、杖を抜く。
エランから聞くヨルの奇行はともかく、彼の魔力評判……そして、今しがた見た身体能力を見れば、決して油断していい相手ではない。
いや、そうではない。ゴルドーラにとって、勝負ごとに関しての油断はありえない。エランとの決闘も、そうだった。
そうだからこそ、あの決闘の決着が、自分の未熟さを認識することとなった。
「けどまあ、エランと渡り合ってたあんたにも、興味はあったんだよね!」
瞬間、ヨルの魔力が大きな昂ぶりを見せる。
ゴルドーラに、相手の魔力の流れを見る力はない……が、魔力を感じ取る力はある。
これまでに、大きな魔力を持つ者とは何度も対面してきた。それこそ、魔導学園にはそのような人物はたくさんいる。
エランも、その一人……いや、彼女はまた、飛び抜けてはいるが……
ヨルのそれは、これまでに感じたものとはまた違った感覚があった。
「そりゃ!」
魔法には、イメージする力が必要……ゆえに基本的には、詠唱も名も必要はない。
ヨルが想像したのは光の玉。それは、ヨルにとっては無数のホタルをイメージした形だ。
「……」
ヨルの周囲に浮かび上がる光の玉が、次々にゴルドーラへと放たれる。
ゴルドーラはそれを避ける素振りもなく、棒立ちのまま杖を構えている。
光の玉は、一直線にゴルドーラへと……
「あり?」
しかし、光の玉はゴルドーラへは届かない。彼に届く前に、なにかに弾かれたように打ち消えたのだ。
それは、ゴルドーラのイメージした壁。透明な壁をイメージし、自身の前に展開した。
とはいえ、ヨルの魔力の威力ならば、ゴルドーラの盾とはいえそう長くは耐えられないだろう。
時間稼ぎだろうか、なにを考えて……
「……まさか……」
「狂焔乱舞に舞い焦がせ……!」
先ほどから、ゴルドーラはしゃべらない……いや、口元は動いている。なにかを、しゃべっているのだ。
いったいなにを……その答えに思い至ったとき、すでに遅かった。
自身を魔法で守りつつ、魔術の詠唱を行っていたのだ。
「ま、じか……」
魔法と同時に魔術詠唱など、普通ではない。
かつてエランは、浮遊魔法と魔術詠唱を同時に使用した。が、あれは例外……エランほどの魔力と、そして集中力があって、初めてできることだ。
そもそも、浮遊魔法自体が魔法の中でも難しいのだから、それと魔術詠唱を並行するのがおかしいのだが。
ゴルドーラも、確かに相応の魔力を秘めている。
しかし、ヨルの攻撃を受け切る盾を展開した上で、魔術詠唱ができるなどと、思っていなかった。
はじめからできたのか。それとも、エランとの決闘を経て努力を重ねたのか……
「狂炎太陽黒!!!」
いずれにせよ……ゴルドーラの放つ、魔術が放たれたことに、変わりはなかった。
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