238話 魔獣を操る存在
首に浮かんだ紫色の光は、輝きを増し……レジーは、苦しそうな表情を浮かべている。その理由は、一つ……レジーが、術者の意にそぐわないことをしたから。
それは、私の質問に答えない、というものだ。
『絶対服従』の魔法をかけられた者の首には、紫色の首輪が浮かぶ。それは実際にハメられているわけではなく、首輪のようなもの、という表現が正しいかも。
それは、術者の意に従わない者に、激痛を与える効果を持つ。
それも、ただ痛みを与えるってわけじゃない。
「それは、肉体じゃなく精神への痛みが主だって、師匠は言ってた。
だから、そのままだと……死んじゃうかもよ?」
「!」
師匠が手本に見せてくれたとき。モンスターは師匠に『絶対服従』の状態となり、師匠の言葉に従うことになった。でも、いくら人に近いとはいえモンスターはモンスター……あまり複雑な内容は理解できない。
だから、理解できない命令に従えず……首輪からの激痛にもだえ苦しみ……
最後には、死んでしまった。
「まあ、術者が痛み出すのやめろって思えば、痛みは流れなくなるみたいだけどね」
「っ、はぁ、はぁ……!」
「で、どう? 言う気になった?」
あんまりこういう、拷問みたいなことはしたくないんだよね……私、人の苦しむ顔見て喜ぶような趣味は持ってないし。
ただ、レジーの場合は強情だから、強硬手段を取るしかないわけで。
「っ、てめえ、頭おかしいんじゃねえか……!?」
「たくさんの人を殺したあんたには言われたくないな」
殺人鬼に、頭がおかしいと言われるなんて、心外だなぁ。もう一回痛みを流すぞこら。
けど、あの様子だと本気で、死をも覚悟してる感じだったよなぁ……
……本当なら時間をかけてやりたいところだけど、そろそろ、か。
「このままここにいたら見つかっちゃう。だから、ルランはここから逃げた方がいいよ」
「! なんだと」
ゴルさんや先生は、魔獣の後始末を兵士さんたちに任せて、本格的に私を捜しているみたいだ。私の魔力を辿れば、ここまで来るのも時間の問題だ。
そうじゃなくても、『絶対服従』の魔法を使った影響で、この辺りには変な魔力の気配が残っている。いつ、誰が来てもおかしくない。
だから、ダークエルフであるルランは早くこの場から離れた方がいいと思う。
「ここを捜しに来た人に捕まりたいんなら、止めはしないけど」
「! 誰が……!」
よかった、私もルランが捕まったらまずいしね。ルランとルリーちゃんはよく似ているから、ルランの顔を見たゴルさんや先生からルリーちゃんへとたどり着かれるかもしれない。
まあ、ダークエルフは特徴が似ているから、そういうものだと力説すれば押し通せなくはない気もするけど。
だとしても、ルリーちゃんがルランを「お兄ちゃん」なんて呼んだらおしまいだもんな。
「だが、俺もこいつにまだ用が……」
「わかってる……ルランがまたこいつになにか聞きに来れるように配慮するし、なんなら私がルランの代わりに聞いといてあげるから」
このままレジーを捕まえれば、ルランが来るのは難しくなる。そして、私がルランのためにできることがあるかも、実際のところはわからない。
でも、こうするしかないんだ。
私を経由して聞きたいことを聞きだせば、ルランとしても私にだけ会いに来ればいいから、手間が省けるだろうし。
「だが……大丈夫、なのか。こいつは……」
「安心していいよ。『絶対服従』の魔法は、一度かけたら永続的に効果は続く。効果を切るには、術者が魔法を解除するか、魔法をかけられた者が死ぬか……
レジーには、もう変なことはできないよ」
「……そうか」
ただ捕まえても、レジーなら簡単に抜け出してしまうかもしれない。そうさせないための、『絶対服従』の魔法。
この魔法をかけられている限り、私の命令には逆らえない。だから「なにもするな」とか「反抗するな」とか命令しておけば、レジーはもうなにもできない。
もちろん、自死もさせない。
「なら……一旦、お前に預ける」
「あり、もうちょい引き下がるかと思ったのに」
「……なにされるかわかったもんじゃないからな、おっかない」
私に背を向けて、ルランは笑うように言う。人をおっかないなんて、ひどいこと言うもんだ。
それからすぐに、ルランは屋上から飛び降りていった。そして、その直後だ。
「エラン!」
「フィールド!」
私を呼ぶ二人の声が、聞こえてきたのは。屋上の扉が開いて、ゴルさんと先生が姿を現す。
二人とも、目立った怪我はない……よかった、あの距離からじゃ怪我の具合までは見えなかったから。
「あ、二人とも〜」
「あ、二人とも〜、じゃない! どこ行ってたんだ!」
「ここだよ?」
「そうじゃなくて……はぁ?」
目つきの鋭くなった先生は、なぜか頭を抱えていた。元から目つきがキツイので、怒っていてもあまり変わらないように見える。
その隣のゴルさんは、私を軽く睨みつけたあと……私の隣で、拘束されているレジーを見る。
「その女は?」
「さっきの魔獣を、操っていた人だよ」
「そうか、魔獣をあや……!?」
私以外に、見知らぬ人がいる……だから、誰だと聞くのは当然だ。その正体を、正直に答えると。
ゴルさんも先生も、言葉を失って固まっていた。
……まあ、魔獣を操る、なんていう時点で、驚きを超えちゃうよね。
「ま、魔獣を……あや、つって……? どういう……」
魔獣は、魔物が魔石を取り込みさらに凶暴化したもの……それを操る存在なんて、考えもしないだろう。
というか、操れるなんて発想にすら至らないだろう。私だって、なにかの間違いかと思ったんだし。
でも、今回のことといい、ルリーちゃんの過去の話といい……魔獣を操る人間がいる。それは、確かなことだ。




