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第3章 54 勇者のまち

【54】勇者のまち


「どんなに鑑定しても、君はビギナーズ…魔王を倒せる力があるとは思えない。だが事実は事実としてある。ほんとうに不思議なことだ。」


ロビンたちは今、国王カルスフリードより褒賞を授与される前に、預言者フラッグ・フォン・スタインにより、あらためて鑑定を受けていた。だが、結果は勇者学園の卒業時と変わらなかったのだ。

そして、戦闘終了後になるが、魔王を討伐した時、そのあまりの魔力量の大きさに、ロビンのライタルストーンはふたたび粉々になっていた。

それはつまり鑑定不能。ふたたびEランクのパーティーとして位置付けられることになった。


「ゼクスが君を、わたしに会わせたかったのは、わたしが人の潜在能力、眠れる真の力を見極める鑑定の力があるためだろう。だが誠に申し訳ないが…君はどう鑑定してもビギナーズだ。確かに何らかのユニークスキルはあるようだが…すまないがそれは、わたしにはわからない。まだ発展途上にある能力だからなのか、それとも人智を超える力なのか…それはすまない。」

「そんな。スタイン卿、僕は大丈夫です。ただ剣を使う時に声が聞こえるんです。いつもあれは何だろうって?」

「声?」

「そうなんです。頭の中に声が響いて、体を動かすイメージが流れるんです。誰かに習ったものではなく、全く知らない知識です。ですが、その通りにすると最高の技になるのです。」

「あれは紛れもなく剣聖の…アルクスラインの技です。」

隣で聞いていたシルキーが一歩前に出て言った。

フラッグは「そうなのか…うーむ。」とあらためて深く考えをめぐらせた。


「聖獣に選ばれたのは、どうやらロビンのようだったのだな。確かに魔王を倒した最後の一撃…あれは人智を超越しているものだ。しかも放った本人もあれだけのことをやってのけながら、自覚が薄い。驚きだ。」

黒騎士ナイトレイが言った。

黒騎士ナイトレイは、魔王討伐後、なぜかロビンたちから離れることはなく、ともに行動している。そしてロビンには事あるごとに何かを話している。シルキーがロビンに何を話していたのか、と聞いても、いつも黙ったままで、ずっと考え込んでいることが多かった。シルキーにはそれが不安でならなかった。


トントン…


「もういいかい?ロビ君、シル君。」

礼服に正装したクロエが鑑定の部屋へと入ってきた。目をみはる美しさだった。

「どう?似合う?この格好?ロビ君に一番初めに見てもらおうと思ってたんだけど…エヘヘ。」

「う、うん。」

シルキーがそれに、ムッとした。


続いて、クルスが続いてやってきた。

クルスも正装へと着替え、さらに神秘性が増していた。とても近寄りがたい雰囲気だ。ますます透明感のある美しさで、神々しさにさえ包まれている。


「ロビン様、シルキー様、ナイトレイ様も、そろそろお支度をしていただき、会場となる舞踏場までお願いします。国王陛下、執政官様方、ご来賓の方々がすでにお待ちです。」

「おお、すまないクルス・ウルティマ。もうそんな時間か。ならば支度をせねばな。勇者殿たちも着替えるが宜しかろう。場はわたしが繋いでおく故、皆様に失礼のない格好で参られるがよい。」

「スタイン卿、やはり学園長は…」

「そうだな。あの方はこのような場には絶対に来られんだろう。特に政に近しい場にはな…やはりそれが気になりますかな?」

「そうですね…僕らのパーティーだけで魔王と戦ったわけでも、ましてや勝ったわけでもないですし。何より学園長がいなければ…」

「だから、ずっと浮かない顔をしておられたのか?」

「…はい。学園長が式典にいらっしゃらないのであれば、いっそ…とも。」

「そうだな…それではせっかくのパーティーが台無しだ…ただ、それは気持ちの問題で、それもいいかもしれん。だが…それを聴いたゼクスは、果たして喜ぶのかな?」

フラッグは迫るように言った。

「ロビン…オーリンは…多分、ゼクス学園長はがっかりするわよ。あの方は、本当はどんな時も楽しみたい人なのだから…特に政治が絡んでなければ、自分から飛んでくるタイプね。でも、どちらにしても、ロビンがパーティーのリーダーなのだから、ロビンの決めたことに、わたしたちメンバーは従うわ。」



ロビン・クルソン殿

シルキー・ラグ・ドリエル殿

クロエ・アヤ・グレース殿

クルス・ペネース・ラ・ウルティマ殿

黒騎士ナイトレイ殿

ご入場!


王城の舞踏場に現れた5人の勇者。ロビンはあれこれ考えずに前へ進むことを決めたのだ。

会場が割れんばかりの感謝の拍手で包まれた。

まず、いまや立派に成長して精悍さの増したロビンが入場した。

次に、緑色の髪を結わえて一まとめにして、輝くばかりにドレスアップしたシルキーが後に続いた。会場の男女問わず思わず息を呑んでため息さえもれるほどだ。

クロエ、クルスも、もちろん決してひけはとらない。

そして…最後はナイトレイだ。黒騎士の鎧を脱いだ姿は…長く豊かなアイリッシュブルーの髪、褐色の肌、そしてスタイリッシュに黒のドレスを着こなし、目元にのみ、やはり素顔がわからないように仮面をつけていた。


「レイ…君は女だったんだな。しかもとびきりの美人…何よりエルフ族とはさらに驚いたよ。それに、ロビ君も、嫌になるぐらいレイの豊満な胸ばかり見てたもんな。」

クロエが歩きながら、レイと目の前を歩くロビンにわざと聞こえるように、茶化して言った。

「ロビン…そんなとこ見てたの?いやらしい!」

シルキーはむくれて思わず立ち止まった。

「み、見てないよ!」

「しっかり見ていらした…ですわね。」

「別に見たければ見たいだけ見れば良い。別に減るものではない、なあロビン。」

クルスとナイトレイは、ロビンたちに通り過ぎる様にさらりと言って、3人を残して進んだ。

「ロビン!」

「だから違うってー!」


5人は国王カルスフリード・アルバート3世の前へと並んだ。

そして一礼して、会場の方へと向き直った。会場からはさらに大きな歓声と拍手に包まれた。執政官ルージュが片手を挙げると会場は静まった。


「此度は魔月の魔王討伐に対し、最大の功績をあげたるこの5人の勇者たちを迎えた!ほんとうに良くやってくれた!余は貴公らに対して、あらためて最大の感謝を贈ろう!」

5人は会場に向かっても一礼すると、会場からさらに大きな拍手が送られた。

「さて…貴公らに今回の褒賞として用意した物を贈ろう。これは、ウルティマツオーレ国とも合同のものである。」

カルスフリードがそう説明すると、ルージュ執政官が厳粛に目録を取り出し読み上げた。


ひとつ、5人のうち1人にあたり、10億ゴールドを授ける


会場から、おお!というどよめきが広がる。


ひとつ、ナイトの称号を与えるとともに、我が国とウルティマツオーレにおいては、その最高位たるナイトオブキングとして位置付ける。ナイトオブキングはナイトを超えた存在である。王立の騎士団を自由に動かすことができる。故にパーティーのリーダーであるロビン・クルソンには、さらに伯爵の爵位、辺境伯とし、望む封地を与えるものとする。そして以下のものを順にシルキー、クルス両名を子爵、クロエを男爵、ナイトレイを準男爵とする。


会場がさらにヒートアップした。本人たちが一番驚いている。


ひとつ、黒のドワーフ族との盟約により献上されし武器、防具を授ける。


ひとつ、本パーティーはEランクとする。


最後のルージュの言葉に会場はざわついた。

魔王討伐した者たちがEランクとしか評価されないということだからである。

だが、逆に言えばロビンたちはこの世界で新たな道を切り開いたことになる。パーティーのランクとは鑑定により絶対に不動なものだが、ランクに関わらず成果によっては莫大な褒賞が与えられる、ということである。

つまりは、この瞬間から絶対成果主義が認められたことになる。彼らはその初めての先駆者となった。


「辺境伯…伯爵だなんて…」

「どうした?ロビンよ。いかがした?」

ルージュが質問した。

「は、はい執政官様!僕らは一介の勇者…この戦いは大勢の仲間がいたからこそ勝利し得たのです。それにこの世界には魔界があり、大魔王や魔王はまだ存在しています。それなのにこのような過分な地位や褒賞を得られるのは…そう思いまして。」

「…馬鹿…者。」

「えっ?」

「この馬鹿正直者め、そう言ったのだ。」

「は、はあ…そうなのかもしれませんが…」

「お前はわかっておらぬが、お前のような勇者がいたなら苦労はせんが、世の中、そうではない。何かのために頑張れるが褒美もなく率先して、人は努力しないものだ。そのような者でない無欲で奇特な者はお前だけだろう。大魔王や魔王は討伐せねば、世界には平和は訪れぬ。ならば莫大な褒美を出して、それが叶うなら、逆に人類からすれば安いものだ。だから…」

ルージュは小声で「もらえるもんはもらっとけ、この馬鹿正直者めが!と、そう言ったのだ。」とロビンに言い、咳払い一つした。

国王もウインクした。

意外にこの2人のコンビネーションはいいなとロビンはふと思った。


「では良いな、ロビン・クルソンよ。」

「は、はい。喜んで承ります。」

「それでよし!では封地はどこを望む?具体的になければこちらで検討するが…」

ロビンは、この時思い出したように、はっとして、ナイトレイを見た。ナイトレイはうなづいた。


「はい!ございます!」

「ほう、それは?」


「月の山脈のふもと、魔獣の森一体を含む…旧王都です!」


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