ろくでもないスキル、混浴
二泊三日の宿泊体験。
二日目の昼は、街の観光などを楽しんだ。
みんなでぶらりと出掛けて、出店で買い食いをしたり、料理店に入ったり、「テラ」と呼ばれる東国の神殿を見物したりした。
そうしてひと通り楽しんで宿に戻ってくると、その夕方に俺はロンバルディアを呼んで、しばらく放置していた課題に取り組むことにした。
タタミ敷きの部屋にある背の低いテーブルを挟んで、ザブトンに座った俺とロンバルディアが向かい合う。
「──で、ロンバルディア。今回手に入れたスキルが何だって?」
「うむ、【奴隷化】じゃの」
化身状態でユカタ姿のロンバルディアが、緑色の茶葉を使ったお茶をずずっと啜りながら、なんともひどい響きのスキル名を事も無げに言った。
残念ながら、俺の聞き間違いではなかったようだ。
ここ最近で習得したスキルは、【守護乙女の祝福】と【ホーリースマッシュ】を除けば、比較的地味と思えるものが多かった。
レッドドラゴンを倒した後に習得した四つのスキルのうち、残り二つは【炎耐性】【氷耐性】というもの。
これは炎や熱、氷や冷気といった属性の攻撃で受けるダメージを大幅に軽減するというもので、常時発動型のスキルらしい。
日常的な暑さや寒さにも強くなるということで、その点は少しありがたいが、まあそんなに派手な効果を持ったスキルではないと感じる。
またワイバーン討伐によってもスキルを一つ習得しており、これが【手加減】という名称のものだった。
そのスキルを使用すると、ロンバルディアが一時的に切れ味ゼロのなまくらになるスキルらしい。
戦力アップにはならないだろうが、殺したくない相手と戦う機会などがあれば使うこともあるかもしれない。
まあ、ここまでは良かった。
当たりスキルがあれば、微妙なスキルもあるのはおかしなことではないと思えるし、外れと思ったスキルが状況によっては大いに役に立ってくれることもないとは言えない。
だが今回、丘巨人を討伐して獲得したスキルがまた一つ。
こいつが【奴隷化】という、名称からしてヤバい代物だった。
「……で、効果は?」
「うむ。おぬしが深く肉体交渉をもった相手を、おぬしの命令に絶対服従の永久的な奴隷にするスキルじゃな。対象は与えられた命令に逆らおうとすると、全身に電撃が奔ってすさまじい苦痛を味わうことになる」
「そうかそうか。俺の嫁たちを、俺に一切逆らわないお人形さんにするスキルかー……って、そんなの使えるかアホッ!」
とんでもないスキルであった。
非人道的にもほどがある。
いや、この世界には奴隷制を採用している国もいまだにあるとは聞くが、少なくとも俺が生まれ育ったこの国では「人権」と呼ばれる考え方が普及している。
「アホとはなんじゃアホとは! というか我に文句を言われても知らんと言うておろう。苦情は我を作った神々に言え」
「神々ぃ……頼むよ本当。これのどこが聖斧なんだよ……」
ロンバルディアを創ったやつらは、何を考えてやがるんだか。
いやまあ、神々の時代には人権なんて考え方はなかったのかもしれないが。
いずれにせよ、このスキルは封印決定だ。
【鬼神化】よりもさらに使い物にならねぇ。
俺がもっとろくでもないやつだったら、それこそろくでもないことになってるぞ。
だがそこで、ロンバルディアが口を挟んでくる。
「我は思うのじゃが、考え方が逆ではないかの、わが主よ」
「考え方が逆……? どういう意味だ」
「我は聖斧ロンバルディア。我がその主と定め、我の力を振るうことができるのは、おぬしのような善良な心を持った者だけじゃ。悪用されるとまずい力が宿っているからこそ、我の主となる者には、おぬしのような善良さが要求されるのではないか?」
「いや、善良ったって、こちとら普通の人間だぜ? 魔がさすことだってあるだろ」
そもそも俺が善良な人間ってところにもいくらかの異論はあるがな。
根っから善良な人間が、こんな美少女ハーレム状態で日々スケベしてウハウハするかっての。
それに本当に善良な人間がロンバルディアのような強大な力を手に入れたら、大いなる力には大いなる責任が宿るとかなんとか、もっと世界のために尽力するスーパーヒーローになろうとするのではなかろうか。
その点、俺は基本的に利己主義者だ。
自分と自分にとって大事なものが第一、それ以外は二の次だ。
そんな人間を善良と呼んでよいものか、甚だあやしいところだろう。
だがロンバルディアは、俺が善良であるということを疑っていないようで──
「おぬしが我を、己の邪悪な目的のために使うと? ちょっと想像ができんがの。ま、もしそうなったら、我もへそを曲げて、おぬしに力を貸さなくなることもあるかもしれんの」
「あー、なるほどな」
そこで歯止めがかかるのか。
俺がロンバルディアに力を貸してもらえている間は、ひとまず善良判定ってことか。
「ちなみに、ロンバルディアに【奴隷化】を使ったらどうなるんだ?」
「な、何を言うておるんじゃおぬしは……そもそも我に【奴隷化】は効かん」
ほうほう。そこはズルができないようになっているらしい。
そのあたり思ったよりはしっかりしているのかもな。
***
さて、夕食で東国の珍味に舌鼓を打った後は、風呂の時間だ。
当たり前だが、宿の温泉浴場は基本的には男女別の風呂場を利用することになる。
だから昨日は、俺はのんびりと一人風呂を堪能したし、女性陣は女性陣できゃっきゃと楽しんだようだ。
しかしこの宿には、実は秘密の追加コースがある。
宿泊客は追加料金として金貨十枚を支払うことによって、特定の時間だけ男湯でも女湯でもない「三つ目」の浴場を貸し切りにできるのだ。
そして、その貸し切り浴場は、混浴オーケーである。
繰り返す、混浴オーケーである。
俺にとっては、その素晴らしい体験を金貨十枚で買わない理由は皆無であった。
まったく、商売上手な宿だぜ。
そんなわけで、時刻は夜になる。
真っ暗闇の中、いくつかのランプの灯りだけに照らされた露店の浴場。
そこに俺と嫁たちは、バスタオル一枚の姿で現れていた。
「うわぁっ……! いい感じの露天風呂だね」
胸から下を隠すようにバスタオルを巻いたエレンが、浴場を見回して感嘆の声をあげる。
貸し切り浴場は、男女別の大浴場と比べるとややこぢんまりとしているが、風情のある作りであった。
浴場の周囲は木の柵で囲われているばかりではなく、緑も植えられている。
浴場の奥まった場所にある浴槽は、いくつもの大岩が円形に配置された形状だ。
大浴場のそれと比べると狭いとはいえ、俺のような大柄な男が足を伸ばしても問題ないぐらいのゆったりとした大きさがある。
そこに獅子の口を模した岩から、絶え間なく湯が注がれていた。
エレンと同様にバスタオルを巻いた格好のセラフィーナ、ミィナ、ロンバルディアも、満足げな表情で浴場を見渡す。
「確かに良い雰囲気ですね。それに何より、せっかくの温泉ですから、ダグラス様とも一緒に入りたいと思っていました」
「そうにゃね、せっかくだから一緒に入りたいっていうのは、ミィナも思ったにゃ。ダグラスも昨日は一人で寂しかったにゃ?」
「一人風呂もそれはそれで楽しんだけどな。でもお前らと一緒に入りたくなかったと言ったら、もちろん嘘になる」
裸にバスタオル一枚を巻いただけの姿の嫁たちは、全員とても綺麗だ。
普段はロングヘアーのセラフィーナやロンバルディアが、髪をお団子にしているのも印象的だ。
「あとお前たちが魅力的すぎて、今すぐ襲い掛かりたくなっていたりはするな」
「も、もう、ダグラス様ったら……。そう言っていただけるのは嬉しいですし、それもいいですけど、せっかくの温泉なんですからお湯に浸かりませんか?」
「ははっ、悪い悪い。それもそうだな」
「まったく、わが主は節操がないのぅ」
と、そんな話をしながら、湯のそばまで歩み寄る俺たち。
全員かけ湯などをしてから、浴槽につかることにした。
「「「「「はふぅーっ」」」」」
五人で湯につかり、夜空を見上げる。
星々が輝く美しい夜空に、月の明かりがひときわ強く輝いている。
涼しくなってきた季節の冷たい外気と、ほどよく熱い温泉の湯とのコントラストが、今日の観光の疲れをいい感じにほぐしてくれる。
「いいお湯だな~。オーレリアも誘えばよかったよ」
「そういえばそうだな。あいつも一人じゃ寂しいだろうし、なんなら今から呼んでくるか?」
「うん、そうだね。よし、ボク一度出て、呼んでくるよ」
エレンがそう言って一度湯から出て、タオルを絞って更衣室へと入っていった。
さすがというか何というか、見事な行動力である。
「エレンはオーレリアとずいぶん仲良くなったにゃね。十年来の親友みたいにゃ」
「気が合うみたいじゃの。あのような性癖の持ち主で同類とくれば、そうはいまい」
そんな話をしながらのんびり湯に浸かったり、一度上がって体を冷ましたりしていると、やがてエレンがオーレリアを連れて戻ってきた。
「お待たせ、連れてきたよ」
「お、お邪魔するぞ。……うわぁああっ……本当に、男と女が一緒にお風呂に入っている……しゅごい……こんなことが許されていいのか……」
浴場に現れたエルフの美女は、俺たちを見て、何やらやたらと感動していた。
ちなみに、バスタオル一枚を巻いただけの艶姿は、わが嫁たちに負けず劣らず綺麗である。
細身ですらりとした肢体は、まるで神々が産み落とした芸術品のようだ。
その姿を見て、俺は内心でごくりと唾を飲む。
だがそんな心のうちはひた隠しにして、嫁たちを束ねる貫禄ある旦那っぽい態度をとってみせる。
「オーレリアもそんなところに突っ立ってないで、入ったらどうだ?」
「あ、ああ……。では、失礼する」
金髪をお団子にまとめたオーレリアは、一度かけ湯をしてから、おそるおそるという様子で足から湯に入っていく。
そして肩まで浸かると、「はふぅっ」と気持ちよさそうな声をあげた。
さらにエレンも入って、これで総勢六人だ。
ゆったりサイズの浴槽とはいえ、このぐらい入るとさすがに足などが接触したりもするが、その距離感も悪くない。
そんな中、オーレリアがほうと一つ息をついて、こんなことを言う。
「正直に言って、エレンが羨ましいな。こういった家族のような温かい雰囲気は、ここしばらく味わった覚えがない。少し憧れるよ」
「んー? だったらオーレリアも、ダグラスのお嫁さんになる? ねえ、それもいいよねダグラス」
……マジで?
そりゃお前──
「まあな。オーレリアさえ良ければ、俺としちゃ大歓迎だぜ」
そう言って、余裕ぶった態度を見せる俺。
今の俺はだいぶ頑張っていると思う。
するとオーレリアは頬を染め、恥じらう様子を見せつつ答えた。
「そ、そうか……。それは……すまない、少し考えさせてくれ。私も百年以上生きてはいるが、こういった経験は、その……は、初めてなんだ」
「どうぞ前向きにご検討を。ダグラスは優しく乱暴にしてくれるよ?」
「う、ううっ……」
エレンの言葉を聞いて、恥ずかしがってぶくぶくと湯に沈んでいくオーレリア。
大人っぽい美人さんなのにめちゃくちゃかわいくて、これはやべぇなと思った。
──とまあ、そんなあれやこれやの話をのんびりとしながら、浴場での穏やかな時間は過ぎ去っていった。
そして翌日の朝にもひと風呂浴びて、おいしい朝食をいただいてから、俺たちは荷物をまとめて宿をチェックアウト。
街から丘巨人討伐の報酬も色付きで受け取り、ちょうど同じタイミングで出るというオーレリアとともに、温泉街トルトレントを発った。
次なる目的地は、商業都市ベルフォードだ。
そこはオーレリアが活動拠点とする大都市であり、近く闘技大会が開かれる予定の地でもあった。





