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斧使いのおっさん冒険者ハーレム英雄譚 ~報われない人生が神話級の斧に出会って激変する話~  作者: いかぽん
第4章

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謁見

 謁見の間。


 赤い絨毯が入り口から奥まで敷かれた石造りの大広間では、奥の玉座には国王が腰掛け、かたわらには王族や重鎮たちがずらりと控えている。


 天井からつるされたシャンデリアの下、俺の前で絨毯敷きの床に片膝をついて報告をするのは、第六王女にして「予言の巫女」と目されるセラフィーナだ。


「国王陛下。私、『予言の巫女』セラフィーナは、ついに自らの勇者様に出会うことができました。その旨をここにご報告するとともに、私はこのお方──ダグラス様に付き従って一生を尽くすことを、ここに宣言いたします」


 その報告を受ける国王は、穏やかな顔立ちの初老の男性である。

 国王はセラフィーナに向かって、玉座から言葉を返す。


「うむ、分かった。セラフィーナよ、その者がお前の運命の相手だというのだな?」


「はい、お父さ──失礼しました。その通りでございます、国王陛下」


「お父様で構わぬぞ、セラフィーナ。どちらかといえば、これはそういった話だとわしは考えておる。『予言の巫女』は我がウェントワース王家に代々伝わる古き言い伝えだ。予言の巫女は自らの見出した勇者に一生をかけて仕え、そのうち多くの者は勇者たる男と添い遂げたという。──ならばこれは国王としてよりも、娘を持つ父親として、かわいいお前をどこの馬の骨とも知れぬ一人の男にくれてやるという話になる。そうであろう?」


「なっ……!? それではお父様──国王陛下も、『予言の巫女』は嘘偽りの存在であるとおっしゃるのですか!?」


 セラフィーナの声が、悲痛な響きを帯びる。


 国王のかたわらに控えていたうちの一人、ベアトリス第一王女が、「当然じゃない。お父様がそんな迷信を信じるとでも思っていたのかしら?」と嘲るように口にした。


 だがそれに対して国王は、「待て待て」と言って二人の娘をなだめにかかる。


「セラフィーナもベアトリスも、わしはそうは言っておらぬ。真相がどうであれ、この儀はわしのかわいい娘の一人であるセラフィーナを、一人の男のもとに送り出すものであることに変わりはないと言っているだけだ」


 それを聞いたセラフィーナは、小声で「それは……ほとんど信じていないと言っているようなものではありませんか」と不満を漏らしたが、彼女のすぐ近くにいた俺にしか聞こえなかっただろう。


 一方でベアトリス王女は、「また煮え切らないことを言って」とつぶやき、その態度をすぐ隣にいた老齢の側近から窘められていた。


 話は仕切り直される。

 国王は、今度は俺に向かってこう言ってきた。


「勇者殿──ダグラス殿といったな。いずれにせよ、政略に左右されぬ身である我が娘が、そなたを選んだということに変わりはない。わしがそなたに聞きたいのは一つだけだ。──そなたは我が娘、セラフィーナを幸せにしてくれるか?」


「お、お父様……! それでは普通の男女の話と一緒です!」


「セラフィーナは黙っていなさい。わしはダグラス殿に聞いているのだ」


「ううぅっ……わ、分かりました。……すみません、ダグラス様。こんな話になるとは……」


 頬を真っ赤に染めたセラフィーナが、心底恥ずかしそうな様子で謝ってきた。


 だがまあ、返答に迷うこともない。

 予言の真偽はどうあれ、その問いに対する答えと覚悟は、すでに決めてきている。


「はい、陛下。どうあれセラフィーナが俺に一生ついてくると言う以上、そして俺がそれを受け入れた以上は、彼女には幸せになってもらいたいと考えています」


「そうか。──そなたには、ほかにもそなたに想いを寄せる者が二人いると聞いたが、その者たちも同じように幸せにできるのか?」


「分かりません。ですが、そうありたいと考えております」


 俺は国王の目をまっすぐに見て、そう答える。

 国王もまた俺の目を見て、納得するように一つうなずいた。


「……うむ。正直者の目であり、言葉のようだな。十分だ、ダグラス殿。これからセラフィーナをよろしく頼む」


 意外とあっさり承認が下りた。


 俺はホッと胸をなでおろす。

 イビルフラワーの親玉と戦ったときより遥かに緊張した。


 国王のかたわらでは、ベアトリス王女がつまらなさそうな顔をして「何よこの茶番」とつぶやいて、また老齢の側近に小言を言われていたようだった。


 そうして、俺と国王の謁見は、終了になるかのように思えた。


 だがそのとき、一人の兵士が謁見の間に飛び込んでくる。


「し、失礼します! 国王陛下に危急の知らせがございます!」


「なんだ騒々しい。構わん、申してみよ」


「はっ……! 辺境に火竜(レッドドラゴン)の討伐に向かった冒険者パーティ、“太陽の双璧”全滅の報告が、たった今、届きました!」


「なんだと……!?」


 国王が玉座から、ガタッと立ち上がる。

 側近たちも、ざわざわと騒ぎ始めた。


 一方、俺の隣にいたセラフィーナも、驚きの表情を浮かべる。


「“太陽の双璧”が、全滅……!? そんな……!?」


「“太陽の双璧”っていえば、二人のBランク冒険者が率いる、王都でも最強クラスの冒険者パーティの一つだったか」


「はい、ダグラス様。王都を中心に活躍する冒険者パーティの中でも、五本の指には確実に入る実力派パーティだったはずです。それが、全滅なんて……」


 セラフィーナはそう言って、青い顔をしていた。


 顔を青くしているのは、もちろんセラフィーナだけではない。

 国王もまた、慌てて側近の騎士に声を掛ける。


「近衛騎士長、“太陽の双璧”はドラゴンを倒したこともあるドラゴンスレイヤーの冒険者パーティであると聞いていたぞ。それがなぜ全滅などするのだ」


「分かりません、陛下。時の運か、戦術や地の利の問題か、あるいは……」


「あるいは、なんだ」


「此度のドラゴンが、“太陽の双璧”が以前に戦ったドラゴンよりも強かった可能性もあります。一言にドラゴンといっても、その強さは個体によって大きな隔たりがあると聞きます。一般には年かさのドラゴンほど強力で、千年を生きる古竜(エンシェントドラゴン)ともなれば、たった一匹を討伐するのに千の兵を要するほどの強さであるとか」


「わ、分かった。ならば千の兵を向けるのだ。竜が怒り狂って街を焼きにくれば、千どころではない、万を超える民が犠牲になるのだぞ」


「そういうわけにもいかないのです、陛下。千の兵で応じられるというのは、平野など軍勢が実力を発揮できる場で挑んだ場合のこと。レッドドラゴンは山奥の洞窟に身を潜めております。狭い洞窟や山道では、千の軍勢もその力を発揮できません」


「むぅ、そうなのか……?」


「はい。それに多数の兵を登山させて討伐に向かうのは困難であり、仮に向かわせたとて、ドラゴンにその翼で飛んで逃げられてしまえば元の木阿弥。糧食や兵の士気の問題も見過ごせず、現実的ではありません。ですからドラゴン討伐には、少数精鋭の英雄たちを向かわせるのが一番なのです」


「だからその少数精鋭の“太陽の双璧”を向かわせたのだろう! それが全滅したというのだぞ! ならばどうしろと言うのだ!」


「そ、それは……これより軍議を設け、話し合うよりほかには……」


 理路整然と説明をしていた近衛騎士長も、どう対策するかという話になるとしどろもどろになる。


 だがそこで、第一王女ベアトリス(やっかいもの)の登場だ。

 ベアトリスは愉快そうな口調で、国王にこう進言する。


「ちょうどいい話ではありませんか、お父様。ドラゴンを倒す力を持った英雄──まさにと呼べる人物が、私たちの目の前におりましょう? セラフィーナの予言の力というのが本物であれば、あそこの小汚い恰好ながらも風格のあるおじさまは、偉大な力を持った勇者様だという話なのですから」


 一方で、それに慌てた様子を見せたのがセラフィーナだ。


「なっ……!? 待ってくださいベアトリス姉様! ダグラス様を、我々王家のために好きに動かせる都合のいい駒だとでも思っているのですか!? 勇者様は常に自由に、己の心の赴くままに行動してこそ勇者様なのですよ!」


「あーら、セラフィーナ。自分の予言の力が、本当は嘘だとバレるのが怖いと言っているように聞こえるわねぇ?」


「違います! 勇者様への無礼をやめろと言っているのです、ベアトリス姉様!」


「セラフィーナ! あなたこそ、私に対する無礼を今すぐにやめなさい!」


「ま、待て待て。やめないかお前たち……」


 国王が二人の娘の争いを止めに入るが、どうも弱腰でぐだぐだになる。


 この国王、人柄は良いのかもしれないが、あまり統率力があるタイプではないようにも見えるし、特に娘には甘くてどうしようもないようだ。


 どうやらこの事態、騒然としていてまとまりそうにない。


 それに──千の軍勢を犠牲にしても竜を倒せず、竜が怒り狂って街を焼きにくれば万の人々が命を落とす、か……。


“太陽の双璧”が全滅したから古竜(エンシェントドラゴン)だと決めつけるのも早計だと思うが、山中のドラゴンを相手に大軍で攻めるのが愚策なのも事実だ。


 ならば──たしかにそれも一手だろう。

 俺は国王に向かって進言する。


「分かりました。そのドラゴン退治、俺が行きましょう。ただし条件がある」


「お、おおっ、行ってくれるのか……! して、条件とは」


 国王が食いついてくる。


 俺は三本の指を立てて、条件を提示する。

 仕事の話になると、慣れない敬語はすっぽりと抜け落ちた。


「一つ目、敵の戦力が未知数だ。俺が行っても勝てるかどうかは分からない。俺の手におえないと判断したら撤退してくる場合もあるから、それは承知してくれ。二つ目、セラフィーナからは勇者様なんて呼ばれているが、俺も本来は冒険者だ。討伐依頼には適切な額の報酬を約束してほしい。このドラゴン討伐、“太陽の双璧”にはいくらで依頼した?」


「た、たしか……いくらだったか、近衛騎士長」


「金貨五百枚だったと記憶しております、陛下」


「分かった。ならばそれが全滅したのだから、金貨千枚で引き受けよう。危険手当を含めて前金で二割、成功報酬で残りの八割だ。三つ目、ドラゴンのねぐらに財宝があった場合は、それを俺たちのものにすることを許可してくれ。──以上三つの条件をすべて呑んでくれるなら、俺たちが行ってこよう」


 俺がそこまでまくし立てると、国王がおそるおそる聞いてくる。


「で、では……そなたは勝てると言うのか、“太陽の双璧”が挑んで全滅したというドラゴンに」


「分からない。だが勝算はあると思っている」


「そうか……分かった。その条件で、そなたにドラゴン討伐の依頼をしよう。頼む──ドラゴンの魔の手から、我が国の民を救ってくれ、勇者殿」


 そう言って国王は、俺に頭を下げてきた。


 やはり人柄はいいのだろう。

 国王として頼りになるかどうかは、また別の話だが。


「分かった。報酬をもらうのだから、俺にできる限りの尽力はする。──行こう、セラフィーナ」


「はい、ダグラス様」


 俺はセラフィーナを連れて、謁見の間をあとにした。


 そして俺たちは翌朝に王都を発ち、ドラゴンが棲むという辺境の地へと向かった。


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