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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第2部/第1章

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ワイバーンとの対決

 ──バサッ、バサッ、バサッ。

 ワイバーンは翼を羽ばたかせ、天高く舞い上がっていく。


 そして上空から急降下をして、三人の守護乙女たちに向かって襲い掛かろうとした。


 ワイバーンの巨大な姿と、少女たちの矮小な姿。

 圧倒的な対比。

 ともすれば、少女たちに勝ち目はないようにも見える。


 だが実際には、三人は理不尽な暴力に屈するばかりの無力な乙女ではない。


 ワイバーンが襲い来るよりも一足早く、セラフィーナの魔法詠唱が完成する。


天雷(てんらい)よ、我が敵を討て──サンダーボルト!」


 セラフィーナが魔法の杖を頭上に掲げると、そこからほとばしる魔力がワイバーンよりもはるか上空へと昇っていく。

 一瞬の後。


 ──ドォオオオオオオンッ!


 落雷。

 少女たちに向かって急降下していたワイバーンの背中に、天から落ちた稲妻が突き刺さった。


 ワイバーンはその衝撃で、叩きつけられるように地面に墜落。

 巨体が落下した地鳴りが、あたりに響き渡る。


 墜落したワイバーンは、わずかの間苦しみ、のたうち回った。

 バヂヂッと、稲妻の残り火がワイバーンを苛むようにほとばしる。


 だがそれで終わるようなら、ワイバーンというモンスターがBランクの評価を得ようはずもない。


 翼竜はすぐにダメージを振り払うと、激しい雄叫びをあげながら、再び翼を羽ばたかせて空に舞い上がろうとする。

 その雄叫びは、自分に地べたを舐めさせた人間を、必ず殺してやるぞと言わんばかりの怒声にも聞こえた。


 実際、ワイバーンの相手がセラフィーナ一人であったならば、彼女の次の魔法が完成するよりも前に、あの翼竜の爪や牙や尻尾の毒針が神々しき賢者の少女の命を引き裂くことは、まったくの不可能ではなかったかもしれない。


 しかし、現実はそうではない。

 地に這わされた竜の眷属に向かって、別の二人の少女が駆けていく。


「ナイス、セラフィーナ! ──はぁああああっ!」


 身を起こして飛び上がろうとしていたワイバーンに、剣を片手に真っ向から向かっていったのはエレンだ。


 ワイバーンは飛び上がろうとするのをいったんやめ、慌てて爪や牙、尻尾の毒針で剣士の少女を迎撃し、殺そうとする。


 だがエレンは、その激しい連続攻撃を人間離れした敏捷性で次々と回避する。


 尻尾の毒針が脇腹をかすめるなど危ういシーンもあったが、直撃は一つも受けずに剣の間合いまで踏み込むことに成功。


「──はあっ!」


 ──ズバッ、ズバズバッ!


 エレンは隙を見て剣を三回振るうと、いったん後退して敵の間合いから離脱した。


 巨獣の翼、胴体、左肢にそれぞれ斬り込んだエレンの刃は、一撃一撃が致命傷となるようなものではないが、決して無視できるような小さなダメージでもない。


 深々と斬り裂かれたワイバーンの傷口からは、どくどくと血があふれ出ていた。


 ワイバーンは憎々しげに、自分の身を痛めつける少女たちを睨みつける。

 絶対に殺してやるぞという意志がそこには見えたが──


 しかしやつには、見えていないものが一つあった。


 エレンが退いたのと同じタイミングで、ワイバーンの死角から飛びかかる一つの影。


「──もらったにゃ!」


 猫のように大きく跳躍してきたその少女は、ワイバーンの首に取りつくと、手にした短剣で翼竜の左目を思いきり突き刺した。


 そして短剣を引っこ抜くと、すぐさまその場から退避、ワイバーンの間合いの外まで離脱する。

 ミィナがいた場所を毒針の尻尾が貫いたのは、彼女がその場を離れた一瞬後のことだった。


 ワイバーンは苦悶してのたうち、怒りの咆哮をあげる。

 バサバサと翼を羽ばたかせ、どうにか上空へと離脱しようとする。


 一度距離を取って立て直しを図ろうというのか、それとも目の前の敵には敵わぬと悟って逃げ出そうとしているのか。


 だがいずれにせよ、セラフィーナの二度目の魔法の完成が、ワイバーンの目論見を阻むこととなった。


「逃がしません──アイシクルウォール!」


 ワイバーンの下の地面から無数の氷柱(つらら)が突き出し、浮き上がる前のワイバーンの下っ腹をめった刺しにした。


 翼竜は悲鳴のような咆哮を上げ、暴れ、苦悶する。

 そこにエレンが再び駆け込み──


「──これで終わりだ!」


 ワイバーンの太い首めがけて、鋭い斬り上げ攻撃を放った。


 エレンがその場から飛び退くと、彼女が斬った首の傷から、ぶしゅううううっと激しい血しぶきが噴き出す。


 ワイバーンは再び舞い上がろうと翼を羽ばたかせる。


 だが、足掻きもそこまでだった。

 全身に多大なダメージを負った巨獣は、やがて力を失い、力尽きた。


「やったにゃ」


「いぇーい! ナイスコンビネーション!」


「二人とも、お疲れ様です」


 ミィナ、エレン、セラフィーナの三人は、互いにハイタッチをして健闘を称え合う。


 完勝と言っていい結果だろう。


 エレンが脇腹に、毒の尾針がかすめたことによる裂傷を負っていたが、大きなものではないし、あれなら毒が注がれていることもないはずだ。


 その裂傷も、セラフィーナが治癒魔法で癒せばすぐに傷口が塞がった。

 さらに念のためということで、セラフィーナは解毒の魔法もエレンに施していく。


 俺も三人の勝利を称えようと、彼女らに歩み寄ろうとした。

 だが、そのとき──


 ミィナの猫耳が、ぴくっと動いた。


「……ダグラス、遠くから翼の羽ばたく音にゃ。大きいやつ」


 真剣なミィナの声。


 なるほど、やはりいたか。

 最初のひときわ大きい咆哮は、仲間への知らせの声だったのかもしれない。


 やがて俺の耳にも、大きな翼を羽ばたく微かな音が聞こえてくる。

 そして北の山から飛んでくる、一つの影も目撃する。


 エレンとセラフィーナは、それを見て顔をしかめた。


「うへぇ、もう一仕事か」


「強敵との連戦となると魔力が厳しいですが、もう一戦ぐらいなら」


 そう言って、再び戦闘姿勢を整えようとする少女たちだったが──


 俺は彼女らを制して、聖斧ロンバルディアを片手に、前に出る。


「いや、【守護乙女の祝福】の効果は十分に分かった。あとは俺がやる。もう一つ、試したいスキルもあるしな」


『ほう。我が主よ、あれを使う気じゃな?』


 ロンバルディアが語り掛けてくる。

 俺はふっと笑って答える。


「まあな。実際どのぐらいの威力なのかは、見ておきたい」


 俺はこちらに向かって飛来する影に向かって、斧を肩に担いで仁王立ちで待ち構える。


 ほどなくして、そいつは近くまで来た。

 何かと言えば、もちろん二体目のワイバーンだ。


 ワイバーンが二体いる可能性については、冒険者ギルドの眼鏡くいくいギルドマスターから聞いていたのだから、いまさら驚くようなものでもない。


 一度上空でバッサバッサと滞空したワイバーンは、やがて大きく咆哮をあげてから、俺に向かって滑空してくる。


 両肢のかぎ爪と、鋭い毒の尾針で、まずは俺を殺そうという魂胆だろう。


 一方で俺は、それを迎撃する。

 タイミングを見計らい、両手で斧を構え、スキルを発動。


「──【ホーリースマッシュ】!」


 聖斧ロンバルディアの刃が、まばゆい輝きを帯びる。

 俺はそれを、ワイバーンが間合いに飛び込んできたタイミングで、思いきり叩きつけた。


 ──ドゴォオオオオオオオンッ!


 爆音とともに、ワイバーンの頭部が爆発するように弾け飛んだ。


 頭部を失ったワイバーンの体は勢いのままに墜落して轟音をあげると、少しの間だけびくびくと痙攣してから、ぐたりと動かなくなった。


 よし、撃破終了。


 それを見て唖然とするのは、三人の嫁たちだ。


「うっそぉ……!? い、一撃で……!?」


「はははっ……め、滅茶苦茶にゃ……強くなったミィナたちが三人がかりで、あれだけ苦労したのに……」


「ダグラス様ですから、仕方ないですけど……これは、心が折れそうですね……あははは……」


 見れば神々しい姿の三人娘が、瞳から光彩を失っていた。


 うん、すまん。

 そういうつもりじゃなかったんだ。


「スキル【ホーリースマッシュ】──これもレッドドラゴンを倒して手に入れたスキルの一つでな。聖属性の魔力で一撃だけ攻撃の威力を倍増、特にアンデッドやら魔族やらに効果的らしい。ただこいつも、一発打ち止めの必殺技でな。一度使ったら二十四時間は再使用できないって代物だ」


「へ、へぇー、そうなんだ。一日一回だけなら納得だねー──ってなるかぁああああっ!」


 エレンが叫んでいた。

 ん、なんかすまんな。


 なおワイバーンとの接触の際に、毒の尾針が俺の腹部に突き刺さってダメージを受けていたが、俺の闘気を打ち破って重傷を負わせてくるようなものでもない。


 傷はすぐに、【治癒能力】で癒やされていく。

 毒に関しても、【毒耐性】があるためか問題はなさそうだ。


「自分が強くなってみると、余計にわかるにゃ……ダグラスは本物の化け物にゃ……。やっぱりミィナたちは、この怪物に食べられちゃう運命にゃ……」


 ミィナに至っては、なんか恐怖に(おのの)いていた。


 大丈夫、怖くないぞ、俺は善良なおっさんだからな。

 食べない食べない。

 食べるけど。


 ──さて、その後。


 ワイバーン二体分の討伐証明部位を回収した俺たちは、討伐終了の報告をするために、村長の家へと戻った。


 すると俺たちの姿を見た村長は、奥方とともになぜか土下座をするように地べたに座って頭をこすりつけ、こう言ってきた。


「天使様を連れた天よりの御使いとは知らず、とんだご無礼を働きました……! 平に、平にご容赦ください……!」


 なんか猛烈な勘違いをされていた。


 いや、うちの嫁たちを天使か何かと間違うのは、無理もないことだと思うけどな。

 ミィナもエレンもセラフィーナも、マジ天使だし。


 そして誤解は微妙に解けないまま、俺たちは翌朝、村を立ち去ることとなった。


 なお後日。


 この地方に三人の天使を連れた雄々しき神が訪れ、人々を救ったらしいという噂を、俺は街で耳にすることとなるのであった。


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