298話 師匠はいずこ
師匠大好きサリアちゃん。
師匠のことを良く言われるのは私としても悪い気はしないけど、サリアちゃんのそれはちょっと恐怖すら感じる。
師匠に対する熱をたっぷりと聞いたところで、私もいろいろと質問された。
魔導について聞かれるのかと思ってたけど、聞かれたのは主に師匠の人間性について。
「師匠っては、エルフでちょー長生きしてるのに、家事とか全然できないんだよ。もー私がいないとダメダメでさー、今だってちゃんと生活できているのか心配になっているんだよ私としては。だいたい、師匠は魔導士としては私の目標だけど、人としてはちょっと……師匠みたいな人は恋人には選ばないかな。確かに師匠は顔はいいし、背も高いし、優しいし、声も透き通るような美しさがあるし、肌は白いし、細いし、髪サラサラだし、でもね、お付き合いするか選べって言われたら、私としては断固拒否を選ぶよ」
「おー、どんどん溢れてくる」
気づけば私は、師匠に対してのアレコレをサリアちゃんにぶつけていた。これは師匠のイメージが崩れないかと心配になったけど、むしろありのままの師匠が知りたいらしい。
ということで、私は師匠との生活を思い出し語っていた。
それらを聞いて、サリアちゃんは目を輝かせてなにやらメモを取っている。師匠の情報書き出してるんだろうか。
これだけ熱心な師匠ファン……もしかして、異性としても気になってたりして?
「……サリアちゃんは、もしも師匠とお付き合いできるってなったら……」
「お付き合い? 交際? はは、グレイシア神はそんな次元にはいないよ。ふざけたこと言っちゃいけないよ」
「あ、はい」
師匠を神聖化しているけど、まあ自分の中の師匠イメージが崩れたからって暴れないのは助かる。
私としては、結構イメージ崩れそうな話もしちゃってる気がするけど……
「そういえばさ、師匠ってエルフだけど、そこのところは問題ないの?」
「そりゃあ、エルフって聞けば思うところはあるけど……エルフとしてじゃなく、グレイシア神一個人として見てるから」
「……そっか」
いつか、考えたことがある。エルフ族じゃなく、その人一個人を見てほしい、と。
それをサリアちゃんは、師匠相手だからかもしれないけどちゃんと、見てくれている。
ただ、師匠は有名人すぎて、あまりあてにはならないのかもしれないけど。
「そういえば、私以外にも師匠のお弟子さんがいるけど……」
「ウーラスト・ジル・フィールド教育実習、だよね。知ってる。あの人とも、いつか話をしたいと思ってる」
師匠の弟子が二人も、それも同じ教室にいる。これに驚いた人は多い。
サリアちゃんは、めちゃくちゃうらやましそうだ。
サリアちゃんが同じクラスだったら、きっと毎日のように師匠の話で盛り上がったに違いない。
師匠の人柄、魔導士としての腕前……
……魔導士として、か。
「ねえ、サリアちゃん」
「うん?」
「師匠はさ……魔導大会に、出場しないのかな」
ふと、思った。国をあげての大きな大会……国内外から人が集まる、大きな大会……
国の外からも人が集まるのなら、もしかしたら、と考えてしまうのだ。
師匠が、魔導大会に参加するために、この国に来るんじゃないか、と。
「そうなったら嬉しいけど、さすがに来ないんじゃないかな。グレイシア神ほどの方が来たら、そりゃもう大騒ぎだよ。サインを求める人で溢れちゃうよ」
「だよねぇ」
サイン云々はともかくとして、師匠本人が現れたら大騒ぎになるだろう。魔導士として、冒険者として大人気。
私が弟子だってだけでも、かなりの盛り上がりがあったのだ。本人が現れたらって考えたらもう……ね。
とはいえ、もう師匠とはずいぶん会ってないからなぁ……まあ師匠と過ごした月日に比べたら、ちっぽけな期間だけどさ。
ま、いつも一緒にいたからこそ、離れている時間がやけに長く感じるんだ。
もしも大会に出場するためにこの国に来てくれたら、会えるのに。師匠は私が魔導学園に通っていると知っているからこの国にいるとわかるけど、私は師匠の居場所を知らない……
「あれ、師匠って私が魔導学園に合格したこと知ってるのかな……?」
「?」
今更、気づいたことだけど。師匠は、私が魔導学園に合格したことを、知っているのだろうか。
師匠は私を送り出して、その後……どうしてたんだろう。私の合否くらいは確認したんだろうか。
それとも、合格するって信じてくれて、敢えてなにも確認せずに……だったりして。
だったら、なんだか信頼されてる感じがして、ちょっと嬉しいかも。
「はぁ、グレイシア神は今どこを旅しておられるのか……」
「どこだろうねぇ」
「孤高の旅……あぁ、なんて素敵な」
結局行き先は聞けなかった。いや、行き先はなく気ままに旅をすると言っていた。
最近物騒だけど、師匠のことだからまあ心配はしていない。
「旅、か……」
……そうだ、学園を卒業したら。師匠とおんなじように旅に出るのもいいかもしれない。
私には師匠に拾われた以前の記憶がないから……私の中にあるのは、師匠との生活とこの国での生活だけ。
知らない世界を回る旅、っていうのも、面白いのかもしれない。
「? どうしたのラン、なんだか嬉しそう」
「んー? なんでもない」
まだ先のことだけど。そういうことを考えるのも、なんだか悪くないなと思った。




