296話 たーんとお食べ
「へぇ、そうかい。魔導大会に……そりゃあ、気合を入れて応援しないとねぇ」
「あはは、ありがとう」
今日は休日。私は久しぶりに、宿屋『ペチュニア』へと足を運んでいた。
クレアちゃんの実家で、この国に来たばかりの頃にお世話になった場所。
「タリアさんは、大会は見学に行ったりするの?」
「大会の時期は商売時だからねぇ、直接行ったことはないんだよ。けど、今回はエランちゃんが出場するなら、見に行ってみるのも悪くないねぇ」
今日はクレアちゃんは一緒ではないのは残念だけど、一人……というわけでもない。
丸テーブルに、私と対面する形で座っている女の子。彼女の名前は、サリア・テンランちゃん。クレアちゃんのルームメイトで、ナタリアちゃんと同じ「オウガ」クラスの生徒。
「あんたがクレアのルームメイトだって? あの子ったら大雑把なところがあるから、迷惑かけてないかい?」
「いえ、そんな……私も、いつも助けられてて……」
「まあー、かわいくていい子だねぇ!」
肝っ玉母さんことタリアさんは、クレアちゃんのルームメイトに興味津々だ。にこりと笑顔を浮かべて、張り切って料理に向かっていく。
相変わらずだなぁ。
「……いい人、だね」
「でしょー」
「……なんでランが自慢げ?」
私の名前はエラン。けれどサリアちゃんは、私のことをランと呼ぶ。私だけじゃない、クレアちゃんはレアと。
どうやら、名前の頭文字を一個飛ばして呼んでいるらしい。独特的すぎる呼び方だ。
まあ、人それぞれだしいいと思うけどね。
マイペースで、どこか掴みどころがない女の子。サリアちゃんと初めて会ったのは、学園が再開したあの日だ。
さて、それまでクレアちゃんのルームメイトとまったく接点のなかった私が、どうしてサリアちゃんと二人きりでここにいるのかというと……
『今度の休日、久しぶりにタリアさんとこ行ってみようと思うんだけど、クレアちゃんも行く?』
『うーん……私はいいかな、ちょっと約束もあるし。母さんにはよろしく言っておいてよ』
『レアのお母さん……気になる。私行きたい』
『うぉっ!?』
……と、廊下で話していたらいきなり後ろから現れたサリアちゃんが参加してきたわけだ。
気配消すのがうまいなこの子、と感心した。
ほとんど初対面の相手と、二人きりで外出なんてどうなることかと思ったけど、いざ出掛けてみればたいしたことはないもんだ。
ただ、正直な話話題には困る。共通の話題っていったら、クレアちゃんくらいのことしかないもんなぁ。
「ところでレアは」
「おおう」
そう思っていたら、サリアちゃんの方から話しかけてきてくれた。嬉しい。
でも、やっぱり呼ばれ方はまだ慣れない。
「魔導大会に出場するんだよね、おめでとう」
「あ、ありがとう……?」
なぜかおめでとうと言われた。というか、さっきタリアさんに報告しているときは無反応だったのに。
大会に出場することになり、がんばれならわかるけど、おめでとうはどうなんだろう。
まあ、サリアちゃんなりに応援してくれてるのだろう。多分。
「サリアちゃんは出場しないんだね、大会に」
サリアちゃんの「オウガ」クラスでは、ナタリアちゃんとコロニアちゃんが出場する。ナタリアちゃんは【成績上位者】だし、コロニアちゃんは無詠唱で魔術が使える。
二人を前に、自信喪失……ってキャラでもなさそうだけど。
「うん……なんか、大会ってめんどくさそう。疲れそう」
「えぇ……」
ある意味ですごい理由だった。
「サリアちゃん、疲れるのヤなの?」
「うん、ヤ」
私だって疲れるのは嫌だけど、それはそれで大会は楽しそうだから参加するのだ。
まあ、どんな理由があってもいいんだけどさ。
「あっははは、面白い子だねぇ!」
「タリアさん」
「はいよ、ご注文の品だ」
明るく大きな声が届く。注文した料理を持ってきてくれた、タリアさんだ。
私たちの前に、注文した料理がそれぞれ置かれる。私が頼んだのは、麺がスープに入っているものだ。
くぅう、お腹空いてたんだ。いいにおいだし、おいしそー!
「んんっ、いただきます!」
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
空腹に限界を感じていたため、目の前に出された料理を遠慮なく口に運んでいく。
うぅん、香ばしい香りが口の中に広がって、スープと麺がうまい具合に互いの良いところを引き出している!
サリアちゃんを見てみると、黙々ながらめちゃくちゃ食べていた。それに、普段あまり表情が変わらないけど、少し頬が緩んでいるみたいだ。
なんかその表情見ただけで余計に食が進むよー。
「良い食べっぷりだねぇ。
ほい、これも食べな」
「へ? 頼んでないけど……」
「あっはは、サービスだよサービス! 魔導大会に出場するんだろ、これ食べて頑張りな!」
「えぇと……私は、出場しないんだけど……」
「なぁに、クレアとエランちゃんのお友達ならそれだけでサービスしちまうよ!」
太っ腹なタリアさんが新たに料理を追加し、その心意気に感動する。まあ、食べ切れるかちょっと怪しいくらいの量になってきたけど。
とはいえ、せっかくのサービスだ。無駄にするわけにもいかないだろう。
なにかのお肉に衣を付け、それを揚げたもの。パクっと食べると、サクッとした衣の食感と中のお肉は柔らかく、じゅわっと肉汁が口の中に広がる。
あついっ、けどおいしいっ。
「……今日、来てよかった」
ボソッと、サリアちゃんがつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。あー、この子めちゃくちゃかわいいかも。




