新たな冒険の始まり
第2部は毎日12時と19時の定期更新でお送りする予定です。
俺がドラゴンを倒し、式典で英雄のように称えられたあの日から数えて、およそ一週間後の朝。
窓から朝日が射し込んだ部屋で、ちゅんちゅんという小鳥のさえずりを聞きながら、俺は目を覚ました。
大型のベッドではミィナ、エレン、セラフィーナの三人が俺に寄り添うように全裸で横たわり、毛布の下ですぅすぅと穏やかな寝息をたてている。
ここは王都で最も高級な、いかがわしい宿の一室。
俺は三人の美少女たちとともに、高級店特有のサービスである貸し衣装なども使って、昨日も最高な一夜を過ごした。
その翌朝、今ここである。
俺は何気なく、自分の隣で眠るセラフィーナの銀髪をさらさらとなでる。
セラフィーナは王女であり、おそらく予言の巫女であり、魔法の技に長けた賢者でもある。
その美貌も含めて天は何物をも彼女に与えたようだが、そんな少女が今、俺の腕の中に収まっているというのだから世の中はよく分からない。
そのときセラフィーナが、少しだけ身じろぎしてから、ゆっくりと目を覚ます。
「んぅ……あ、おはようございます、ダグラス様」
そう言って、にっこりと微笑みかけてくるセラフィーナ。
いつものことながら、笑顔が抜群に可愛らしい。
「ああ、おはようセラフィーナ。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで気持ちよく眠れました。……でも、夢を見ていました」
「夢……? 予見の夢ってやつか」
「はい」
セラフィーナは毛布の中でもそもそと動き、俺の胸板に顔を寄せ、やんわりと抱き着いてくる。
俺もセラフィーナを軽く抱き寄せ、その少女の頭を優しくなでる。
「ダグラス様が、竜と戦う夢でした。斧を振りかぶり、勇ましく戦っておられました」
「またドラゴン? それって、この間戦ったやつじゃなくてか?」
「はい、別の竜です。毒の霧が立ち込める邪悪な森の奥に棲む、緑色の鱗を持ったグリーンドラゴンでした」
「マジか。ずいぶんとドラゴンに好かれたもんだな俺も」
そう答えながら、俺はこれをどう考えたものかなと思案していた。
セラフィーナの予見の力に関しては、基本的には信じている。
聖斧ロンバルディアの力を得た俺のところに、セラフィーナがわざわざ王都から足労して重要人物だと言い当てたのだから、その時点でまず本物だと思っていいだろう。
だがそうだとしても、セラフィーナの予見の夢は三回に二回の割合で外れるらしい。
今回のこの「夢」も、どれほどの信憑性をもって捉えればいいのかは分からない。
「ちなみに、俺はそのドラゴンとの戦いに勝ったのか?」
「いえ、そこまでは……。私が見たのは、ダグラス様たちがグリーンドラゴンと戦っているところまでです」
「ん……? ダグラス様『たち』?」
俺はセラフィーナのその言い方に、小さな引っ掛かりを覚えた。
俺が一人で戦っていたわけじゃないのか。
予見の夢の精度はそんなものだろうと言えば、それで終わってしまう話なのかもしれないが……。
だがセラフィーナは、俺の言葉に力強くうなずく。
「はい。私が夢で見た未来では、ダグラス様のほかにエレンとミィナ、それに私自身も戦っているようでした。加えてもう一人、エルフの剣士らしき人物も。ただ……」
「ただ?」
気になる情報もあったが、話は最後まで聞こうと思って、俺はセラフィーナに先を促す。
するとセラフィーナは、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて、こうつぶやく。
「おそらく私もなんですけど……エレンとミィナが、かなり奇抜な格好をして戦っていました。天使のようとでも言えばいいのか、あるいは、伝承の戦乙女のような姿とでもいうか……」
「あー……」
それはすごく、心当たりのある話だった。
レッドドラゴンを倒した後に手に入れたスキルで、それらしきものがあったのだ。
そのスキルの情報はセラフィーナたちにはまだ伝えていないから、その話が出てくるということは、セラフィーナの予見の力がまた一つ信憑性を増したと言える。
俺はセラフィーナに、こう答えていた。
「セラフィーナ。その夢、多分『当たり』だわ」
「はい……?」
セラフィーナはかわいらしく小首を傾げた。
***
朝チュン時間の後、日課のトレーニングを終えたら、朝食の時間だ。
三人の嫁を連れて食堂へと向かい、四人掛けのテーブルに陣取ってウェイトレスに朝食を頼むと、ほどなくして一揃いの料理が運ばれてきた。
ベーコンエッグにソーセージにサラダ、ポタージュスープに加えて、デザートにリンゴと蜂蜜入りのヨーグルトが付き、さらに香ばしく焼かれたパンはバターやジャムともどもおかわり自由だ。
いかがわしいとはいえ高級宿であり、定番ながらも贅沢感のある朝食メニューである。
「「「「いただきます」」」」
皆で手を合わせてから、食事を始める。
それぞれが思い思いに朝食をつつき始める中、セラフィーナには今朝見た予見の夢について、ミィナとエレンの前で再び話してもらった。
まず反応したのは、フォークでサラダをつついていたエレンだ。
「ふぅん、グリーンドラゴンねぇ。グリーンドラゴンって確かあれだよね、いわゆる毒竜ってやつ。口から吐くのが炎のブレスじゃなくて、毒のブレスなんでしょ?」
「エルフの剣士っていうのも気になるにゃけど、ミィナたちの奇抜な格好っていうのもよくわからないにゃ。それにセラフィーナの予見の夢って、三回に一回ぐらいしか当たらないにゃよね? そもそも外れっていう可能性もあるにゃ」
一方のミィナはパンにかじりつきながら、そう指摘する。
だがパンは焼きたて熱々だったようで、猫舌のミィナはほふほふと慌てて口から熱気を逃がしていた。
俺はそれをほほえましく見ながら、うなずいて答える。
「まあ、そうなんだけどな。ただ気になることが一つある。そのミィナたちの奇抜な格好ってやつなんだが、思い当たる節があってな。レッドドラゴンを倒した後に獲得したスキルのうちの一つに、【守護乙女の祝福】というのがあったんだ」
椅子に立てかけた聖斧ロンバルディアを手にしながら、俺はそう説明する。
この聖斧ロンバルディアは最初から恐ろしい力を持っていたが、そればかりではなく、戦えば戦うほどに力を増し、使い手にさらなる力を与える性質がある。
そしてレッドドラゴンという強敵を倒したことにより、ロンバルディアはさらに四つのスキルを獲得していた。
四つのスキルのうち、二つは地味、一つは有用。
そして最後の一つが、今言った【守護乙女の祝福】というスキルであり、最もトリッキーかつ派手そうな効果を持つものである。
「えぇっと……【守護乙女の祝福】ですか? それはどういった効果を持つ力なのですか、ダグラス様?」
セラフィーナがそう、遠慮がちに聞いてくる。
俺はその頭にぽんぽんと手を置いて、少し頬を赤らめたセラフィーナに心を和ませつつ答える。
「ロンバルディアから聞いた話によると、【守護乙女の祝福】というスキルは、俺自身ではなく仲間を強化するスキルらしい。試しに使ってみないと、俺ももう一つピンとこないんだがな」
「仲間っていうと、ボクとかミィナとかセラフィーナのこと?」
そう口を挟んできたエレンに、俺はうなずいてみせる。
「ああ。このスキルの効果を及ぼせるのは、俺と深い交際を持っている女性に限られるんだそうだ。『深い交際』の具体的な内容に関しては……まあ察してくれ」
「「「あー……」」」
ミィナ、エレン、セラフィーナの三人ともが、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
言わずと察してくれて、俺は嬉しいよ。
それにしても、毎回思うんだが──
俺は椅子に立てかけた聖斧ロンバルディアの柄をにぎり、相棒に語り掛ける。
「ロンバルディア、お前って『聖斧』っていうより『性斧』じゃねぇの? なんかこういうの多いだろ」
『むっ、失敬な。我を生み出した神どもが、そのように作ったんじゃから仕方なかろう。文句があるなら総責任者の鍛冶神ディルムンドに言え』
「えっ……? お前を作ったのって、神様だったのか?」
『当然じゃろう。我ほどの力を秘めた最高傑作武器を、神ならぬ人に作れると思うてか』
「な、なるほど」
ロンバルディアによって、朝食時に何気なく語られた衝撃の真実。
ありえないほどの能力から、おそらくは神話級の武器だろうとは思っていたが、実はそれそのもの神が作った武器だったのか。
まあ、ある意味で納得だな。
こいつの異常なまでのすさまじい力は、確かにそうでもなければ説明がつかない。
と、まあロンバルディアの製作者の話は、今はいいとして。
何の話だったか。
そうそう、【守護乙女の祝福】の話だ。
俺は三人の嫁たちに向かって、ロンバルディアから聞いたスキルの効果を説明する。
「その【守護乙女の祝福】ってスキルを使うと、仲間たちの力を一時的に大幅強化できるらしい。で、その際にお前たちの格好も変わるって話だ。神話物語に登場する、戦乙女みたいな格好になるんだとか」
「あー、それでセラフィーナの夢の話と繋がってくるにゃね。戦乙女っていうと、ヴァルキリーとか、ワルキューレとか言われるやつにゃよね」
「ボクたちの格好が変わる、かぁ……。確かに雲をつかむような、よく分からない話だね。実際に試してみないと、どういう感じになるか想像つかないかも」
「ああ。だからあとで、ちょっとしたクエストでも受けて【守護乙女の祝福】を試してみようと思っている。そのグリーンドラゴンがどうとかってのは、ひとまず置いといてな」
「そうですね、それがいいと思います。私の予見の夢がどうあれ、足元から固めていくのがよろしいかと」
そうセラフィーナも同意してくれたところで、俺は話を切り上げ、本格的に朝食に取り掛かっていった。
ちなみにパンがうまかったので、俺は四個おかわりした。
ほかのサービスも含め、さすがは高級宿という印象で、この宿への宿泊は大満足の経験だった。
だがさすがに、お値段もたいしたものだ。
レッドドラゴンを倒して手に入れた財宝や報酬があるとはいえ、こんな贅沢ばかりしていれば、数年と待たずに財は尽きてしまうだろう。
一度ドラゴンを倒して英雄扱いされたといっても、まだ隠居するような段階ではないなとあらためて思う。
どこか田舎に家でも買って静かに暮らそうかという話もあったが、それもまだまだお預けだな。
今後も冒険者として仕事を続けて、ぼちぼち稼いでいくことにしよう。
そうして朝食を平らげると、出立の準備をして宿をチェックアウト。
俺は新たなクエストを探すため、仲間たちとともに王都の冒険者ギルドへと向かった。





