240話 保護者かお前は
「フィールド、その子は?」
「えっと、以前この子が変な冒険者に絡まれているところを私が助けて。その縁で仲良くしてるんです。ビジーちゃんって言って」
「ほう……」
私よりも小さなビジーちゃんの体を抱きしめながら、その頭を撫でてみる。
はぁあ、髪サラサラだぁ。わしゃわしゃしてあげる!
こんな状況だけど、ビジーちゃんのおかげで一気に癒されたよ!
……今、気になることがなかったら、だけど。
「……?」
今レジーは、お前、と言った。ビジーちゃんを見ながら。視線が、言葉が、ビジーちゃんに向けられている。
見間違い、ではないよな。それに、私に命令されてたとき以外はすんごい生意気な態度だったのに……
ビジーちゃんを見て、震えている?
「なに、ビジーちゃんのこと知ってるの?」
「……それ、は……」
「えー? 私そんな人知らないよ?」
私の言葉には逆らえない……だから、この質問にも素直に応える。その直前、ビジーちゃんの言葉が割り込んだ。
こんな人は知らない、と。純粋な表情で、そう言った。
「本当?」
「うん。誰かと見間違えたんだよきっと!」
そっかー、見間違いかぁ。かわいいビジーちゃんが言うなら、そうなんだろうな!
レジーにこのまま圧をかけて、答えなければ……レジーは魔法の効果で激痛を感じることになる。ゴルさんや先生、なによりビジーちゃんがいる前で、それはやめておいたほうがいい。
私は、ビジーちゃんに怖がられたくはないからね!
「まったく、意味深な表情やめてよね」
「あ……あぁ、そう、だな。悪い……」
「?」
なんか、一気に元気がなくなっているような……よほど、ビジーちゃんに似ている誰かが怖いのだろうか。
……怖い……あのレジーが……?
「エラン」
「あぁ、うん。
ごめんねビジーちゃん、私これから行かなきゃいけないところがあるから」
「えー」
うっ……なんて純粋な瞳で、私を見つめてくるんだ! やめてくれ、そんな綺麗な目で私を見ないでくれ!
このままだと、ビジーちゃんに引き止められてしまう。ビジーちゃんと一緒にいたくなってしまう。
でもだめだ、私には、このあと王様にレジーを引き渡すって使命が……
「……それ別に私じゃなくてもよくない? ねえ、レジーは二人に任せるから、私はビジーちゃんと遊んでていい?」
「ダメに決まっているだろう阿呆か」
「ダメに決まっているだろバカタレ」
ですよねー、やっぱだめだよねー。
でも、だめならだめでそんな傷つく言い方はしないでほしいな!
二人の目が冷たい。レジーを引き渡すとして、レジーを捕まえたのは私なんだし、まあ捕まえた張本人が行かないわけにはいかないよなぁ。
ルランの件は省いてレジーについて説明したとは言っても、聞いただけじゃ二人もどう説明すればいいかわからないだろうしね。
……こんなことなら、レジーをルランに渡しとくんだったかなぁ。
「はぁあ、わかったよぉ」
「お前……その人間は、魔獣を操っていたとお前が言ったんだぞ。
その人間に陛下に引き渡すより、その子供と遊ぶ方が重要なのかお前には」
「もちろん!」
「……はぁ」
なぜか、ゴルさんは盛大なため息を漏らす。なんだよぉ。
「まじゅう?」
「んー、そうだよー? さっきの白くて大きな化け物は、このお兄ちゃんとお……ねえさんが倒したんだよ」
「おい、今なんで言いよどんだ?」
「だから、またあんなのが現れたら大変だから、ビジーちゃんはちゃんと避難しないとねー!」
「おい、こっち見ろ」
レジーをこうして拘束している以上大丈夫だとは思うけど、また魔獣が現れないとも限らない。
レジーは魔獣を操っていた……逆に言えば、レジーに従っている魔獣が自主的に、レジーを助けに来る可能性もあるのだ。
もしそんなことになれば、『絶対服従』の魔法は効果を発揮しない。なんせ、レジーの意思じゃなくて魔獣の意思なんだから。
……魔獣に意思があるってのも、なんだか変な話だよね。
「じゃあ、せめてこの子を安全なところに送るくらいは」
「……そうだな。一応兵士もいるが、あちらは魔獣の後処理でいっぱいいっぱいだろう」
私はビジーちゃんの手を取って、安全なところへ行こうアピール。決して、ビジーちゃんともう少し一緒にいたいからではない。
これは仕方のないこと、ここには置いてはおけないビジーちゃんを一人にもできないから、安全なところに届けるまで一緒にいることになるのは自然なこと。
……うん、やっぱり一緒に居たい気持ちもあります。はい。
「というわけで、行こうかビジーちゃん!」
「うん!」
ビジーちゃんと手を繋ぎ、人がいる場所に移動する。幸い、避難先は王城の近くのため、行き先と被るので目的地は同じだ。
他愛ない話をしながら、歩いていく。周囲は破壊された建物とかで、以前ビジーちゃんと歩いたときとは景色が変わってしまっていたけど。
少しだけ悲しい気持ちになって……でも、ビジーちゃんは相変わらず明るくて。その明るさに、なんだか救われた気分になって。
「ありゃ、もう着いちゃった」
目的地までそう遠くはない。話をしている間に、避難している人たちが集まっているところに着いた。
寂しいけど、ここでお別れだ。さすがに王城には連れていけないようだし。
「ビジーちゃん、危ないことあったら大声で叫ぶんだよ? 周りの人が助けてくれるから」
「うん!」
「保護者かお前は」
彼女の目の高さに合わせて、私は言う。こんなに人がいるとこで危ないことがあるとは思えないけど、万が一もある。
それに、人のいる場所であの冒険者は絡んできたわけだし。
元気に返事をするビジーちゃんの頭を撫でて、私は背を向けて歩きだす。けれど、後ろ髪を引かれる感じになり、何度も何度も振り返ってしまう。
お互いの姿が見えなくなるまで、ビジーちゃんは手を振ってくれていた……
「ちっ、油断して捕まりやがって……あの怠け者のバカが」
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