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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第2部/第3章

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決勝戦(2)

 再び交戦が始まってから、一分ほどが経過しただろうか。


 俺とティフェレトの戦いの趨勢は、明らかな俺の不利へと傾いていた。


「ははははっ! どうしたどうした斧使い! また入ったよ!」


「ぐぅっ……!」


 ──ぶしゅっ!

 俺の脇腹に食い込んだ大剣をティフェレトが引き抜くと、傷口から血が噴き出す。


「──くそっ!」


「おおっと」


 俺が痛みをこらえて振るったロンバルディアの一撃は、ティフェレトにすんでのところでかわされる。

 ティフェレトは軽やかにステップを踏んで後退し、俺から距離をとる。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……あ、当たらねぇ……」


「くふふっ……あたしの戦い方は雑だから、付け入る隙があるんじゃなかったのかい? そんな程度じゃあたしは食えないねぇ」


 嘲るように言葉を紡ぐティフェレト。

 俺は冷静さを欠かないよう気を付けながら、ロンバルディアの柄を握りなおす。


 これまでに受けた負傷は三ヶ所。

 左肩への斬撃、右胸への突き、そして今の脇腹への斬撃。


 いずれも浅くはない傷だ。

【治癒能力】は正常に働いているが、回復速度はダメージの積み増しに追いついていない。


 一方で俺の攻撃は、これまで一度もティフェレトに直撃を与えていなかった。

 一度だけ相手の脇腹をかすったものはあったが、それもほどなくして治癒されてしまった。


「勘が鋭すぎる……こいつは計算外だったな……」


 俺は額に浮かんだ脂汗を腕で拭いつつ、不敵に口元を吊り上げ、そうつぶやいていた。


 ティフェレトの動きは速い。

 斧使いの俺と比べれば、はるかに上だ。


 その速さで引っかき回されていることが、俺の苦戦要因の一つであることも間違いないが──


 しかし一方で、俺が見込んでいた通り、ティフェレトの動きはギルラムのそれと比べてかなり雑だった。


 ティフェレトは基本的にすべての攻撃を必殺の狙いで放ってくるが、その分だけ防御はおろそかになる。

 うまく機を見計らえば、攻撃を命中させることは可能であるように思えた。


 だが実際にそれを試みようとすると、ここぞというときに、なぜか外される。

 それが三度、同じことがあった。


 その反応の仕方から、動物的な勘がおそろしく鋭いのだろうと俺は分析したが、それが分かったところで、さてどうしたものかと攻めあぐねるしかない。


 ギルラムが理詰めで戦っているとしたら、ティフェレトは感性で戦っている。


 ティフェレトの戦い方は、実際のところ、これはこれで完成されているのだと俺は思い知らされていた。


 さて、隙を狙っても外されるのであれば、あとはもう純粋に攻撃速度を上げるしかない。

 そのための手段を、今の俺は二つだけ持っている。


 一つは【鬼神化】。

 もう一つは、ギルラムと戦った後に獲得した新たなスキルだ。


 モンスター以外を相手にした戦闘経験でもロンバルディアの力が強化されるのは朗報だったが──それはそれとして、今はこの戦いに勝てるかどうかだ。


 俺よりも小柄なティフェレトの姿が、今や竜にも勝る力を秘めた怪物に見える。

 その怪物が、俺に向かって戯れの言葉を放つ。


「それにしてもあんた、やたらと硬いねぇ。このティフェレトさんの大剣の一撃は、本来ひとつ残らず必殺なんだけどさ、それが三度入ってまだ死に体にならないってのは異常だよ。──ま、それもあと何度かで潰えるだろうけどさ」


「そう思うんなら、試してみればいいんじゃないか?」


「ふぅん。まだ何か勝算があるって面だね。──ま、やれるだけやってみな、斧使い!」


 ティフェレトが再び地面を蹴る。


 おそろしい速度で接近してきて、放つは俺の左胸を狙っての豪速の突き。


 急所をためらいなく狙ってくるのは、俺の闘気防御の硬さを信頼してのことか、それともいっそ殺してもいいと思っているのか。


 いずれにせよ──ここを反撃の要とする。


「──【絶対防御】!」


 ──ガギィイイイイイインッ!


 これまで致命傷は与えられずとも、俺に確実に深手を負わせてきたティフェレトの大剣の一撃が、俺の皮膚すらも貫けずにぴたりと止まっていた。


 驚きの表情を見せるティフェレト。


 俺の斧が、黒髪の女剣士を今こそ叩き伏せようと薙ぎ払われる。


 ティフェレトはそれでも、驚くべき反応速度で回避動作を始める。

 意表を突かれた者の反応タイミングではない。


 俺の斧は、間に合わない。

 また逃げられる。


 ──このままであれば。


「──【神速(しんそく)】【ホーリースマッシュ】!」


 俺は二つのスキルを同時に発動させる。


 一つは攻撃の威力を倍増する【ホーリースマッシュ】。


 そしてもう一つが、新たに手に入れたスキル【神速】だ。


【神速】はわずかな時間だけ、俺の敏捷力を爆発的に増加させるスキルだ。

 効果時間は五秒間ほど。


 だが五秒もいらない。

 この奇襲の一撃さえ直撃できれば、それで十分──


「チッ──【竜鱗(りゅうりん)】!」


「──っ!?」


 ティフェレトの声とともに、女剣士の全身の皮膚をドラゴンのそれに似た鱗が覆った。


 そして、衝突。


「──うわぁああああああっ!」


 血しぶきとともに、ティフェレトの体が宙を舞った。


 ロンバルディアの一撃は確かに、女剣士の皮膚を覆った竜鱗をも断ち切って、その体を吹き飛ばしていた。


 だが──


 ティフェレトは空中で、くるりと体勢を反転させる。


 そしてズサササッと砂煙をあげて、獣のように四つん這いの姿勢で地面に着地した。

 ティフェレトの体から、竜鱗が消え去っていく。


「くっ──!」


 俺は【神速】の効果時間中に何とかもう一撃を食らわせようと着地点へと走ったが、そうして振り下ろしたロンバルディアの一撃はティフェレトの大剣によって受け止められ、女剣士の体を衝撃でノックバックさせただけに終わった。


 ティフェレトは獣のような動きで、さらに俺から遠ざかる。

【神速】の効果時間が切れ、俺は追撃の足を止めた。


 俺のスキル効果が切れたのを察したのか、ティフェレトが高らかに笑う。


「──あははははっ! すごい、すごいよ、驚いた……! 竜神器十将でも最強の一人に数えられたあたしに、これだけのダメージを与えられるやつがいるとはね!」


 そう叫ぶ女剣士の胴体には、深々と刃で断ち切られたあとがあった。

 血がどくどくとあふれ出している。

 並みの人間ならば、到底笑っていられる傷ではない。


 だがティフェレトの戦闘力をすべて奪うには、あれでは到底届いていない。

 そのことは、直観的に分かった。


 しかし──


「そ、そこまで……! 試合終了! 勝者、ダグラス!」


 審判がそう声をあげ、俺の勝利というジャッジを下した。

 試合終了の銅鑼が鳴る。


 だがそんなものに、狂気を垣間見せている女剣士が納得するはずもなかった。


「あぁ……? 何が試合終了だ、まだ何も終わっちゃいないだろうが。ふざけたこと抜かしてるとバラすぞ、人間」


「な、何を言っているんだキミは! 審判の私が試合終了だと言ったら、試合終了だ! キミの負傷は、キミが思っているほど浅くはない! 死者復活(レイズデッド)の魔法にいくらかかると思っているんだ!」


「あぁもう、うるっさいねぇ。今いいところなんだから邪魔するんじゃないよ。──いや、いいやもう、面倒くさい」


 ティフェレトが、審判に向かって歩いていく。

 まずい……!


 呆然としてる審判に向かって、ティフェレトは大剣を振り上げる。


 俺は声を張り上げた。


「──待った、俺の負けだ! 降参する!」


「はあっ……!?」


 ティフェレトの声の不機嫌さが、さらに増した。

 だが俺は、構わず言葉を続ける。


「俺の負けだと言ったんだ。どうせこのまま続けても、俺にはもうお前を倒せるだけの手段が残っていない」


「嘘だね。あんたはまだ切り札を持ってる。そういう目をしてた」


「それはどの道使えない切り札だ。こんな闘技大会などで使っていい代物ではない」


 これは嘘ではない。


【鬼神化】を使わなければ勝てないような状況になったら降参しようというのは、俺があらかじめ決めていたことだ。


【鬼神化】を使えば、ティフェレトに勝つことはできるかもしれない。

 だがそうなった場合、彼女を殺すなり、無理やり犯し続けるなりしてしまうだろう。


 しかも、それだけで済むならまだマシかもしれないが、さらにこの会場中の人々を襲い始める可能性も高い。


 うちの嫁たちがなんとか体を張って止めてくれるかもしれないが、それとて彼女らをむやみに犠牲にする行為だ。


【鬼神化】というスキルは、ただ戦いに勝つことだけを目的として使っていいスキルではない。


 一方、俺のそうした返答を聞いたティフェレトは、俺の目をじっと見てきた。

 そして少しの後、いらだたしげに吐き捨てる。


「チッ……! 分かったよ、今回のところは引き分けってことにしといてやる。また今度会ったときには、必ず殺し合うからそのつもりでいな」


 そう言い残して、ティフェレトはずかずかと、闘技場から立ち去っていった。


 あたりが一度、しんと静まり返る。

 だがやがては、闘技場の観客たちもざわざわと騒めき始める。


 そんな中で、俺は一人、大きく安堵の息を吐き出していた。


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