襲撃の後
“竜神器十将”の一人、弓使いのビナーとの熱いデートを終えた俺は、嫁たちを連れて街へと帰還した。
なお、帰りはビナーも一緒である。
彼女とは夕日の下で熱く殴り合った仲──ではなく、朝っぱらから殺し合いをした挙句にエッチなことをして奴隷にした仲なわけだが、仲直りしたようなものと思っていいだろう……多分。
今の時刻は昼下がりだ。
昼食を食べていないので、さすがに腹が減ってきた。
だが昼飯にありつく前に、確認しておきたいことがある。
俺たちは王都に入ると、王国騎士団の駐屯地へと向かった。
すると案の定、騎士団駐屯地は慌ただしく、バタバタとしていた。
俺はバタバタしている兵士の一人を捕まえて話を聞く。
兵士は俺の顔を見るなり、大声で叫んだ。
「い、いたーっ! ダグラスの旦那! あんたのことをみんなで探していたんだ! 今すぐ騎士団長のところに行ってくれねぇか!?」
「俺を探していた……? ざっとでいい。何があったか教えてくれ」
「あ、あんたが捕まえてくれたあの竜人族とかいうガキが、牢から逃げ出したんだ。どうも誰かに手引きされたらしいんだが……。あと、クロエの嬢ちゃん──じゃなかった、一等騎士クロエの姿が見つからねぇんだ」
「……クロエが?」
「ああ。あと旦那あての言づてが書かれた羊皮紙が、牢に置いてあった。それは今、騎士団長が持ってる」
……どうも俺が予想していたより、さらに状況が悪そうだ。
俺は急ぎ足で、騎士団駐屯地の建物内にある団長室へと向かった。
団長室の扉をノックすると、王国騎士団長カルロスが慌てて俺たちを部屋に招き入れた。
そして丸められた一枚の羊皮紙を取り出して、俺に見せてくる。
俺は羊皮紙を開いて、そこに記されている内容に目を通す。
『冒険者ダグラスに告ぐ。女騎士クロエは預かった。返してほしくば明日の夜、竜神の槍を持って王都北の指定の場所まで来い。王国騎士団は手出し無用のこと。これを破った場合、女騎士の命はないと思え』
これらの文言とともに、指定の場所を記した内容と、今日の日付が記述されていた。
俺はひと通り内容の確認を終えると、その羊皮紙を丸めて懐にしまう。
それを見て、騎士団長カルロスが口を開いた。
「ダグラス殿。その『竜人の槍』というのに心当たりはあるか?」
「ああ。俺が手元に持っている。しかしクロエを人質にとるとはな」
「私もこのようなことになるとは、つゆとも思っていなかった。一等騎士クロエはどうも、竜人族マルクト脱獄の現場に偶然居合わせたようだ。その場にいたほかの者──牢番やほかの囚人たちは無惨に虐殺されていたが、騎士クロエの死体はなかった」
「また虐殺か。胸糞の悪い話だな」
「まったくだ。ほかの囚人まで殺すのは、もはや殺戮そのものが目的だとしか思えん。──殺戮者の手からどうにか逃げ延びた牢番によると、脱獄の手引きをした襲撃者は杖を手にした老人で、おそるべき魔法使いだったという話だ」
「杖を手にした老人か」
そう言われて俺の頭に浮かんだのは、グールの群れと戦ったときに出会った老人らしき人影だった。
“竜神器十将”の一人、杖使いのコクマーを名乗った人物。
一緒について来ていたビナーに視線を送ると、竜人族の少女は、俺の直感を肯定するようにうなずく。
「はい。まず間違いなく、コクマーさんだと思います。マルクトちゃんと一緒に動くと言っていましたから。大臣アウグストから、マルクトちゃん投獄の情報を得て動いたのかと」
と、そのビナーの言葉を、騎士団長カルロスが聞きとがめる。
「大臣アウグスト……? ダグラス殿、こちらの女性は? アウグスト殿が何か、今回の件に関係しているのか?」
「ああ、それなんだがな──」
俺はかくかくしかじかと、カルロスに事情を説明していった。
ビナーが竜人族の一人であること。
彼女によると、大臣のアウグストは竜神教の教徒であり、今回の事件を起こした竜人族たちとつながりがあると思われること。
説明の都合で、途中でビナーに竜人族本来の姿になってもらったりもした。
マルクトもそうだったが、角と尻尾と翼が生えた姿は、やはりちょっとかわいらしい。
一方、そのビナーの姿を見た騎士団長の目は、驚きに見開かれる。
「な、なんと……!? この少女も、竜人族の生き残りであると……!? だ、ダグラス殿……一緒に行動しているようだが、その……彼女は本当に、大丈夫なのか……?」
カルロスは腰にさげた剣を握ろうとする手を、必死に抑えているようだった。
無理もないことだろう。
竜人教の教徒が破壊活動者で、竜人族たちが殺戮行為を行ったとなれば、竜人族は人間の敵対者だと思うのは当然のことだ。
だがそれには、エレンが後ろから口を挟む。
「大丈夫だよ、騎士団長さん。ビナーはいい人だし、それに今はダグラスの奴隷だからね。いざとなってもダグラスが命令をすれば言いなりにもががっ」
羽のように軽いエレンの口を、ミィナとセラフィーナの手が慌ててふさいだ。
二つの手でしっかりと口と鼻をふさがれたエレンは、もがもが言って獣人の少女と第六王女の腰をぺしぺしと叩く。
それを見て俺が苦笑をしていると、騎士団長がなおも驚きの声をあげる。
「ど、奴隷……? いったい何が……」
「いや、いろいろとな。こっちの話だから気にしないでくれ」
「そうか……。というか、ダグラス殿、あなたはいったい何者なのだ……? 報告では少人数でグールの群れを圧倒し、おそるべき隕石落下の魔法を幻のように消し去ったとも聞いた」
「それは事実だな」
「加えて、我々騎士団の手にあまる竜人族の殺人鬼をもやすやすと捕らえ、さらには別の竜人族を支配下に置いている、のか……? いずれも人間離れした、尋常ではない活躍ばかりではないか。Aランク冒険者であるにしても、いくら何でもそれは……」
カルロスはどうにも戸惑いを隠せないという様子だった。
まあ、それはそうだろうな。
自画自賛になってしまうが、今の俺の能力は普通に考えて、常人のそれをあまりにも大きく逸脱している。
Aランク冒険者といえば、この世のすべての冒険者たちの中でも選りすぐり中の選りすぐり、誰もが憧れるような英雄を意味する称号だが──それでも並のAランク冒険者では、こうはいかないだろう。
目の前の騎士団長カルロスも、小国なりと騎士団の団長を任されているからには相当の凄腕だろうと思うが、だからと言って隕石落下の魔法を斬って無効化するような超常の力は持っていないはずだ。
あらためて、俺──聖斧ロンバルディアの力を得たダグラスという冒険者は、人間をやめてきているなぁと思う。
この間倒した古竜が、自分は半神にも近いとか何とか言っていたし、意外と神の領域とかいうのも射程圏内だったりするのかもしれない。
ま、それはさておき──
「それよりも、今は連中への対策だな」
「あ、ああ、そうだったな。──アウグスト殿が国家転覆をたくらむような人物なら、その気になって探せば証拠となる何かが見つかるかもしれない。そちらは私のほうで探ってみよう。──だが問題はその、ダグラス殿を呼び出した竜人族たちだな。ただでさえ人並外れた力を持った敵であるのに、騎士クロエまで人質に取られているとは。無論、クロエも騎士だ。任務の最中に命を落とすことも、覚悟はしているはずだが……」
カルロスはそう言って、表情を曇らせる。
クロエは若い女性騎士だ。
ほかと差別をするではないにせよ、何とかして救ってやりたいという気持ちは、俺やカルロスぐらいの歳の男なら誰でも持つことだろう。
俺は騎士団長カルロスのもとまで歩いていくと、その肩にぽんと手を置いた。
「ま、そっちは俺のほうでどうにかするさ。大船に乗ったつもりで朗報を待っていてくれ」
「ど、どうにかすると言ったって……勝算があるのか……!?」
「さぁな、そいつはこれから考える。ただまあ──これでも案外、英雄の真似事には慣れているんだ。じゃ、また後日。朗報を持ち寄ろう」
俺はそう言って、団長室をあとにする。
嫁たちを連れて団長室の入り口を出たところで、背後から声がした。
「頼む、ダグラス殿──クロエを救ってくれ! あいつは頑張り屋で、まっすぐで……私はこんなところで、あいつに命を落としてほしくはない!」
「そうかい、奇遇だな。──俺もまったく同感だよ」
俺はそう言い残して、今度こそ団長室をあとにした。





