304話 乱戦の中で
魔導大会、Aブロックの試合が開始された。
このブロックに参加している人数は、総勢百名。魔導学園所属者や冒険者、一般の者まで、問わず出場している者たちが、開始の合図と同時に一斉に仕掛ける。
……その中で、真っ先に行動を起こした者がいた。
「人造人形……!!!」
瞬間、召喚される複数の土人形。
地面から、空中から……あらゆる場所から魔術により形成されたゴーレムが、現れる。
その数、ゆうに十を超える。
「なっ、なんだこりゃ!」
「ゴーレム!? くそ、誰だ! 詠唱は聞こえなかったぞ!」
突然の参戦者に、一同は驚きを露わにする。中でも、魔導に心得がある者ならこの異様さに顔をしかめる。
ゴーレムが現れたこと自体に驚きはない。だが、ゴーレムを召喚する土属性の魔術……魔術は、発動するために詠唱が不可欠だ。
これだけの参加人数だ、魔術を使える魔導士がいても不思議はない。
だが、詠唱もなしに、魔術を放つなどできるわけもない。
魔術を使うことも難しいが、無詠唱など不可能とされているのだから。
あるいは、聞こえないほどの小声で詠唱を唱えたのかもしれない。
それならそれで、試合開始直後に発動するなど不可能だ。試合開始前から詠唱を唱えることは禁止されている。
こうして試合が続いている以上、ゴーレムを召喚した魔術は、無詠唱と考えるしかないのだが……
「そんなの、ありえ……ぶへ!」
「やっちゃえー」
あり得ない、魔術の無詠唱……しかし、それをやってのけた人物がここにいる。
コロニア・ラニ・ベルザ。ベルザ王国の第一王女で、無詠唱魔術が扱える人物。無詠唱魔術は、あのグレイシア・フィールドでも使えなかったと、エランは驚いたものだ。
そして、今召喚されているゴーレムは、エランとの訓練時よりも遥かに性能が高い。
数も、力も、速さも……
「わっ……と」
その、反射神経も。
「あららー、防がれてしもうたか」
「あ、メリーさんじゃん。やっほー」
「そんなかわいい呼ばれ方するのあんただけですよ」
コロニアを狙った魔法は、ゴーレムが自らを盾にしたことで防がれる。
その魔法を撃ったのは、メメメリ・フランバール。生徒会の書記で、狼型の亜人である。
生徒会長であり、友人でもあるゴルドーラ。彼を接点に、その妹であるコロニアとも顔見知りだ。
『ゴルっちの妹にしてはふわふわした子じゃのう』
それが、彼女と会った時の第一印象。そしてそれは、間違いではなかった。
それだけならまだしも、『メリー』なんてあだ名までつけられてしまった。
こういった、召喚系の魔術等は、術者を倒せば消える。
なので虚を突いたつもりだったが、届かなかったようだ。
「そのゴーレム、以前見た時より性能がぐんと上がっとりますのう」
「わぁい、ほめられたー」
周囲ではすでに、ゴーレムと参加者の戦いが始まっている。
ゴーレムは土人形、脆いと思われがちだが……もちろん、魔力の才ある彼女が、ゴーレムの強度を上げていないはずもない。
もちろん、メメメリ同様、ゴーレムを手早く倒すために、術者に襲い掛かってくる者もいるが……
「よっ、ほっ」
ゴーレムが盾になるまでもなく、コロニアは迫る攻撃を、ひょいひょいとかわす。
後ろから迫られても、まるで背中に目が付いているように、避けていく。
……その、もふもふの耳で異変を察知し、危険が迫る前に避けているからだ。
「よぉ利く耳ですのう」
「メリーさんも似たようなもんでしょう」
「がははは、違いない!」
亜人のメメメリと、獣人のコロニアとでは大きな差がある。
基本的に、亜人は異種族の姿を成しているために身体能力は、普通の人間よりも高い。
一方で獣人は、一部分のみ異種族のものへと変化するため、その部位以外は人間と変わらない。
今、異種族の耳を持っている、という意味では、二人の条件は同じであるが。
「妹さん、なんの獣人でしたっけ?」
「うんとねー……なんだっけ、たぬきだったかな」
「がはは、かわいらしいもんじゃのう」
「メリーさんみたいなかっこいいのも捨てがたいけど、ね!」
話もそこそこに、コロニアは魔法を放つ。それを、メメメリは受け止め弾き返す。
連続して放ち、メメメリには反撃の隙を与えない。
しかし、注意すべきは彼だけではない。
ゴーレムも周辺を注意しているとはいえ、どこから誰が仕掛けてくるのか……
「せえぇええい!」
「!」
勇ましい掛け声と共に、煙炎から姿を現すのは、ナタリア・カルメンタール。彼女は魔導の杖を魔力強化し、それを剣のようにしてコロニアへと振り下ろす。
この会場内には結界が張られており、どんなダメージを受けても死ぬことはない。なので、その勢いに遠慮はない。
とっさにコロニアも、魔力強化した杖で突撃を受け止めるが……
「ぐぅ……ぅあぁ!?」
ただ受けるだけのコロニアでは、ナタリアの突進を乗せた斬撃を受け止めきれない。
後ろに突き飛ばされ、しかし壁に激突する前にゴーレムに受け止められた。
追撃しようとするナタリアだが、しかしゴーレムに阻まれる。
「ナタールちゃん……」
「その独特的な呼び方、慣れてきている自分が居ることに喜べばいいのかどうか、複雑な自分がいるよ」
ナタリアはゴーレムを切り伏せるが、その程度ではすぐに再生する。
これもまた、ゴーレムの厄介な部分であった。少なくとも、相手取る側に立てば。
ナタリアが、杖に魔力強化をしている理由は、極力魔力の消費を抑えるためだ。再生持ちのゴーレムに攻撃を当て続けても、こちらが消費するだけ。
エランのように、強大な魔術で一気に消し飛ばせば話は別だが……この状況でそれは、得策ではない。
というか無理だ。
「ボクもエランくんみたいに、飛びながら魔術撃てたらなぁ」
「おいおい嬢ちゃん、横入りかい?」
吹っ飛んできたゴーレムが、ナタリアの右横を通過する。
ゴーレムを投げ飛ばしたメメメリが、パンパン、と手を叩いていた。
「これは乱戦、横取りもなにもないと思いますけど、先輩」
「がはは、その通りじゃ! じゃが、わざわざここに来んでもよかったんじゃないかの?」
「同じクラスとして、コロニアくんとはきちんと手合わせしたいなと思いまして」
ナタリアは、コロニアがゴーレムを召喚する魔術を使えるとは知らなかった。
が、兄二人はゴーレムを召喚していた。だから妹である彼女も……という予感はあった。
もっとも、彼女が無詠唱魔術の使い手だとは、噂で聞いていた。
ちなみにそれをエランに確認して見たところ……
『え、えー? そそ、それは、ナタリアちゃんでも、い、言えないかなぁ』
との、素晴らしい答えを貰った。
無詠唱魔術、なるほど詠唱が必要とされる魔術を無詠唱魔術で放てるとは……とんでもない、いや唯一無二といってもいい技術だ。
だからこそ、この手で戦ってみたい。
彼女が無詠唱魔術使いで、且つゴーレムを召喚できるのなら、試合開始直後に仕掛けるとは思っていた。
同じように考えていた人がいたとは、思わなかったが。
「ふむ、ナタリア・カルメンタール……
エランの友人で、学園【成績上位者】……且つあの魔導のエキスパート、アルミル・カルメンタールの孫娘か」
「あはは、"そっち"がついでみたいな言い方ですね」
「不満かの?」
「いえ……お爺様は偉大な方ですが、その孫って肩書きよりも……
エランくんの友人として認識されている方が、百倍は気分がいい!」
瞬間……瞬く閃光が、メメメリの視界を奪い去った。




