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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第4部/第1章

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棍使いの少女

 俺は嫁たちと共に、兵舎の建物から外に出ていく。


 兵舎庭先の門付近には、すでにたくさんの兵士たちが出てきていた。

 彼らはそこで、見知らぬ一人の少女を取り囲んでいる。


「やあやあ、こう大勢に出迎えられると、兵舎破り冥利に尽きるっすねー」


 少女は大勢の兵士たちに取り囲まれても、まるで慌てた様子もない。

 手にした戦棍を構えることもなく、暢気な様子でにこにこしていた。


 鮮烈な赤髪を持った少女で、外見年齢はうちの嫁たちと同じぐらい。

 モンクが好んで着る類の道着を身に着けている。


 少女──と言っても例によって実年齢は俺より上なんだろうが──はさらに、兵士たちを挑発するようにこう言ってくる。


「でも自分、雑魚を虐殺するのにはあんまり興味ないんすよ。なもんで、ここで一番強いやつに前に出てきてほしいっす。出てこないなら、しょうがないから皆殺しっすけど」


「なんだと貴様! やれるもんならやってみろ!」


「ガキが、調子に乗りやがって!」


 彼女を取り囲む兵士たちが息巻いて武器を抜く。

 少女がニヤリと口元を歪めた。


「へぇ、抜くんだ──だったら命はいただくっすよ」


 少女の目が、ギラリと光る。

 彼女が戦棍を手に構えれば、周囲の兵士たちはその気迫にたじろいだ。


 だが──


「待ちなさい、あなたたち。何のためにダグラスさんに来てもらったと思っているんです」


 いきり立つ兵士たちを制止したのは、兵舎の隊長だった。

 隊長は俺に「お願いします」と声をかけてくる。


 どうやら出番のようだ。


「どぉーれ。それじゃあ用心棒として、働くとしようかね」


 俺は少女の前に、のしのしと出ていく。

 彼女を取り囲んでいた兵士たちが、俺のために道を開ける。


 少女と対峙した。

 戦棍を手にした少女は、嬉しそうに口元を吊り上がらせる。


「へぇ、用心棒っすか。なぁんだ、じゃあ自分が今日ここに来ることはバレてたんすね」


「ああ。分かりやすい犯行ルートだったから、次の行動も読みやすかったそうだぜ」


「ま、その辺は何も考えてなかったっすからね自分。──でも、そこまで分かっていて自分の前に立つなら、おじさんは相当の使い手ってことっすよね?」


「まぁな。本当はお前さんとやり合うのは別のやつになる予定だったんだが、残念ながら体調不良で急遽欠席だ。代わりに俺が相手をすることになった。お手柔らかに頼むぜ」


「いやぁ、それは難しいんじゃないっすか? どんなにお手柔らかにしたって、最後は殺すわけっすよ」


「ああ、そうそう、そいつは確認しておきたかったんだが。──お前さん、俺に負けたときには何をされても文句はねぇってことでいいか?」


「あはははっ、本当に勝てる気でいるんすね! ──もちろん文句ないっすよ。これは強者同士の殺し合いっす。負けたやつは勝ったやつに食われて血肉になる。当たり前のことっす」


「そうか、それは良かった」


 俺は聖斧ロンバルディアを構える。

 少女もまた、戦棍を構えて戦闘態勢をとる。


 彼我の距離は十歩ぶんもないぐらい。

 俺か向こうのどちらかがその気になれば、一瞬で近接戦闘の間合いに入る距離だ。


「それじゃあ──“竜神器十将”が一人、(こん)使いのネツァフ、参るっす!」


「斧使いの冒険者ダグラスだ──行くぜ!」


 俺と少女、両者同時に地面を蹴った。


 互いに近接攻撃型の武器だ。

 接近戦になるのは必定。


 だが武器のリーチは、向こうのほうが長い──


「──ほっ!」


 ──パァンッ!


「ぐっ……!」


 ほとんど何をされたのか分からないうちに、俺は胸に痛みを感じていた。

 一瞬後に、あの戦棍で左胸を突かれたのだと気付く。


 速い。それに洗練された動き。

 戦棍を腕の一部のように使って放たれる、目にも止まらぬロングリーチの突き攻撃。


 だが──


「──ぉおおおおおっ!」


 俺も止まらない。

 ダメージを無視して突進。


 棍使いの少女が驚きの表情を浮かべる。


「くっ……!?」


 少女は慌てた様子で、俺を押し返そうとさらに三発の突きを入れてきたが、俺はそのダメージも無視。


 胸骨にヒビが入る程度のダメージはあるが、ここで怯んだら勝てるものも勝てなくなる。


 そしてようやく、斧の間合い。


「──っらあ!」


「うわっと!」


 俺がロンバルディアを振るうと、少女は慌てて飛び退る。

 すんでのところで回避された。


 棍使いの少女はさらにぴょんぴょんとバックステップで後退し、俺から距離をとる。

 そして額の汗を、ふぅと拭った。


「は、ははっ……おじさん何者っすか……? 普通の人間だったら、最初の一撃で心臓が破裂してるはずなんすけどね」


「そっちこそ大したもんだ。そう素早いと、やりづらくてしょうがねぇ」


「なんて言ってるわりに、余裕そうっすね。──これは自分も、本気を出さないとダメそうっす。これやると数日反動があるから、なるべく使いたくないんすけど──そうも言ってられない相手っすもんね!」


 そう言って少女は、再び棍を構え──


「──はぁあああっ! ──【リミットブレイク】!」


 ──ゴォオオオオオッ!


 少女の全身から、闘気が解放された。

 わずかな灯りで照らされた闇夜の中に、はっきりと目視できるほどの輝きが発せられる。


 その莫大な闘気はびりびりと空気を震わせ、周囲の兵士たちをもびくりと震え上がらせた。


 おそらくは、一時的な全能力強化スキルといったところか。


「さあ──行くっすよ!」


 少女は地面を蹴る。

 最初の交戦時よりも、さらに速い。


「これで終わりっす──【竜炎撃】!」


 戦棍が炎を纏う。

 攻撃の威力を増加するスキルだろう。


 少女は俺に向かって、突きを繰り出そうとして──


 もちろん俺だって、黙って見てはいなかった。


「──【重圧】【神速】!」


「えっ……?」


 炎をまとった戦棍が突き出されたときには、俺はすでに横手に回り、攻撃を回避していた。

 驚きの表情を浮かべる少女。


 少女の動きが急激に悪化し、逆に俺の速度が劇的に上がったのだ。


 目の前には、棍を思いきり突き出した姿勢で上半身が流れる少女の姿。

 俺は左手で、こぶしを握る。


「ちょっと痛いが、我慢しろよ! ──【ホーリースマッシュ】!」


 ──ドォオオオンッ!


 俺は下から突き上げるように、輝く拳のボディーブローを叩き込んだ。



「──うぶっ……! か、はっ……!」


 少女の体が持ち上がり、くの字に折れ曲がる。


 俺が拳を引くと、少女はがくりと膝をつく。

 からんと、棍が地面に落ちた。


 俺はロンバルディアの刃を、少女の首筋に押し当てる。


「チェックだ。俺の勝ちってことでいいな?」


 少女は咳き込みながらも、震える両手を上にあげた。


「けほっ、けほっ……! つ、強すぎるっす……【リミットブレイク】まで使った自分が……まったく歯が立たずに、いいようにされるなんて……か、完敗っすよ……」


 降参の意志表示だった。

 俺は彼女の首筋に当てていたロンバルディアを引いて、少女に手を差し出す。


「「「うぉおおおおおっ! すげぇえええええっ!」」」


 兵士たちから歓声が上がる。

 夜分に近所迷惑なことだが、まあしょうがないな。


 戦棍使いの少女は、俺の手を取った。

 膝をがくがくと震わせながらも、どうにかという様子で立ち上がる。


「はぁっ……はぁっ……じ、自分の負けっすよ……おじさん、信じられないぐらい強いっすね……でも……」


「でも……?」


 一度降参したのに、まだやるつもりだろうか。

 などと、思っていると──




「──隙ありっす♡」


「んむっ……!?」




 何を思ったのか、少女は俺に抱きつき、唇を重ねてきた。


「「「へっ……?」」」


 兵士たち、そしてうちの嫁たちの驚きの声。


 もちろん俺も、目を丸くして驚くばかりだ。

 殺気がなかったから、対応できなかったわけで。


 周囲が呆然とする中、少女はたっぷり数秒間キスをしてから、俺から唇を離す。


 そして半歩身を引くと、頬に両手を当て、身をくねくねとよじってこう言ってきた。


「自分、ずっと探してたっす♡ 本気になった自分を、力でねじ伏せてくれるオスを──さあおじさん、自分を食べてくださいっす♡ 自分をあなたの血肉にしてほしいっすよ♡」


「「「なっ、なっ……なにぃいいいいいっ!?」」」


 うちの嫁たちの叫び。

 それもやっぱり近所迷惑だったが、叫びたいのは俺も同じだった。


 えぇっと……つまり、あれだ。

 展開が速すぎて、ついていけていないのだが──


 これは一体、どういうことかね?


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