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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第4部/第2章

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異世界勇者の物語

 話を聞き終え、聖騎士団の駐屯地を出た俺たち。


 アウローラは道を歩きながら、興奮した様子で俺に訴えかけてくる。


「すごいですの! さすがおじさまですわ! 聖騎士マルコのあんな悔しそうな顔、初めて見ましたわ! くぅ~っ、最っ高ですわ!」


「アウローラ……お前さんもなんだかんだ言って、ストレス溜めてたんだな……。お疲れさん」


 俺は苦笑しながら、アウローラの頭をなでてやる。

 するとアウローラは顔を赤らめ、はっとした様子を見せる。


「あっ……す、すみませんの……聖騎士としてちょっと、はしたなかったかもですわ……」


「いいさ。聖騎士だろうが何だろうが同じ人間だ。ムカつく相手もいれば、フラストレーションだって溜まる。それでいいんだって」


「ううっ……おじさまが優しすぎて、どうにかなってしまいそうですわ……。……本当の私の全部を肯定してくれて、頭なでなでしてくれて……」


 頬を真っ赤に染めたアウローラが、恥ずかしそうな上目遣いで俺を見てくる。


 やっべ、超かわいい。

 今すぐまた抱きたくなってきた。


「にゃーっ、アウローラかわいいにゃあ。また強力なライバルが現れたにゃよ」


「ね、かわいいよね。なんならボクもアウローラのこと抱きたいかも」


「エレン。それをやったら触手魔法で吊るしますよ。百合は結構ですが、きちんとダグラス様の手中でやるように」


「はぁーい。──あ、でもそのご褒美も、久々にほしいかも」


「はぁーっ……。無敵ですねエレンは。駄猫といいエレンといい、妻がこれではダグラス様の苦労が思いやられます。これは私だけでも、もっとしっかりしないといけませんね」


「待つにゃ。どうしてそこでミィナの名前が出てくるにゃ?」


「あら、私は駄猫と言っただけで、ミィナのこととは一言も言っていませんよ? 自覚があるんでしょうか?」


「ふしゃーっ! ダグラスの妻の話で、ほかに誰がいるにゃ!」


 額を突っつき合わせていがみ合うセラフィーナとミィナ。


 俺は苦笑しつつ、その二人の嫁の頭にも手を置いて、わしわしとなでてやる。

 すると二人ともおとなしくなって、俺に抱きつくように身を寄せてきた。


「あーっ、ダグラス、ボクもなでなでしてよー」


「我もなでなでを所望するぞ、わが主よ」


 エレンと、何を思ったか突然に人化したロンバルディアまでもがそう言ってくるので、二人も同じように頭をなでてやる。


 結果、四人の美少女が俺に抱きつくように寄り添いながら、街の中を歩く形となった。


 当然ながら、周囲からの注目を浴びる。

 いろんな意味で歩きづれぇ……。


「す、すごいですわ……たくさんの暴れ馬を一手に御する、おじさまの頭なでなで……ゴッドハンドですの……」


 アウローラはアウローラでごくりと唾を飲み、わけの分からないことを言っていた。

 なんだその謎の能力は。


「でもアウローラも、頭なでられるのは結構好きそうだよな」


「はいですの。もちろん相手にも寄りますけど……おじさまになでなでされると、昔お父様からたくさん褒めてもらって、頭をなでてもらったのを思い出しますの」


「そっか。親父さんはもう亡くなったんだったか。良い親父さんだったんだな」


「それは……」


 アウローラがうつむき、その瞳が憂いの色を帯びる。

 おっと……?


「悪い、アウローラ。何か嫌なことを思い出させちまったんなら申し訳ないんだが──親父さんに何か、良くない思い出でもあるのか?」


「……ええ、少しありますわ。お父様が私に優しくて、たくさん褒めて頭をなでてくれたのは、私が幼い頃だけでしたの。十歳を過ぎた頃から、だんだん褒めてもらえなくなって……」


 アウローラは虚ろな瞳で語りはじめる。

 俺は自分に寄り添う嫁たちとともに、それを聞いていた。


「それからはずっと、お父さまは私に『もっと頑張れ』『お前は努力が足りない』『そんなことでは聖騎士にはなれないぞ』って……。──でも、おじさまはどうして私に『もっと頑張れ』って言わないんですの? それどころか『悪い子になれ』だなんて。私、そんなの初めて言われましたわ」


「どうして……どうしてと来たか……」


 俺は少し考え込む。


 理由はあるのだが、どう伝えたらいいものか。

 ここは一つ、一計を講じてみるか。


「なあアウローラ。今夜なんだけどな──」


 俺は聖騎士の少女に、今日の任務が終わったあとの約束を取り付けたのだった。



 ***



 俺たちもアウローラも、今日の任務は都市の間近にある近隣の村の一つに出向いて、その近くの洞窟に棲みついたモンスターを退治するというものだった。


 この聖王国では冒険者ギルドの勢力が小さく、国防のほとんどを各都市に駐屯地を持つ聖騎士団が行っているようだ。


 俺は気が向いたので、小太り聖騎士マルコからその任務を引き受けていた。


 日帰りの簡単な任務である。

 俺たちもアウローラも、それぞれつつがなく今日の任務を終わらせることができた。


 そして、夜である。


 俺と嫁たちは、食料を買ってアウローラの家に押しかける。

 そして台所を借りて料理をして、一緒に夕食を楽しんだ。


 アウローラは普段は簡単な外食を一人でとることが多いらしく、賑やかな食卓を囲んで笑顔を見せていた。


 だが本題はそのあとだ。


 俺が朝のうちに手配しておいた人物が、夕食後、予定通りの時間に訪問してきた。

 一人の吟遊詩人である。


 玄関口で、アウローラが首を傾げる。


「吟遊詩人の方をお呼びしましたの……?」


「ああ。朝の話をするには、俺が影響を受けた『ある物語』を聞いてもらうのが一番いいと思ってな。ただこの国では、酒場でこの歌を歌うことは禁止されているらしいから、ここに直接来てもらった」


 俺は訪問した吟遊詩人に通常よりも多くの金貨を握らせると、家の中に入ってもらい、予定していた物語を彼に歌ってもらった。


 リュートの音色とともに、彼は歌いはじめる。

 それはこの世界とは異なる世界の、一人の勇者と魔王の物語。


 その内容はというと、こんなものだった。




 ある日、一人の真面目で正義感の強い男が、一振りの聖剣と出会った。


 聖剣から力を与えられた彼は、各地で魔物の脅威から人々を救い、やがて勇者と呼ばれるようになる。


 勇者は世界中の人々の笑顔と平和を守るため、魔物たちを相手に来る日も来る日も必死に戦い続けた。


 その結果、彼の体はボロボロになった。

 力を与えられたとはいえ、ずっと無傷で勝利し続けることなどできない。


 何よりおそろしいのは、その世界には治癒魔法というものがなく、一度重大な怪我をしたら二度と治らないことだった。


 彼はある冒険で、片腕を魔物に噛み千切られて失い。

 また別の冒険では、炎に顔を焼かれて醜く爛れた。

 さらに別の冒険では、片目を串刺しにされて失い。

 挙句の果てには全身に毒を浴びて、内臓が蝕まれ、皮膚が腐った。


 それでも彼は、人々の平和のためにと必死に戦い続けた。

 並の人間であればとうに死んでいるほどの肉体損傷を負い続けても、聖剣の力を得た彼は死ななかった。


 戦いを続けた結果、勇者はついに魔王と呼ばれる魔物たちの親分を倒して、世界中の人々に平和を与えた。


 そうして勇者は、人々のもとに帰還した。


 何度も命を失いかけるほどの苦しみ──

 それを乗り越えて人々の平和を守った彼は、どれだけの称賛の言葉を浴びせられるのか、ひそかに期待していた。


 だが、魔王を討伐して帰還した彼に与えられたもの──

 それは浴びるほどの称賛でも、三日三晩の凱旋パレードでもなかった。


 人々は、帰還した勇者を恐れ、おぞましいと思った。

 ほとんど人の姿を失い、醜い怪物のようになった彼のことを、多くの人々は多かれ少なかれ恐怖し嫌悪した。


 勇者の故郷の地を統治する国王は、勇者に人里離れた場所にある住居と十分な金、そして数人の使用人を与えて、こう伝えた。


 申し訳ないが、人々の前にはもう姿を現さないでほしい。

 そなたの姿は、人々には刺激が強すぎるのだ、分かってくれ。


 勇者は与えられた住居で、孤独に暮らした。

 使用人たちも彼を腫れ物のように扱った。


 でも自分は、人々の笑顔と平和のために戦っていたんだから、これでいいんだ──

 勇者はそう思おうとした。


 でも彼には、そう思うことはできなかった。


 本当の彼は、人々を救うための装置にはなり切れない、ただちょっと真面目で正義感が強くて頑張り屋なだけの普通の人間だったからだ。


 彼の心は、笑顔で暮らす人々の姿を望遠魔法で見て、やがてどす黒く濁っていく。


 どうしてすべてを犠牲にして人々のために戦った自分だけがこんなに不幸になって、あいつらはそれを知らぬふりをして笑顔でいられるんだ、と。


 そうして──次の魔王が生まれた。


 物語はそこで括られる。




「すげぇ良かったぜ。ありがとう」


 俺は見事な歌を披露した吟遊詩人にさらに金貨一枚のチップを渡して、依頼がこれで終了であることを伝えた。


 吟遊詩人は優雅に一礼をして、立ち去っていく。


 彼が退出して家の扉が閉じると、ヒャッホーと叫ぶ吟遊詩人の声が聞こえてきた。

 俺はそれに苦笑してしまう。


 俺が渡した金貨の額は、彼の普段の稼ぎから考えると相当な大金だろうから気持ちは分からんでもないが、プロとしては詰めが甘いよな。

 まあいいや。


「さて、アウローラ──今の物語を聞いて、どう思った?」


 俺が振り返ってそう聞くと──


 アウローラは瞳いっぱいに涙をため、ぐすんぐすんと鼻をすすっていた。


「ううぅっ……勇者が可哀想でずわ……! なんで、ごんな物語……ひどずぎまずのっ……!」


「お、おう、そうか。ずいぶん感情移入したんだな」


 予想以上の激しい反応だった。

 そうか、そうなるのか……。


 一方でうちの嫁たちはというと、もうちょっとドライだった。


「んー、勇者は可哀想だと思うし悲劇だとも思うけど、人間ってそんなもんじゃんって気もするよね」


「そうですね。民のほとんどは概ね善良ではあっても、常にべき論の通りに動けるほど強いものではありませんから。為政者はそうした民の弱さも考慮に入れて、統治を行うものです──って、帝王学の話ではありませんか」


「人里に勇者が住んだら住んだで、差別や迫害てんこ盛りでご近所トラブルになりそうだしにゃあ。それはそれで勇者は暴れそうにゃ。うーん……この話、どうしたらよかったにゃ?」


「ですが、そちらのほうがまだ救いの可能性があったかもしれませんね。国王の判断ミスとも思えます」


 妙に分析的で辛辣なお言葉である。

 うちの嫁たちって……。


 さておき、俺は気を取り直して、こほんと咳払いをする。


「で、俺はこの物語を初めて聞いたとき、こう考えたんだ。俺がすげぇ苦しくてつらい想いをして人助けをして──そうやって必死に救った相手が、俺に何の感謝もせずにげらげら笑って楽しそうに酒飲んでたら、俺はそれを喜べるのか──ってな」


 アウローラと、そして嫁たちもまた神妙にそれを聞いていた。

 こんなおっさんの説教なのに、清聴してもらえるなんて冥利に尽きるな。


「で、思ったんだ。順番が逆だって。まず自分が幸せになるのが先で、人助けなんてのはそのおこぼれでやるものだってな。他人を幸せにする前に自分が幸せじゃねぇと、救った相手を憎んじまう。だから──」


 そして俺は、アウローラのほうを見る。

 ドキッとした様子で、アウローラが震えた。


「だから俺は、アウローラにも幸せになってほしいって思ってる。人々を救いたいって思ってるやつには、何よりもまず自分が幸せになることに全力を尽くしてほしいんだ。自分が頑張りすぎて、救った相手を憎んじまうなんて哀しすぎる──俺はそう思うんだよ」


「私自身が、幸せに……私の、幸せ……」


 アウローラは反芻するように、俺が伝えた言葉を自分の舌に乗せていたのだった。


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