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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第2部/第3章

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一回戦とライバルたち

 時間になると、開会式やら何やらがあってから、試合開始の運びとなった。


 三十二人の選手によるトーナメント形式で行われるこの大会。

 一回戦から始まり、五回戦が決勝戦となる。


 闘技場のグラウンドは、一周二百メートルの短距離走トラックがとれる程度の広さだ。


 その中央付近の試合開始位置で、俺はロンバルディアを肩に担ぎ、一人の男と対峙していた。


 一回戦の俺の相手は、黒装束を身にまとったBランク冒険者のシーフの男だ。

 口元に自信ありげな笑みを浮かべ、両手に一振りずつの短剣を、手慰みのようにくるくると回している。


 この大会にはワラワラいるので勘違いしてしまいそうになるが、Bランク冒険者といえば地方都市の冒険者ギルドでは一人いるかいないかというレベルのスーパーエースである。


 通常状態のエレンやセラフィーナがCランクであるから、あの天才少女たちと比べても実力は上ということ。

 間違っても十把一絡げの雑魚キャラではない──というのが、一般的な見方になる。


「それでは一回戦、第三試合──始め!」


 審判の声とともに、ドワァアアアアンッと銅鑼(どら)が鳴った。


 試合開始時点での対戦相手までの距離は、二十メートル強といったところ。

 一息で接近戦に持ち込むには、やや遠い距離だ。


 相手は試合が開始されると、二振りの短剣を両手に携え、こちらとの距離をじりじりと慎重に詰めてくる。


『わが主よ。【手加減】はどうするかの?』


「Bランク冒険者の闘気量なら、一撃で即死ってこともまずない気はするが……まあ、一応使っとくか」


『うむ、承知した』


 ロンバルディアの思念が伝わってくると同時に、ぼう、とロンバルディアの刃が淡いライトグリーンの光を帯びる。


【手加減】が発動した合図だ。

 これでロンバルディアの刃は、衣服一枚切れないなまくらな鈍器となった。


 大会側が用意した救護班が死者復活(レイズデッド)の魔法を使えるとはいえ、相手を殺してしまえば失格だし、後味も悪い。

 そこは安牌をとっておくに越したことはないだろう。


 俺はロンバルディアを肩に担いだまま、無造作に歩みを進めていく。

 黒ずくめがその顔を歪ませた。


「無防備に距離を詰めてくる、だと……? ──舐めるな、斧使い!」


 ──ヒュッ!


 黒装束の男が、右手の短剣を投擲してきた。

 俺の右肩にヒットするコース。


 俺は半身になって、それを回避する。

 だが──


「──ハッ!」


 俺の回避行動の初動に合わせるように、左手の短剣が投げられた。


 見事な技巧と俊敏さだ。

 それへの回避は間に合わず、二本目の短剣は俺の左脚の太ももにぐさりと突き刺さった。


 それを見た黒ずくめは、腰の鞘から新たな短剣を二振り引き抜いて哄笑する。


「クハハハハッ、まんまとかかったな斧使い! どうだ、体が痺れてきただろう? その短剣には即効性の麻痺毒が塗られているのだ! クククッ、Aランクといっても、大したことはなかっ──えっ、ちょっ、待っ、ぷぎゃあっ!」


 俺は相手のもとに駆け寄って、ロンバルディアを一振りした。

 横っ腹に命中した一撃は、黒ずくめの体を大きく吹き飛ばす。


 放物線を描いた男の体は、二度ほど地面でバウンドしてから、ごろごろと転がって止まった。

 俺はロンバルディアを肩に担ぎなおして言う。


「会心の一撃が決まったらしいところ悪いんだが、俺は毒には耐性持ってるんだわ。──で、まだ続けるかい?」


「……こ、降参しまぁしゅ……」


 ドワァアアアアアンッ!

 銅鑼が叩かれた。


「勝負あり! 勝者、ダグラス!」


 審判の決着のジャッジとともに、観客席が湧きたつ。


 俺は太ももに刺さったままの短剣を引き抜いて放ると、対戦相手に駆け寄る救護班を尻目に、グラウンドをあとにした。


 傷は当然、【治癒能力】によってすぐに癒された。



 ***



 化身姿となったロンバルディアとともに観客席に戻ると、嫁たちが俺を笑顔で迎えてくれた。


「お疲れ様、ダグラス♪ 凄かったね。Bランク冒険者を相手に、貫禄の圧勝じゃん」


「さっすがダグラスにゃ。最強の座は、ダグラスで間違いないにゃね」


「当然ですね。ダグラス様以上の強者など、存在するわけがありませんから」


 そうおだてる三人の間のベンチに、俺はどっかりと腰を下ろす。


 俺の左右から、寄りかかるように身を預けてくるエレンとセラフィーナ。

 後ろからは、にゃんにゃんと懐くようにミィナが抱きついてくる。


 ついでにメイド服姿のロンバルディアが俺の両膝の間にちょこんと座ったので、俺はその小柄な体を背後から抱きかかえた。

 ロンバルディアもまた、俺に寄りかかるように体重を預けてくる。


「いや、やはり人肌というのはよいものじゃな。こう、胸が温かくなるというか」


「分かる。それにやっぱりダグラスが隣にいると落ち着くな~。なんかお父さんって感じ」


「私も同感です。それに実際のお父様より頼りになりますし、温かいです」


「国王より頼りになるダグラスパパにゃね。──だったらいっそダグラスが王様になったらどうにゃ? きっといい国になるにゃよ」


「ふふっ、それは名案ですね。お父様には退いていただきましょう♪」


「……おいおい、冗談はよしてくれ。俺には戦うことしかできねぇよ」


 話がエスカレートしていく嫁たちに、俺は苦笑しつつ軽く釘を刺す。

 パパ呼ばわりも危ない気はするが、国王呼ばわりはもっと洒落にならんぞ。


 だがセラフィーナは、けろっとした様子でこう返してくる。


「武によって国を為した英雄王の伝説は、いつの時代にもありますよ、ダグラス様。だいたい国王なんて決めることだけ決めていればいい役職ですから、誰にだってできます。それにダグラス様は勤勉でもいらっしゃいますから、必要とあらばさまざまなことを自ら学ばれるのではないですか? きっと良き王になりますよ」


「……いや、待てセラフィーナ。お前どこまで本気なんだ」


「ふふふっ、さあどうでしょう」


 そう言って、楽しげにくすくすと笑うセラフィーナ。


 それにしても、うちの嫁たちからの癒しとよいしょがヤバいな。

 ちょっと気持ちよくてハマってしまいそうだ。


 しかしこれから四試合残っている中で、だらけすぎるのもまずい。


 とは言え、正直なところBランク冒険者を相手に負ける気もしないのだが──


「──っと、次はギルラムの試合か」


「あの犬っころの番にゃね。ダグラスに噛みつくやつがどの程度のものか、ミィナが見極めてやるにゃよ」


 観客席でしばらく試合の進みを見ていると、第七試合で狼牙族のAランク冒険者、ギルラムの番がやってきた。


 対戦相手はBランク冒険者で、槍使いの戦士のようだ。


 両者が対戦位置に立つと銅鑼が叩かれ、試合が開始される。


 二人の闘士は互いに慎重に歩み寄っていって、ある距離まで近づくと、どちらも弾かれるように地面を蹴って交戦を開始した。


 槍と拳が交錯し、白熱した戦いが繰り広げられる。


 それを観戦していて、最初に感嘆の声を上げたのはエレンだった。


「へぇっ……! 言うだけあって大したもんだね、あの狼牙族のギルラムってやつ。相手の槍使いもBランクだけにとんでもない速さと槍さばきだけど、それをほとんど全部見切って凌いでるよ」


「逆に槍使いのほうは、たびたび軽いヒットを受けていますね。それでもうまく凌いで、決定打はまだないようですが──あっ、入りました、大きいの!」


 ドゴッと大きな音が鳴り響いて、ギルラムの拳が槍使いの腹部にめり込んだ。


 そして槍使いがひるんだところに、ギルラムは頭上で両こぶしを固めて、上から叩きつけた。

 再び大きな音がして、槍使いは勢いよく地面に打ち付けられる。


 槍使いは失神したようで、審判が勝敗のジャッジを出し、銅鑼が鳴った。

 ギルラムが右の拳を高々と突き上げると、観客席から莫大な歓声があがる。


「ふむ、あのギルラムというのも、なかなかやるようじゃの。それに人気者のようじゃ。これはアウェイの戦いを覚悟せねばならんかものぅ」


「そんなの関係ないよ。闘技大会は強いやつが正義でしょ。大事なのはどっちが強いかだけだよ」


 そんな話をしながらしばらく観戦していると、次の注目のカードとして、オーレリアの試合がやってきた。


 対戦相手は、俺と似たようなタイプの斧使いだ。

 体が大きく、パワーとタフネスが売りと見える。


 試合開始前に、粗野な斧使いがオーレリアのことを口汚く挑発していたようだが、エルフの剣姫はどこ吹く風といった様子だった。


 審判から注意が入り、両者に試合の準備が整うと、試合開始の銅鑼が鳴る。


 だが、試合は思いのほか一方的な展開となった。


 オーレリアが初手で相手の視力を奪う魔法を使ったようで、相手の斧使いはそれで、完全なでくの坊と化したのだ。


 斧使いが嵐のように斧を振り回そうにも、オーレリアにはかすりもしない。


 エルフの細身の体は、一撃でも斧の直撃を受ければへし折れてしまいそうにも見えるのだが、そんな心配は杞憂であると確信できるほどに優雅に相手を翻弄する。


視力奪取(ブラインドネス)の魔法が決まったようですね。視力を完全に奪うわけではありませんが、今あの斧使いは、夜の闇の中で黒ずくめの暗殺者と戦っているような感覚を味わっているはずです」


「あれは魔法が相手の抵抗を打ち破った時点で、勝負はついたようなものじゃの」


「えげつないなぁ。魔法剣士って怖い……」


「『蝶のように舞い、蜂のように刺す』って、ああいうことを言うんにゃね。戦い方の参考になるにゃ」


 ミィナが形容したとおり、オーレリアは斧の攻撃から優雅に身をかわしながら、手にした細身の剣(レイピア)で斧使いの体のあちこちを次々と貫いていく。


 美しい金髪をなびかせて優雅に立ち回るその様は、“妖精剣姫”と呼びたくなるのも分かるほどだが、その実質はおそるべき実力の闘争者である。


 やがてオーレリアのレイピアが相手の体を十箇所ほど貫いたところで、審判がレフェリーストップをかけ、試合終了となった。


 オーレリアが長い金髪を手でかき上げて息を整えると、観客席から再び莫大な歓声があがる。


「おーっ、格好いいオーレリアだ。ボクと猥談していたエルフと同一人物とは思えない」


「……エレン、それはもう言ってやるな。あとお前も似たようなもんだからな」


「えへへっ。昼間は強くて凛々しい剣士、夜は野獣に組み敷かれる無力な乙女ってやつを目指しています」


 そう言って、えへんと胸を張るエレン。

 ったく、どうしてやろうかこいつ。


 ──まあそれはさておき、これで一通りの役者は出揃ったと思えた。


 俺、ギルラム、オーレリア。

 このAランク冒険者三人で優勝争いをすることは、ほとんど間違いのないことであろうと。


 だが、一回戦の最終、第十六試合。

 その対戦者を見たとき、セラフィーナとエレンの二人が、ベンチから腰を上げる。


「あ、あれは……!」


「えっ、し、師匠……!?」


 対戦者のうちの一人、大剣を背負った長い黒髪の女性剣士を見て、二人の少女が驚きの声をあげていた。


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