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彼女の告白

「……えーっと、すまん。もう一度言ってもらっていいか? おそらく俺は今、幻聴を聞いたと思うんだ」


「分かった、何度でも言うよ。──ダグラス、ボクをあなたのお嫁さんにして、あなたの欲望のままに、ボクをめちゃくちゃのぐちゃぐちゃにしてほしい。ボクは運命を感じたんだ。ボクはあなたに、ボクのすべてを蹂躙されるためにこの世に生まれてきたんだって」


「ああ、分かった。二度聞いても何も変わらなかった。むしろ悪化した」


 困ったことに、エレンはまっすぐで真摯な目をしていた。

 胸に手を当てて、俺に向かって本心を訴えかけてきているという様子だった。


 話を整理しよう。


 エレンはどうやら、俺に惚れたらしい。

 もちろんこの時点で、心臓が飛び出そうなわけだが。


 だがまあ道理で考えれば、自分より強い男にしか興味がないとか言っていたし、【カリスマ】の効果も考えれば、そういうこともなくはないだろう。

 とりあえず、百歩譲ってそれはいいとしよう。


 次にエレンは、自分を俺のお嫁さんにしてほしいと言ってきた。

 話が性急すぎる気はするが、百万歩譲ってこれもいいとしよう。


 真の問題はその先だ。


 蹂躙されたい?

 俺の欲望のままに、めちゃくちゃのぐちゃぐちゃにしてほしい?


 ちょっと何を言っているか分からない。


 いや、本当は分かる。

 ようは彼女が、そういう性癖の持ち主なのだろう。

 自分より強い男に乱暴にされたいという、そういうマゾヒスティックな何かの願望の持ち主と。


 結論。

 エレンは若き天才剣士と見せかけて、若き天才剣士(ド変態)だった。


 しかし俺の返事を聞いたエレンは、恥ずかしそうに頬を染めて、もじもじとする。


「ううっ……やっぱり、ボクみたいな女子がこういうことを言うと、男の人って引いちゃう……? ボクも自分がどうやら、普通じゃないのは分かっているんだけど……」


「あー……いや、うん、まあ……悪いけど、引くは引くな」


「うぅぅっ……そんなぁ……。勇気を出して、ボクの全部をさらけ出して告白したのにぃ……」


 がっくりと肩を落とし、絶望した様子を見せるエレン。

 可哀想と評価するべきなのかどうなのか、よく分からない。


 だが──


(かわいいは、かわいいんだよなぁ……)


 俺はそんなエレンの姿を、つい注視してしまう。


 まず顔は、飛び切りかわいい。

 艶のあるポニーテールの黒髪に、黒の瞳をたたえたぱっちりとした眼差し。

 ややボーイッシュな中性的容姿ではあるが、顔立ちは文句なく整っている。


 体つきも魅力的だ。

 スポーティで瑞々しい肢体に、派手さはないが出るべきところはほどよく出て、引っ込むべきところはほどよく引っ込んだ魅惑のボディライン。


 装備は剣士らしく、金属製の胸当てと片手剣一本だけを携えた軽装のもの。

 あの胸当ての下には、柔らかさと弾力のある豊かな双丘が収まっているはずだ。


 俺はごくりと唾を飲む。

 あの麗しい体を、思うままにできたら──


 って、待て待て。

 俺はいったい何を考えているんだ。


 今朝に初めて出会ったばかりの少女を相手に、何を想像している。

 落ち着け俺。

 常識を取り戻すんだ。


『……うん? わが主よ、何を迷っておる。自らお主にその身を捧げようという乙女が、目の前に現れたのじゃぞ? 据え膳食わぬは男の恥じゃ。それに多くの美しき女子(おなご)を侍らせるは覇者の器よ。英雄(いろ)を好むというじゃろう』


「すまん、ロンバルディア。お前は黙っていてもらえるか?」


『ぶーっ。わが主よ。我への扱いがちょっと冷たくないかの』


 ロンバルディアが例によって悪の道に引きずり込もうとしてくるので、聞かなかったことにする。

 いや、悪の道は言いすぎかもしれないが。


 俺はいろいろと迷った末に、エレンに言葉を返す。


「あー……エレンのことはその、少し個性的だが、魅力的だとは思っている。だがそれはそれとして、お前さんはもうちょっと自分を大切にした方がいいと思うんだが……」


「自分を大切にするからこそ、ボクは自分に素直になりたいんだ! 自分が本当にやりたいことを一生我慢して、それが自分を大切にするってことなの!? ねぇ教えて、ダグラス! ボクは本気なんだ!」


「いや、それはその、だな……」


 困った、見事に論破されてしまった。

 こっちに信念がなく、向こうに信念があるんだからしょうがないのだが。


 ていうかひょっとして、俺が間違っているんだろうか……?


 ダメだ、混乱してきた。

 ひとまずあれだ、矛先を変えよう。


「み、ミィナ、お前さんはどう思う? エレンが言っていることは、俺には少し行き過ぎているように思えるんだが……」


 と、俺は猫耳族の少女に助け船を求める。

 だが──


 ミィナは俺の前で、何やらすぅはぁと深呼吸をしていた。


 そして。

 意を決した眼差しの獣人の少女は、一世一代の大勝負というようにこう叫んだ。


「だ、だったらミィナも、ダグラスのお嫁さんにしてほしいにゃ!」


「はあ……!?」


 俺は固まった。


 な、何だって……?

 また幻聴が聞こえたぞ?


 だがミィナは俺にぐぐっと身を寄せて、必死な様子でこう伝えてきた。


「ミィナのほうが先に、ダグラスのことをいいなって思ってたにゃ! でも言い出せなかったにゃ! だけど今言わないと、ダグラスはエレンのものになっちゃうにゃ! そんなの嫌にゃ! ダグラス──ミィナのことも、エレンと一緒にお嫁さんにしてほしいにゃ! この国では一夫多妻は禁止されてないはずにゃ!」


 ……ぽかーん。

 俺の前から、現実がどこかに消え去っていた。


 なんだこれ。

 夢の世界? ハーレム?


「ダグラス、ボクをお嫁さんにして! ボクをベッドの上で、息もできないぐらいにめちゃくちゃに(ピーッ)してよ!」


「ダグラス、ミィナをお嫁さんにしてほしいにゃ! ミィナのことをぎゅーって、たくさん抱きしめてほしいにゃ!」


 二人の超絶美少女に詰め寄られる、四十歳のおっさん冒険者。

 それに対して、俺は──


「……わ、分かった」


 そう言うしかなかった。

 だって、それ以外に選択肢ないだろ。


 すると二人は──


「やったあ! ありがとうダグラス! ボクのこと、これからたくさん蹂躙してね♪」


「ふにゃ~! 良かったにゃあ~! もうミィナ、ダグラスと一緒じゃなきゃ嫌にゃ~!」


 そう言って、二人同時に俺に抱き着いてきた。


 女の子の肌の柔らかさといい匂いとが、ダブルパンチで絡み合って俺に襲い掛かってくる。

 ヤバい。


 俺はそんな二人の頭を、両手を使って同時に、おそるおそるなでる。

 すると二人とも、俺に身をすり寄せて、ごろにゃんと懐いてきた。


 ヤバすぎる。

 間違いない、ここは天国だ。


 いや、オークの巣穴だが。


『にひひっ。わが主はモテモテじゃのぅ。我も鼻が高いぞ』


 一方でロンバルディアは、そんな上機嫌な思念を俺に送ってきたのだった。


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