1-7 初結成
【7】初結成!
「まさか?」
「そのまさかじゃ。時にイメルダ先生よ。」
「な、何でしょうゼクス学園長。」
「時に保管室の石化している生徒の数はわかっておるかな?」
「記録も記憶もしております。ちょうど100体になります。」
「その石化した者たちに部外者はおるのかな?」
「・・・わが学園の生徒だけです。」
「ほう、さすがは生徒思いのイメルダ先生じゃ。記録も、さらに明確に記憶もしていると。付け加えるならじゃが、保管室の外からは魔法の結界で魔物さえも寄り付けないが、もしも石化から解けた生徒がすぐに外に出られるように細工がなっておったな。」
おーそうかと、わざとらしく、白ひげのゼクスは手を打った。
「ならば、保管室の扉が開いておって、中から石化した生徒一人分が消えておれば、間違いないな。であればフィッシャー先生。」
「うぐっ!!(食べていたものをつまらせた)はい!」
「えーゲミ先生、それにシープス先生。」
「はっ?」
「はい。」
「すまぬがお三方で、保管室を見にいって確かめてくださらんか?」
「わかりました!」
言うが早いか、3人は待機場を出て行った。その去り際、フィッシャーにゼクスは囁いた。
「左奥の一番隅じゃ。」
(やっぱ食えねー爺さんだな)
「では、次じゃな。」
「例えば、シルキー君が在学生とした場合・・・あくまで例えばの話じゃな。イメルダ先生。仮にとして、評価をしてはいただけんかな?」
「えっ?はい、学園長さえご許可されるのであれば。」
「わかりました、すまぬがお願いしたい。時は金というからな。」
「わかりました。」
「ですがパーティーのクラス評価とパーティー結成には4人以上の教師が揃い、全員の承認が必要です。ここには、わたしとウィル先生、リブ先生の3人しか・・・」
「4人じゃな、ちょうど。」
「し、しかし、学園長どこに。」
「イメルダ先生、わしも教師のはしくれのつもりじゃが?」
「あっそうか!」
とウィルが納得と手を叩いた。
エリザベートは、ウィルを睨むように向き直り、ウィルは肩をすくめた。
「わかりました…では、ゼクス校長を含めて、4人の教師全員の評価で一致すれば合格とします。あくまでも現時点では仮にです。」
「あっ?」
「ロビン君とシルキーさんと2人で合格水準以上!」
ウィルが手を合わせて喜んだ。
「というより、シルキーさんの能力値が高すぎて見えにくいけれど、仮にダブルSだとして、ビギナーズのロビン君を足して、Cランクにはなるわね。合格です。」
リブが後付けで言った。
ロビンとシルキーは顔を見合わせて喜んだ。だが・・・
「どうじゃなイメルダ先生。」
「そうですね。ロビン・クルソン、シルキー・ラグ・ドリエル、あなた達を足してもEランクです。Eは、再評価、組み直しです。まあかなり甘い評価で、厳しく見たらFランクの退学ですが…。シルキー・ラグ・ドリエル…さんが今の学園のルールである同等の力量を持つ者同士でなければパーティーは組んではならない、ということを知らなかった場合ですが。知っていて、わざと…ということであればFランク確定です。」
「えっどうして?また意地悪を!」
オードリーが真っ赤な顔をして言った。
「わしもイザベル先生と同意見じゃな。ただし、そのルールは近年に定まったもので、もちろん石になっておったシルキー君は、知らなくて当然じゃ。」
「ど、どうして?学園長も?」
「それは言えぬ決まりで、すまぬが・・・」
ゼクスが言いかけて、リブが代わりに答えた。
「あなた達には教えていないことなのだけれど、私たちがこの学園の教師になるには、エキスパートジョブがSクラス以上で、マンステータス鑑定のスキルがあることが条件なの。」
「リブ先生。それを明かすのは・・・」
ウィルが心配そうに、リブの顔を見た。
「わかっています。あとで退職届けを提出します。不規則発言ですからね。でもいいの、今日だけではないのだけれど、正直わたしは教師に向いてないなあって。特に勇者は育てられないかなって。」
リブは、エリザベートをさりげにキッと見つめた。
「リブ先生、鑑定のスキル、しかも人間相手のスキルを持っているの?すごい!でも。」
「そうなのオードリーさん。あなたの納得できる回答が、この鑑定スキルによる基準ってことになると思うけど。これを明かすと、先生たち全員に命の危険があるの。モンスター鑑定は一般的に一定の勇者が備える技術だけど、マンステータス鑑定は生まれついた先天的な能力なの。この鑑定スキルがあれば、犯罪に使われる場合が多いから。」
「だから、基準は教えられないって言ったの?」
「そうなの。だからごめんね、オードリーさん。」
「リブ先生の処分は別にして、仮にE評価とします。あくまで仮にです。」
「そうじゃな。この学園はギルドではない。そのためSクラスを認定してはならぬという法律があるのじゃ。シルキー君は、間違いなく、Sクラス以上。つまりは我が学園で首席のみに与えられるトリプルAじゃな。」
「はい間違いなく。」珍しくエリザベートが素直に追随した。
リブもウィルも、そこまではっきりはわからないが、間違いなくAは超えていたため、承認した。
「対して、ロビン君だな。君は、ふむふむ少し変わっているな。面白い、そうか君は彼の息子さんだったな。」
「はい、そうですね。わたくしはこういうイレギュラーな評価があることが、本当に嫌いです。」
それには今度は逆に、ゼクスに憮然とエリザベートが答えた。
「どういうこと?」
オードリーが聞いた。
「ユニークスキル、固有の能力ね。」
シルキーが答えた。
「僕が?何の?」
「それはわからない。あなたがどう目覚めるのか、あなた自身も。」
「別名、英雄のエキスパートジョブともいう。まあ、勇者らしいといえば、最も勇者らしいな。」
ちょうど、保管室から帰ってきたフィッシャーが言った。どうも失神しているゲミを肩に担いでいた。シープスも、ぜえぜえと息を吐きながら遅れて帰ってきた。
「ユニークスキルは実は鑑定できない。その場合は、そのパーティーが3人以上のメンバーであって2名以上がBクラスのメンバーなら合格とする基準がある、んだよ。」
シープスが息を切らしながら補足した。
「(小声で)その人どうしたの?」
「(小声で)あー、随分慌てて先に行ってたんだよ。多分扉を閉めようとしようとしたんだろうな。俺たちがそれを止めようとしたら、邪魔してきたからのしてやったよ」
「やるわね。相手は元軍人よ?だけど、スカっとしたわ。」
「だろう?軍人風情にS級冒険者が負ける訳がねーよ。毎日のように、モンスターたちとやりあってるんだぜ俺たちは。練度が違うよ。」
フィッシャーがリブと小声で会話したあとで、ぐるっと見渡すと、残りの生徒は3人だった。
オードリーがギリギリBクラス、男子生徒2人がEクラスと、教師たちは全員それを知っていることもすぐに察した。
人のステータスを明かすのは、これこそ法律で厳重に処罰される行為だったためだ。
「それでどうだったの?」
そうなのだ。正式に組み式の評価でないところでのE評価。次が本番で、ロビンとシルキーが残りの生徒で、オードリー以外の生徒を1人でも選んでしまうと即失格であった。リブは、何とか2人に密かに伝えようと考えを巡らしていた。
「あ、ありました。い、いや無かったというべきか。」
「どっちなの?」
リブが、シープスに詰め寄った。
「あっいや保管室の扉は開いていて、99体しか石化した生徒はいませんでした。」
「つまりは?」とウィル。
「シルキーさんは、うちの在学生ということよ!」とリブ。
「やったー!!!おめでとうシルキー!あっごめんね!いきなり呼び捨てにして。」
「いいの、オードリーさん。」
「ううん、わたしのこともオードリーと呼んでシルキー。」
「では・・・再評価じゃな。再評価とは、パーティーの組み直しだ。どちらにしても、本番だ。次はない。ロビン君とシルキー君どうする?」
ロビンが答えようとしたとき、
「ちょっと待って!」「ちょい待ち!!」
リブとフィッシャーが同時に、ロビンを制止した。
「なによ、わたしが言うから!」
「うるさいな、これは自分、いや俺がいうのが一番だ。いいか、ロビン、お前残りの3人を全員選ぼうとしたろ。いや、言うな!声出すな!まず俺の話が先だ。俺は今日で学園を辞める。もう決めた!いや今決めた!いいスカ、ゼクスの爺さん?」
「あっあー構わんよ。君が良いならね。」
「あなたバカ?少しは私の話を・・・」
「いいから、黙ってろ堅物リブ先生。」
「なっ!?」
「おいっ!そこの男子生徒!俺とパーティー組まないか?外に何人か声をかけりゃ、結構な人数のパーティーになる。お前たちも行き場ないだろう?俺がまとめて面倒見てやるから、一緒に冒険しようぜ。冒険は楽しいぞ!」
「はい!フィッシャー先生お願いします!!」
あーと、リブとウィルが目に手を置いた。
「いいスカ?学園長、イイすよね?」
「うーん、よく後で話をしようかの。でも、あなたは立派な教師じゃな。あっいや元な。元・・・わしは好きだな、そういう人が。」
「じゃあロビン。」
「シルキーさん・・・い、いやシルキー。」
「せーの」
「オードリーで!」
「合格じゃ!」
次はダンジョンに向かいます。