近衛騎士は王子とその妻を殺したその理由は…。
「地獄に堕ちろ、穢らわしい売女が…!」
兜をしていない茶髪の騎士が床に紅く染み渡る血の上に転がる女性の亡骸に向け、憎しみの込めた言葉を吐き捨てた。
「売女の次はあの愚王子だ…」
男はそう言うと、血糊が付いた剣を振り払い鞘にしまうと、女の亡骸が転がり紅く染まった部屋から出て行く。
その後、血の匂いに気付いた王宮の侍女がその部屋を惨状を見て叫び声を上げた同時刻に他の場所で男性の叫び声が響いた。
これはある王国で起こった王宮内での惨殺事件。
第二王子とその妊娠した妻がたった一人の近衛騎士が持つ剣によって惨殺された。
惨殺犯である近衛騎士は、惨殺した王子の部屋から出ようとしていたところを二人の騎士に見つかり、抵抗もせずに捕らえた。
捕らえた男は王族と貴族殺しにより、死刑の判決が確定した。
王族殺しの近衛騎士だった男は裁判も開かれる事なく、一ヶ月後の早朝に処刑が行われる事が決定された。
「おい、そこの牢獄長。もし俺を処刑をするなら、王宮通りにしろ。王族殺しの俺はピッタリの場所だ」
ある牢獄長が処刑場所が何処で行われるのかを話していると男は死に場所を指定してきた。
その事を牢獄長は王族に伝えると処刑場所は男の指定した王宮通りに決定した。
「…あと二十五日。長いようで短い」
男はただひたすらに自信が処刑日を怯えるどころか自身の処刑を待ち望んでいた。
その二日後、男に面会を求める者が現れた。
「あと、二十三日。さて、俺に面会を求める者はやつか」
「おい、早く出ろ」
刑務官に檻の扉を開かれると腕に手錠と鎖を繋がれて大人しく、面会室に連れて行かれる。
「やっぱり、お前か…」
「えぇ、僕ですよ。あの時、捕まえた後輩ですよ先輩」
真剣な目で応える若い騎士は持ち場は違えど男の後輩に当たる騎士だった。
「それで何が聞きたい?」
男は後輩だった若い騎士に問う。
「…この惨殺事件の発端を知る為に来ました」
若い騎士は真っ直ぐな目でここに来た理由と事件の発端を知りたいと男に問う。
「例え、話したとしてもお前は知ってどうする気だ?」
「無実の罪でここにいるなら晴らしたいです」
その言葉聞いた男は首を横にふりながら応える。
「…残念だが、二人を殺したのは俺の意思だ」
「ッ!」
若い騎士は男は自身の意思でやったという発言に驚く。
「何故! 王宮内で一番信用出来る近衛騎士と言われていた貴方がどうして!?」
「落ち着け」
興奮して立ち上がって問いただして来る若い騎士に男は冷静に落ち着かせる。
「すみません…取り乱しました」
「別に構わない…確かに国王様も王宮内の全員が俺を裏切るとは思いもしなかっただろう」
「えぇ、誰もが貴方が犯人である事を疑いましたよ」
若い騎士の言葉に男は「そうだろう」と頷く。
「だろうな…まぁ、そのおかげで俺はあの日誰にも疑われる事なく目標を容易く殺せた」
若い騎士は眉間にしわを寄せながら、胸ポケットからメモ帳と羽ペンと取り出して、男に問いただし。
「何故、信頼されていた貴方が第二王子とその妻である令嬢の二人を…殺したのですか?」
男は座っている椅子に深く身を預けながら天井に顔向けて、一息すると若い騎士に目を向ける。
「…まぁそうだな。どうせ、二十三日後に俺は処刑台で首を落とされて死ぬ身だ。応えてやってもいいが、話の途中から耳を背けたくなるさ」
「構いませんよ…その覚悟で此処にいますので」
男がそう言うが若い騎士は覚悟を決めて此処にいると応える。
「簡潔に言うとこの惨殺事件は俺が第二王子とその妻である令嬢に向けた復讐だ」
「復讐…?」
若い騎士は目の前の男が口にするには程遠い『復讐』という言葉に反応を示す。
「第二王子の元婚約者を知ってるだろ?」
「えぇ、確か一年前に王国の情報を隣国の敵国である帝国に売った侯爵家の令嬢…その最期は――」
「裁判での発言を許される事なく処刑された」
その言葉に男は頷く。
「また、この処刑には奇妙な点が多くあった」
「それは処刑までの期間が早過ぎた事ですね」
「その通りだ」
男は眉間にしわを寄せながら話す。
「本来、王国の裁判は被告人を逮捕した五日後に裁判が開始されるのが本来の規定だった」
「…裁判は侯爵家の令嬢が捕まってその翌日に裁判が開かれたその日に判決が決まりましたね」
「さらに付け加えるならあまりにも正確すぎる証拠が決めてとなった点…」
男は椅子に背を預けると話を続ける。
「全く、証拠がありすぎて不自然過ぎて仕方がなかった。だが、裁判で挙げられた以上、それは適応される」
「…」
裁判の判決を決め手は『証拠』だ。証拠によって裁きが決まると言ってもいいだろう。
しかし、男が語るその裁判はあまりにも証拠の多さと正確性に異論の発言を許可せずに判決が決まった事への疑問を語った。
「随分と…処刑された令嬢の事を擁護してますね」
「…まぁ…そうだな」
話しに出てきた侯爵令嬢を擁護の姿勢が大きいことを指摘すると男は答えに悩むもすぐに答える。
「今だからこそ、言える。実はな…俺はその令嬢に恋をしてしまったんだ。例え、結婚できなくとも俺は彼女に一生を仕える事を決めるほどの女性だった」
「ッ! それは…」
「まぁ、俺の貴族階級上、男爵家が侯爵家と婚約を申し込むなど無理だからな…」
貴族階級を上から二番目の侯爵と下から三番目の男爵との貴族階級差は、かけ離れた存在だ。
それ故に男の恋心は叶うことは無かった。
「俺は第二王子を殺す前に聞いたんだ。なぜ、処刑したのかを」
男は王国の第二王子を殺した日の事を語り出す。
ーーー
『何故、元婚約者を助けるどころか処刑台へ送った?』
男は血で汚れた剣を第二王子の胸に突きつけながら侯爵令嬢を処刑台に送ったことを問いただす。
『あんな愛想の無い女など、死んで当然だ。私は愛の無い結婚なんて、お断りだ!』
『貴様…!』
第二王子は剣を突き付けられながらも怒鳴るように答える。
そんな態度よりも第二王子の『死んで当然」の言葉に男は殺意が上がる。
『お前はあの女が欲しかったのか!? あんな愛想の無い女を!?』
『…』
男はだんだん第二王子の言葉に苛立っていつでも突き付けた剣を突きさしてやりたくなる。
『ならば最初から言えばいいだろうが! あんな女いつでもくれてやったわ!』
『何?』
自身が使えること誓った侯爵令嬢を物のように発言にさらに苛立ちを隠せない。
『私はな! 王族に産まれたくて生まれたわけでは無い!』
『は?』
王族に生まれた者としてはあまりにも的外れすぎる発言に男は止まる。
『それなのにあの女は王族としての立場だの、あり方だの押し付けやがって! 私が選んだ妻と大きく違ってな!』
『黙れ!』
『がふぁ!?』
男は剣を持っていない片手で第二王子を地面に殴りつけるとさらに地面に倒れた第二王子の腹を足で踏みつけて立ち上がれないように押さえつける。
『何が王族に生まれたくなかっただ…それが王族に産まれたお前の定めだ』
男は剣を一度納めて、先ほどまで第二王子が喚いていた言葉を返すように口を開く。
『王族に産まれた以上、お前は最初から人の上に立っている。お前が『守れ』と命じれば、俺の様な騎士はお前を護らねばならない。 だが、勘違いするなよ? 俺は王族へ忠誠はお前の父である国王とお前の元婚約者だけだ』
殺意と軽蔑、そして憎悪が混じる視線を第二王子に向けるながら話を続ける。
『王族の中でお前のような我が儘の度が過ぎた奴を人は暴君と呼ぶ。その暴君は好き放題した分だけ、人に恨みを買う――俺の様な』
憎悪に濁り切ったその目は第二王子を必ず殺すと物語っていた。
『最初の問いに答えよう。確かに俺は愛していたとも、彼女を…だが、彼女には、お前という婚約者がいた。我が儘なお前を健気に支えようとしていた姿を何度も見て、お前を恨んだ夜は数え切れない』
男は腰に付けていた鞘に納刀されたまま取り外すと、剣が抜けない様に紐で括ると片手持ち、第二王子にゆっくり近づく。
『ま、待つんだ!』
自身がどのように殺されるかを理解した第二王子は男を止めようとするが男は止まらずに鞘に納めたままの剣を振りかざす。
『俺は此処へ来るまでにお前の妻をこの剣で滅多刺しにしてやったが――お前は身体中の骨を粉々に砕いてやるさ!』
振り下ろされた剣は『メキャ』と音を上げて第二王子の右肩の骨を砕く。
当然、骨を砕かれた第二王子は悲鳴を上げる。
『ぎゃぁああ!』
『生憎、此処から助けを呼ぼうと時間がかかる。兵士たちがお前を助けに駆けつけるまでに殺してやるさ』
『だ、誰か! 俺をた――『ゴキャ』ギャァアア!』
その後、男は鞘の収まった剣で第二王子の身体中の骨という骨を砕いた。特に顔は原型を保てないぐらいの状態で発見された。
―――
「これが第二王子を殺した時の事だ」
「…ッ!」
男は惨殺事件の事を話し終えると疲れ切った様に息を吐く。
「まぁ、あの屑王子は自分にとって彼女がよほど鬱陶しい上にしつこい女だったんだろう…嫌われている事を理解していても、王族との結婚は絶対だ。国の為とは言え…あそこまでする必要があったのかと、今でも思う。誰も味方する事も弁論も聞く事なく処刑台までやる必要がどこにあったんだ…」
「先輩…」
若い騎士の目の前に座る男の顔には涙が流れていた。
「あの日、俺は国境の任務をしていた。もしかしたら、その任務を受けていなければ弁護出来たかも知れないと何度も思った」
「…」
「だが、どう足掻いても…俺は…俺は、弱かった。その決断をする勇気がどうしても、出来なかった…」
男は権力という壁に踏み込むことが出来なかった。何故なら、第二王子と侯爵令嬢の結婚自体が国の安寧と秩序を継続させる為の結婚だった。
どのような結果になろうとも我が儘な第二王子に侯爵令嬢が我慢しつつ、国を支えるという大切な婚約だ。これに待ったをかける事ほどの権力が少ない男爵家である男はこの婚約を止めれなかった。
それ故に男は悔しかったのだ。仕えて護ると誓った主を失った事に…。
「屑王子とあの売女さえ、いなければ…俺は! 王妃となった彼女に仕える事を夢見ていたというのに!」
「…それでも、国に仕える騎士には従わざる負えません」
「あぁ、そうだ…。我慢が出来なかった俺は二人を殺し、牢獄の中で処刑台に送られるまで堕ちたのさ」
男が牢獄にいる理由は、王族という国を指揮する者とその妻を殺した事だ。例え、男の思いを理解したところで王族殺しは大罪だという事に変わりは無い。
「話は終わりだ」
「…はい。出来れば、貴方は牢獄にいるよりも城に仕える騎士として生涯を真っ当して欲しかったです」
「ふっ…無理さ。彼女のいない王室なんて」
若い騎士の言葉に男は鼻で笑いながら思い出した事を口にする。
「そういえば…あの令嬢を殺す前に訳の分からない事言っていたな」
「何ですか?」
「自分は『転生者』だとな…まぁ、その後、色々と喚くから殺したがな。彼女を処刑台に行く事になった元凶となった人物だ、俺の抹殺対象だという事に変わりは無い」
「『転生者』ですか…」
それから、二十三日後の午後に男は王宮通り処刑台にて、処刑された。
若い騎士の手帳には男が第二王子とその妻を殺した供述をそこに記録された。
ただ一つ、謎があった。それは『転生者』という謎の存在だった。
それがどう言った存在だった謎を世に残して男はこの世を去った。
しかし、この世を去った男でもその存在が分からないと手帳の端に記述されていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この物語はなろうでよく見る悪役令嬢の物語を読んでこんな話もありではと思って書いた物語です。
ストーリーをざっくりと解説すると身分の差で結婚出来ない近衛騎士の男はそれでも侯爵令嬢を愛していたが叶わない恋なら、せめて忠誠心を捧げると誓っていたが、我が儘な第二王子とその令嬢(転生者)によって処刑された。その事を後で知った男は復讐を果たすというストーリーです。




