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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第2部/第4章

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遭遇

 ゴブリンに道案内をさせ、途中で昼食を挟んだりもしながら、俺たちは森の中を進んでいく。


 すると森はやがて、奇妙に捻じれた草木が繁茂する不気味なものへと姿を変えた。


 また、その頃からあたりには白い霧がかかり始めた。

 霧は濃く、十歩先の視界すら怪しいほどだ。


 木々の葉の合間から降り注いでいた木漏れ日も、今やその鳴りをひそめ、まだ夕刻前のはずだというのに、森は暗くどんよりとした陰鬱な雰囲気へと変わっていた。


 それでも怯まずに、俺たちはなおも進んでいく。


 するとしばらくした頃に、ゴブリンがキィキィと声を上げ、行く先を指さした。


 そこはざあざあと大量の水が流れ落ちる、大きな滝の前。

 不気味な森の中に現れた巨大な滝つぼの前に、俺たちは立っていた。


「あの滝が、竜の住処だというのか? このゴブリン、私たちを謀っていることはあるまいな」


 オーレリアが眉をひそめて言うが、それに対して首を横に振ったのはセラフィーナだ。


「いえ──あの先です。私が夢で見たのは、あの滝の奥に隠れた、巨大な洞窟です」


「夢……? どういうことだ?」


「うーんとね、セラフィーナは『予言の巫女』って呼ばれている予言者なの。夢で未来を見ることがあるんだって」


 事情を知らないオーレリアに、エレンが説明する。

 オーレリアは当然ながら驚いていたが、特にそれを疑うことはしなかった。


 俺はゴブリンのロープをほどいて解放してやる。

 ゴブリンは滝とは異なる方向に、一目散に逃げていった。


「あのゴブリン、殺さなくてよかったにゃ?」


「道案内をしたら逃がしてやるって約束だったからな。邪悪なゴブリンが相手だ、逃がしたことで被害者が出るかもしれないが、それでも自分がした約束を破るのは俺の主義じゃない。……間違っていると思うか?」


「んー、分からないにゃ。でもなんか、ダグラスらしい気はするにゃ」


 ミィナからそんな評価を受けつつも、俺は目的地へと向かってさらに歩みを進めていく。

 その後ろを、四人の武装した美女たちがついてくる。


 滝つぼを迂回して、岩山の裾をえぐって作られたような上り坂の道を進んでいくと、やがて滝の裏側にある巨大な洞窟の前へとたどりついた。


 もはやそれを洞窟と呼んでよいものか。

 そびえたつ岩山を何で穿ったらこんな巨大な空洞ができるのか、それすらも想像がつかないような地形だ。


 その巨大空洞の奥に、何か恐ろしいものがいる気配が、確かに感じられた。


 莫大な量の水が落ちる轟音が響き渡り、大声で叫んでも隣に声が届かないような中で、俺は【守護乙女の祝福】を使用する。


 淡く光を発した俺の体を見て、ミィナ、エレン、セラフィーナが俺に口付けをしてくる。

 三人の姿が光り輝き、神々しい戦乙女を思わせる姿に変身した。


 俺は仲間たちとうなずき合うと、巨大洞窟へと足を踏み入れていく。


 岩山を穿って作られた洞窟では、その壁面や天井や床のあちこちに、奇妙なツタ植物が繁茂していた。


 ツタの一本一本が人の胴ほど太いものもあり、その洞窟の巨大さも相まって、自分たちが小人になってしまったのではないかと錯覚する。


 そのような自分の矮小さを思い知らされるような空洞を、どれほど進んだだろうか。


 滝の轟音もほどよい背景音に聞こえるほど小さくなってきた頃、その場所にたどり着いた。


 そこは、これまで進んできたトンネル同様に緑のツタがあちこちに蔓延る、広大な広間だった。


 どのぐらい広大かといえば、ちょうど商業都市ベルフォードにあった闘技場と同じぐらいの広さと思える。


 その広間の奥に、一頭の竜がいた。

 深緑の鱗を持った、グリーンドラゴンだ。


 遠近感が狂うほどの凄まじい巨大さだ。

 その巨大さを、どう表現したらいいものか──


 例えば、カバやサイほどの体格を持ったワイバーンも竜の眷属であると言われているが、あんなものとはまるで別物だ。


 以前に戦ったレッドドラゴンは、ワイバーンを十体近くも積み重ねたほどの巨体だった。


 だがそのレッドドラゴンすらも、いま目の当たりにしているグリーンドラゴンと比べれば子供であったのだと思えてくるほどの、意味の分からない巨大さである。


 あれが──古竜(エンシェントドラゴン)


 あのような雄大な生き物に、人間のような矮小な生き物が立ち向かえるものなのか。

 俺はひょっとして、とんだ思い違いをしていたのではないか。


 だがそんな巨大な竜も、今は目に見えるほどの怪我を負っていた。

 背中に二ヶ所、そこだけ鱗が剥げ、肉が穿たれたあとがある。


 エルフの集落を守っていた「老師」が、究極の攻撃魔法、隕石落下(メテオストライク)で撃った成果であるに違いない。


 その負傷には今、周囲からきらきらとした光の粒が集まり、何かの作用をしているように見えた。


 竜は自らの力が宿ったねぐらで休むことにより、どんな大きな傷も数日程度で癒すことができると言われている。

「老師」が与えたあの傷も、二、三日も休めば綺麗に癒えてしまうのだろう。


 しかし、それでも──


「老師」が古竜(エンシェントドラゴン)に残したダメージの証は、人があの生き物を打倒しうるのだということを、何よりも如実に教えてくれているように思えた。


 勝てる──いや、勝つ。

 俺は聖斧ロンバルディアを強く握り、再び覚悟を決める。


 そのとき、とぐろを巻いていた竜が、面倒そうに身を起こした。

 竜がその口を開く。


『お前たちはなんだ……? エルフもいるな。──ふはははっ。まさかとは思うが、仇討ちにでも来たのか?』


 びりびりと大気を震わせる、地の底から響くような尊大な声。

 それを受けただけで──


「にゃっ……あっ……!」


「こ、心が……圧される……!」


「声だけで、こんなに……ダグラス様……!」


【守護乙女の祝福】によって強化されているはずのミィナ、エレン、セラフィーナが、怯えるように声と体を震わせていた。


 一方、同様にレイピアを持つ手を震わせていたオーレリアは、その恐怖に抗うように懸命に叫ぶ。


「そ……そうだ、邪竜よ! 貴様に虐殺された同胞たちの無念、この剣で貴様を討ち滅ぼし、見事晴らしてみせよう!」


『ぐわははははっ! 笑止千万! 思い上がるのもほどほどにしておけエルフ。だが自らワシに食われに来たのは良いぞ。土産に持ち帰ったエルフどもも食らい尽くし、ちょうど腹も減ってきたところだ。貴様は骨までかみ砕いて、我が舌の上で転がして味わい尽くしてくれよう』


「ゆ……許さんぞ、この悪魔め……!」


 今にも飛び出していきそうなオーレリアを、俺は手でもって制する。


 そして俺は、エルフたちの命を玩弄する竜に向かって言い放った。


「思い上がっているのがどちらであるのかは、戦ってみれば分かるさ。そうだろう、ドラゴンの旦那」


 すると竜は、一転して不愉快そうな声をあげる。


『……不遜だぞ。人間如きが対等ぶるとは』


「ドラゴンごときがこの世の支配者ぶっているのもどうかと思うぜ」


『……よかろう。貴様はあらゆる絶望を与えてから、最後に殺してくれよう。まずは貴様の全身の骨を砕く。身動きが取れなくなった身に、雌どもが苦痛に喘ぎ泣き叫ぶ声をたっぷりと聞かせてくれよう』


「そうかい。千年生きていようが、悪趣味な性格ってのは直らないものらしいな。──いいぜ、古竜(エンシェントドラゴン)。やれるもんならやってみな!」


 俺は仲間たちに号令をかけると、この巣穴の主に向かって駆け出した。


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