244話 魔導具"賢者の石"
私がもらった、指輪についている赤い宝石……それは、国宝と呼ばれる魔導具。
名前を"賢者の石"と言うみたいだ。どこかで聞いたことのあるその名前。
それよりも、気になったのは王様のこの言葉だ。
『その石は命の水を生み出し、それを飲んだ者は永遠の命を得ることができる、と言われている』
その説明を受けて、私はずいぶんと間の抜けた声を漏らしてしまったと思う。でも、仕方ないと思う。
だって、命の水を生み出して、それを飲んだら……永遠の命を、得ることができる。なんて言うんだから。
意味がわからない、というのが本音だ。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、王様はこほんと咳払いを一つ。
「いや、すまない。今挙げたのは本物の賢者の石についての情報だ」
「……本物?」
王様が言うには、今の話は本物の賢者の石に関する情報だと。
本物って……え、本物って? じゃあこれ本物じゃないの? そういうことなの?
ますます意味がわからずに首を傾げていると、今度はおじいちゃんが口を開く。
「そもそも魔導具とは、技師が作った魔具のことをそう呼ぶ……これは、知っていますね?」
「うん。ピアさん……あ、学園の先輩で、魔導具たくさん作っている人もいたから」
「ほう、それは興味深い」
魔導具とはいわば人工物だ。人工に作った物で、魔力を操ったりするってのは、よく考えたらすごい技術だよなぁ。
対象の魔力を測定するとか、対象の魔力を吸収して放出するとか……どんな原理なんだろう。
まあ、魔導具の構造については一旦置いておいて、だ。
「それで、本物がなんとかっていうのは……」
「あぁ、そうでしたな。魔導具とは、そのほとんどが原型となったものがあります。その構造を暴き、複製していくことで、同じ種類の魔導具がいくつも出来上がる」
魔導具の原型となったもの、か……言われてみれば、あんな複雑なものを一から作ろうってなると大変だよな。
そういえばピアさんも、学園の魔力測定水晶を参考に作った魔導具があるって、言ってたな。壊れたみたいだけど。
ってことは……ははーん、話が見えてきたぞ。
「じゃあ、さっき言ってた、この魔導具賢者の石の本物っていうのは……」
「その魔導具を作る際に元となったもの、それがオリジナルの賢者の石というわけです。
ちなみに、その魔導具……いえ、国宝と呼ばれる魔導具には複製されたものはありません。全て、唯一のもの。ゆえに国宝なのです」
魔導具には作られたオリジナルのものがある。この賢者の石も、オリジナルに命の水とか永遠の命とか、そんな効果があったってことらしい。
……なんかすごい効果だなそれ。
ただ、それを参考にして作った魔導具である以上、これもオリジナルとほぼ同じ効力があるはずだけど。
「さすがに、オリジナルと同様の効果は得られなかったようでな。しかし、その魔導具の力自体はすごいぞ?」
「ほほぅ。それはいったい?」
そんなにもったいぶられると、ワクワクしちゃうじゃないか!
「魔導具"賢者の石"。それは、使用者の魔力を底上げする力を持っているのだ」
「魔力の底上げ!」
王様の口から出てきたのは、私をワクワクさせてたまらない言葉だった。魔力の底上げ、だって!
魔力の底上げ……それはつまり、この魔導具を身に着けていれば、その人はその人が持つ魔力以上の力が出せるってことだ。
これは、すごい。訓練によって魔力を上昇させることはできるけど、これがあれば訓練いらずってことだ。
もっとも、それを理由に訓練を疎かにするなんてことはしないけど!
「でも、すごい! はぁー、どんな仕組みになってるんだろう! ね、二人とも!」
魔導を学ぶ者なら、魔力を底上げする魔導具なんて興味が尽きない。もうすごいすごいを連呼するしかない。
だというのに、ゴルさんと先生は、なぜか無言で……というか無心で、私を見ていた。
「……魔力の底上げ、かぁ。エランが」
「……魔力の底上げ、かぁ。フィールドが」
「?」
なぜか、哀愁が漂っているようにも見える。
これがすごい魔導具なのは間違いない。だけど、使用者の魔力を上昇させる魔導具自体なら、他にもありそうだ。
なのに、これが国宝と呼ばれているのは……魔力底上げの効果がよほどすごいのか。それとも、他にも効果があるのか。
「魔力の底上げって言っても、具体的にはどれくらい強くなるのかなぁ」
「そうだな……私が王の座につく前から、国宝の存在は知らされていたが、実際に使われたのは見たことがない。
だが、伝えられている情報によると、魔法の力が魔術の力にまで上昇するとか」
「おぉー、すごい!」
魔力の底上げ。使用者の魔力を上昇させる。それは、魔法が魔術レベルの威力になるってことか。すごいや!
魔法の威力は、自分の魔力の量、力の込め具合によって決定する。そして、個人の魔力量はたかが知れている。
一方で、魔術は大気中の魔力を使うので、使える魔力に際限がない。やろうと思えば、いくらでも威力を上げられるだろう。まあ時間と集中力がかなりいるけど。
だから基本、魔法が魔術の威力を上回るどころか追いつくことだって、ありはしない。
それが、この賢者の石を使えば覆る……ってことか! やっば、すっご!
「つまり魔術レベルの魔法をポンポン撃てるってことだね!」
「そうなるが……さすがにあちこち構わず、というのはやめてくれよ?」
「やだなぁ、わかってますよ!」
「魔術レベルをポンポン……エランが」
「魔術レベルをポンポン……フィールドが」
いやぁとんでもなくすごい魔導具もらっちゃったなぁ! 試してみたいなぁ、どっかいい場所ないかなぁ!
さっきから、ニヤニヤが止まらないよ!
ただ、なぜか哀愁漂うゴルさんと先生の様子は気になったけど。




