討伐
周囲を鬱蒼とした森に囲まれた、数百人規模のエルフの集落。
俺はミィナとセラフィーナを連れ、その路上をずんずんと進んでいく。
オークやゴブリンどもによる蛮行は、集落のあちこちで行われていた、
殺戮等の傷害行為はおおむね済んだ後のようだが、陵辱行為は現在進行形で行われている。
女性の悲鳴や喘ぎ声が聞こえるほうに向かえば、二、三体のオーク、あるいは四、五体以上の多数のゴブリンが寄ってたかって一人のエルフ女性に群がっている場面に出くわす。
エルフに夢中になっていたオークやゴブリンどもは、俺という予想外の客の接近に気付くと、慌てて行為を中断して武器を引っ掴み、俺に襲い掛かってきた。
俺はそれを、手にしたロンバルディアを無造作に振るい、次々と殺していく。
オークの頭部を吹き飛ばし、あるいはゴブリンの胴体を数体分まとめて両断するなどして、モンスターどもの血と臓物で集落の大地を染めあげていく。
「グギャギャッ! ギャーッ!」
やがて一体のゴブリンが、俺に敵わないと見たのか、一人のエルフの首元に短剣を当てて、こちらに向かって何かを叫んできた。
どうやら人質を取っているつもりらしいが──
「ミィナ、頼む」
「了解にゃ。でも失敗しても勘弁してほしいにゃよ」
「ああ、できればでいい。──うらあっ!」
俺はミィナに小声で伝えると、人質を取ったゴブリンを威嚇するように、とりわけ派手な動作でロンバルディアを地面に向かって叩きつけた。
轟音を立てて斧の刃が大地に突き刺さり、地響きとともにそこに地割れを作る。
「──ッ!? ──ギャギャッ、ギャーッ!」
エルフを人質に取ったゴブリンは一瞬当惑した様子を見せたが、すぐにまたエルフの首筋に当てた短剣を見せびらかすようにして、何やら叫び始める。
何をしている、人質を殺されたいのか──とか、そんなあたりのことが言いたいのだろう。
さらに別のゴブリンやオークが周囲からわらわらと現れ、俺たちを取り囲んでいく。
抵抗できなくなった俺たちを、嬲り殺しにしようという魂胆だろう。
「セラフィーナ、俺から離れるなよ」
「はい、ダグラス様」
セラフィーナは俺の背中にそっと寄り添うように付き従う。
なお、このときにはすでに、ミィナは俺の背後からいなくなっていた。
「フゴォーッ!」
「ゲギャギャーッ!」
俺を取り囲んだオークやゴブリンどもが、その手の武器で俺を殺そうと一斉に襲い掛かってくる。
その顔はいずれも、俺が抵抗してこないだろうと見込んでか、ニタついたような表情だった。
だが──
「──むんっ!」
俺はロンバルディアを大きく一薙ぎする。
飛び掛かってきたオークやゴブリンどもは、その胴体を一つ残らず真っ二つにされて、あたりに飛び散った。
「──ッ!? ──グギャギャーッ!」
エルフを人質に取っていたゴブリンは、困惑したような様子を見せる。
と、そのとき──
エルフを人質に取っていたゴブリンの首が、不意に背後から現れた別の短剣によって掻き切られた。
首から鮮血を吹き出し、力を失って地面に倒れ込むゴブリン。
「……ふぅっ、何とかなったにゃ」
ゴブリンの背後に忍び寄っていたミィナが、ホッと息をつく。
ミィナは俺の派手な動作に合わせて隠密行動をとり、ゴブリンの死角を取って動いていたのだ。
だが、そこに──
──ドガァアアアアアンッ!
ミィナの背後にあった家から突如、扉を破って一体のオークが現れた。
「──フゴォオオオオオッ!」
そのオークは棍棒を振り上げ、ミィナに襲い掛かる。
ミィナはそれに対応すべく、身を翻して短剣を構えるが──
「──させるかっ!」
そのオークの横合いから、疾風のように駆け込んだ少女の姿があった。
別働隊として動いていたエレンだ。
まっすぐに突っ込んだエレンの剣は、オークの首を貫通。
ミィナに向かって棍棒を振り上げていたオークは、その口から吐血する。
少女剣士が剣を引き抜くと、オークの首から勢いよく血が噴き出した。
それでもなおも即死せずにエレンに襲い掛かろうとしたオークに、エレンはさらに二発の斬撃を叩き込んで、そのオークを打ち倒す。
その様子を確認した俺は、腰のベルトから引き抜いて投げようとしていた手斧の目標を変え、慌てて逃げ去ろうとしていた一体のゴブリンに向かって投げつけた。
ぶんぶんと回転して飛んでいったハチェットは、ゴブリンの頭部をかち割って、そいつをどうと打ち倒した。
──これで見える範囲では、動いているオークやゴブリンの姿はなくなったか。
剣を振って血糊を飛ばしたエレンが、俺のほうへと歩み寄ってくる。
「ふぅっ……。結構な数がいるね。オークとゴブリン合わせて、集落全体で百体以上はいるんじゃないかな。そろそろ半分ぐらいは倒したと思うけど」
「ああ。こいつらだけでも、ちょっとした村ぐらいなら壊滅させられる規模の戦力だな。……オーレリアは?」
「大丈夫だと思うよ。頭に血が上っているかと思ったけど、冷徹だよあれは。そのオーレリアからの伝言。『やつらは人質を取ってくるかもしれないが、構わなくていい。事態がこうなっている以上は多少の犠牲は免れん。自分たちの命を優先してくれ』だってさ」
「……なるほど、大したものだな。それなら確かに心配はなさそうだ」
人質を取られうる状況にある時点で、すべてのエルフの完全救出は不可能──
理屈は分かるし、俺もそれを前提に動いているが、自分の故郷でそれを言い切るというのは並大抵ではない。
オーレリアもまた、Aランク冒険者に至るまでには、いくつもの修羅場をくぐってきているということか。
またエレンもそれを分かっていてか、妙に明るい声で言う。
「それじゃ、ボクたちももう一仕事しますか」
「ああ。ミィナ、セラフィーナ、行くぞ」
「了解にゃ」
「はい、ダグラス様。……でもこういうとき、魔法を温存しなければならない魔法使いというのは、もどかしいものですね……」
「その代わりに、セラフィーナは俺にできないこともできるからな。頼りにしてるよ」
「……はい。ダグラス様は本当に、私の理想の勇者様です」
俺が頭をなでてやると、セラフィーナはまたそっと俺に寄り添ってきた。
──と、そういった調子で、俺たちはエルフ集落で暴虐を働くオークやゴブリンどもを、片っ端から始末していった。
俺が何十体殺したかを覚えておくのが面倒になってきた頃には、集落にいたオークやゴブリンはほとんど皆殺しになっていた。
ただしゴブリンのうち一体だけは生かしておいて、セラフィーナの魔法で眠らせて捕縛した。
朗報だったのは、その討伐の流れの中でエルフの犠牲者が一人も出なかったことだ。
案ずるより産むが易しと言うが、不幸中の幸いとも言える結果だった。
──そうして集落内の掃除が終わった後。
俺たちは、集落で生き残った半数ほどのエルフたちの中から代表者を集めて、彼らから詳しい話を聞くことにした。
集落の族長は、彼の住居の居間に集まった俺たちに向かって、沈痛な面持ちで話し始める。
それはこんな話から始まった。
「我が愚息の暴走が、この悲劇を引き起こしたのだ……」





