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2-51 決戦3 神獣たち

【51】 決戦3 神獣たち


「あなたは一体?」

シルキーがそう言いかけて表情を強張らせた。

「どうしたのシルキー?」

「この人から…なぜか強い闇の力を感じる…」

黒騎士はシルキーへと歩み寄る途中で立ち止まった。

「さすがはハイエルフ。察しがいいな。」

「ま、まさか…」

「この鎧はブラックストーンでできている。」


一方、月の山脈山頂では…

「さあ怪我人を早く運んで!さあ、こちらに!」

バハムートの鱗の散弾攻撃で傷ついた勇者たちが、仲間に抱えられて、神官たちの救護場へと運ばれてきた。クルスが陣頭指揮を取っている。

「クルス様。」

「どうしました?」

「あのドラゴンの鱗の攻撃…あれは今までの伝承にはなかったものです。おそらく、過去の神官たちが用いた、我らウルティマ神の加護イージスの盾を破るためだけの攻撃です。つまりは、あの攻撃を何度か連続されようものなら、我らの盾は無意味。なす術なく全滅です…」

クルスは一旦考え込んだが…

「それでも…それだとしても、わたしたちのできることを今はすべき時です!まずは、怪我人の手当、それが優先です!」

周りを鼓舞して奮い立たせるように気丈な態度を見せた。


「な、なんだと…ブラックストーンの鎧だと…」

傷が概ね癒え、フェルナンデスが意識を取り戻して言った。ミナに体を支えられながら、黒騎士のそれに反応した。

「バカな…ブラックストーンを加工して、成形する技術は元より、その溢れ出る巨大な暗黒の石の魔力を制御しているとでもいうのか?本当にそうなのか?なぜお前などがそれを自由にできるのだ!それは私の物になるはずなのに!なぜ!」

メディティ家に生れたフェルナンデスが欲した究極の力が目の前に突然現れたのだ。フェルナンデスは、重い体を引きずって、黒騎士の足元で倒れこんだ。

ミナが見かねて駆け寄り抱きしめる。黒騎士はその様を仮面越しにじっと見ている。シルキーたちにはその表情はわからない。


「まあ、どう考えてもらってもいい。だが、それはあくまで人間の見方だ。あまり人間の物差しだけで考えない方がいい。ハイエルフであれば、それはわかるだろう。」

黒騎士は、フェルナンデスの非難するような投げかけに特に動じることはなく、シルキーの方を見ながら言った。シルキーは静かにうなづいた。

「それよりも…勇者たちよ。わたしが、お前たちをあの魔王の元へと連れて行こう。」

「なぜ、僕らを?」

ロビンが即座に返した。

「それはお前たちのうちのいずれかが聖獣に選ばれし者だからだ。」

「僕らが?」

「…そうだ。」

黒騎士は考えるようにして答えた。

「別に僕らは…」

「わからぬか?」

「まさか…もしかして…」

シルキーに何か閃きが生まれ、そして繋がったようだ。

「シルキー?」

「試しの口で…」

「あれが?」


「そうだ。お前たちは試しの口の聖獣に選ばれし勇者。我が竜騎士の一族の伝承ではこうある。魔王を倒せし者…それは聖獣に選ばれし勇者だ…と言われている。お前たちはその勇者に他ならぬ。」

「竜の騎士?あなたは竜騎士なの?あの伝説上の?」

「そうだ…わたしはドラゴンとともに生きる竜の騎士の一族。お前たち人間のいうドラゴン、幻獣こそが、わが眷属。我らはこの世界の調停者として存在するドラゴンとともに、魔界と人間界、魔獣たちとの境界を築き上げ、生きとし生けるものたちを守っている。これは太古の神、聖母竜ティアマトから授けられし掟。人間界に現れた魔王の映し鏡の存在を許す訳にはいかない。これまで3度、お前たち人間の勇者が魔王を討伐仕損じてきたが、いま仕留めねば世界のすべてが魔界へと呑まれるだろう。だから…本来ならば我らがその姿を見せることはないが今回だけは力を貸そう。だが、我らだけではあれを倒すことはできん。我らの根源も、魔王のそれと変わらぬ。お前たちの力が必要だ。」

「だ、だけど…僕らはそんな者ではないと思うけれど…」


シルキーがロビンの肩を持って首を横に振った。

「ロビン…わたしたちのどちらかが選ばれた勇者だったのなら、それでいいじゃない。わたしたちは、魔王を倒したい、そのことは間違いないから。」

「わかった。シルキーの言う通りだ。僕はロビン、こちらはシルキー。あなたは?」

「わたしは…ナイトレイ…レイとでも呼んでもらえばいい。」

「では…レイ、どうやってわたしたちを山頂へ?」

「あれだ。」

ナイトレイが、天を指差すと同時に、青白く光る巨大な鳥が数えるだけでも10数羽はいるだろうか、先に降りたドラゴンの隣へとゆっくりと舞い降りてきた。

「わたしは、風のドラゴン・リンドブルムに乗っていく。お前たちはこの神獣に乗せてもらうが良い。」


「学園長、あれを!」

「うむ、やはり動き出したか!」

バハムートは魔力が補充できたのだろう、ふたたびその巨体が動き出した。大きな首をもたげ、周囲を見渡し獲物を品定めするような余裕すらも感じさせる。

そして、2枚の翼を広げるとゆっくりと羽ばたいた。徐々に体が浮き上がる。遂に飛び立とうとするのだ。

「いかん!このままでは!」


その時だった。

遥かな下界から青白く光る翼のドラゴン、そして多数の輝く巨鳥たちが突然現れた。目にも止まらない高速の動きで、一旦遥か上空へと向かい、バハムートの頭上をぐるぐると旋回して取り囲んだ。

進路を阻まれたバハムートは、激しい怒りを感じたのだろう空気を震わせるほどの咆哮を上げると、またも凶悪な口を開けて、神獣たちに向かって地獄の火焔を撒き散らした。

何羽もの巨鳥がその激しい業火へと巻かれ、岩山へと次々に落下して激突した。


「ああ!」

クルスや神官たち、ゼクスや勇者たちが同時に叫んだ。


だが…なんと焼かれたはずの巨鳥たちは、その燃え盛る炎の中から、自らの古い体を捨てるように、その炎に包まれた体から抜け出して、新たに生まれた翼を広げて、ふたたび空中へと舞い戻ってきた。


「あれは…?学園長あれはまさか…」

「あれは神獣フェニックス…そして、まさかと思ったが伝説の竜の騎士…」

ゼクスが呻くように漏らした。この世の森羅万象にも手が届くといわれるゼクスにとっても、初めての邂逅であったからだ。それほど竜の騎士と人間には接点などなく、ただ伝説上の存在として位置付けられているのだ。


リンドブルムと黒騎士は、進路を塞いだバハムートの直上に位置取ると、その直下に向けて巨大な大気の渦を作り出し、空中にあるバハムートを包み込んだ。

そしてそのまま漆黒の翼の自由を奪い、その無から作り出した豪風によって、固く鋭い岩肌へと押し戻した。バハムートは抵抗しようとするが、あまりの風の勢いで岩盤へと押し付けられて、身動きが全くできない状態になった。

するとバハムートは、動くことをあきらめたのか、次に全身の鱗が総毛立って臨戦態勢をすぐさまとったことをゼクスには見て取れた。


「いかん!あやつはまた鱗を発射させるぞ!全員退避せよ!」


ゼクスが言うが早いか、バハムートの鱗は周囲四方に一斉に発射された。ゼクスの指示は虚しく、誰もがこの刹那でかわすことなどできなかった。


だが、バハムートを取り囲む10数羽のフェニックスたちが、それに合わせて、バハムートと同じように、光を放つその羽根を一斉に発射した。

数え切れないほどの光の羽根は、凄まじいスピードで回転しながらも射出され、やはり凄まじい勢いをもつ無数の黒い鱗と空中で激突して相殺された。

光の羽根と黒い鱗が接触すると互いに爆発するように粉々に破裂し、そしてそれでもなおフェニックスたちには、それ以上の被害をもって鋭い円盤が突き刺さり、その体に忌まわしい傷を受けた何羽が絶命したかのように岩肌へと落下した。

だが…その墜落した美しい鳥たちは、炎に焼かれたときと同じように、しばらくすると、その生命の輝きを取り戻すように何度でも再生した。


「麒麟よ!」

リンドブルムを操るナイトレイが叫ぶと、下界をはるかに見下ろす岩山を軽々と駆け上ってきた麒麟が現れた。大きく最後に飛び上がると、バハムートの首筋へとその鋭い牙で噛みつき、強固な体を引き裂いて、そして少し離れた場所へと着地した。


「フェニクッスよ!」

フェニックスたちが黒騎士ナイトレイの指示を受けて、輝きのその羽根を、まるで絨毯爆撃でもするかのように、十重二十重にも打ち出してバハムートへと浴びせかけた。バハムートはたまらず、のたうち回る。


「リンドブルム!」

ナイトレイがリンドブルムに向かって、その両手を首筋に当てると紫色の光りを発して、リンドブルムへと注入した。おそらく黒騎士の鎧、ブラックストーンから発せられているのだろう。するとリンドブルムの目が真紅に燃えて、さらに勢いのある風の渦を作り出した。風は轟音とともに、漆黒のドラゴンの翼を粉々に撃ち砕いた。


エビルバハムートはその畏怖の象徴とも言える翼をもがれ、冷たい地面へと地響きを立てて倒れた。

不思議なことに、神獣たちから受けた傷は、いつまでも再生する様子がない。


「勇者たちよ!」

リンドブルムに騎乗する黒騎士が叫んだ。

「我がドラゴンの眷属は、魔力から神霊力を生み出す!だがいかに魔王を傷つけようと、根源を同じくする我らには、魔王を致命傷へと至らしめることができない!魔王を討ち滅ぼさんがため、その剣を取れ!弓を放て!魔を滅せよ!」


ウオーーーーーーーー!!!!


勇者たちは、黒騎士の檄に歓呼した。

神官たちに治癒された勇者たちも、ふたたびペガサスへと騎乗して戦線復帰した。

いまやバハムートの周りは、リンドブルムを始めとして、麒麟、フェニックス、ペガサス、そして勇者たちが敢然と包囲している。彼らはバハムートを四方から、魔法と神霊力を結集して砲火を浴びせた。


グギャーーーーーー!!!

漆黒の巨大なドラゴンは、それでもなお闇の力を放出して、咆哮とともに全てに抗うように立ち上がった。







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