2-50 決戦2 竜騎士参戦!
【50】 決戦2 竜騎士参戦!
「ロビンあれ!」
シルキーの指し示してくれた方向、月の山脈の最も高いだろう頂の周辺に、暗黒の渦のような雲が現れて、頂上付近の岩肌をすべて覆い隠していった。
「あれは...」
「きっと魔王が降臨したのよ! オルフェンブルー、目的の場所に急いで。」
ロビンとシルキーを乗せたオルフェンブルーが、シルキーの掛け声で、さらに加速して旧王都へと直進した。
炎が、雷が、そして水や風の魔法攻撃が、魔王のその身体の一点に向かって集中して放たれた。
ゴドゥアアアアーーーー!
だが、そのどれもエビルバハムートの咆哮ひとつで、霧散するように消失した。
「さすがに魔王! あのときを思い出すな!」
空中でペガサスの手綱を操るフィッシャーが、学園地下ダンジョンで戦った魔王のレプリカント・ギガントロプスとの一戦を思い出して、後ろに乗っているリブへと言った。
「そんなこともあったわね! でも、今はそんなこと思い出したくもないわ!」
リブが、パーティー全体の魔法力を上げるための詠唱をしはじめた。
フィッシャーらのペガサスの隣に、シーブスとウィルのペガサスが並んだ。
「わたしたちも、教師をやるために勇者学園に入ったのに....まさかこんな...」
「そ、そうですわね...こんな恐ろしい場所にやってくるなんて...」
「お二人さん、とにかくもう来ちまったもんわ、しょうがねーーー、やることやって早く帰ろうぜ!」
ー あんたのせいでこんな目に ー
その場の全員がそう思いながらも、シーブスとウィルもパーティー全体の魔法力を上げる詠唱を始めた。
エビルバハムートが、ゼクスたちの最初の一斉攻撃を受けてから、その胸のあたりを赤くした。
「いかん、全員退避しろ!!!」
フィッシャーがそう叫ぶと同時に、エビルバハムートはその巨大な牙の並ぶ口を大きく開き、喉の奥から強力な火焔を放射し始めた。
そして、さらにそれに合わせて、二つの翼をはためかせ、まるで地獄の火炎を空中へと散布するように広げ、空を朱色と黒煙で包み焼け焦がした。
う、うわーーーー
空中にいるペガサスの一団が、業火に焼かれたと思った瞬間だった。
彼らの周りに青白い光が障壁となって激しい炎の渦から身を守ってくれた。
「や、焼けてない...」
「熱くもない!」
「これが...これが、ウルティマの神官が言っていた神霊結晶による魔法障壁...」
「絶対防壁イージスの盾!!!」
エビルバハムートからおよそ500メートルほど離れた一角に、クルスをはじめとする、ウルティマの神官たちが居て、合同の詠唱を行い、彼ら自体も青白い光に包まれていた。
エビルバハムートとの戦いは、過去の伝承からすれば、必ず長期化するとともに、その魔王の攻撃力は一撃でも与えられれば致命傷になりかねない物理的なものばかりだったという。
過去の魔王戦で、勇者たちが持久戦を行えたのは、すべてがウルティマの神官たちによる神霊力を結晶化して障壁とする術式、イージスの盾があったからだという。
あらゆる魔法攻撃と物理攻撃を軽減する力であると、この戦いの前にフィッシャーらは聞いていた。
「イメルダ先生!」
「はい、学園長!」
はーーーー!!!!
二人が呼吸を合わせて、大気から魔法力を練り上げ、スパークしている巨大な火球を作り上げた。そして、それをそのまま巨大なエビルバハムートへと一気に打ち下ろした。
グギャ――――!!!
さすがにこの攻撃は、エビルバハムートであってもただではすまず、片翼の半分が大きく焼けただれて焼失した。
「やったぞ!」
「さすがゼクス学園長!」
全員が、このままの勢いで魔王を押し切ってしまうかもしれないと期待したときだった。
バハムートの焼失した翼の周囲に闇の力が集まり、すでに失われた翼が瞬く間に再生されたのだ。
「何!」
「馬鹿な!」
「やつは不死身なのか?」
だが、2発目の放電した巨大な球が、バハムートへと続けざまに落下した。
「何をしておる! 油断してはならぬ!魔王の再生力は暗黒の石にある。奴の体内にあるブラックストーンを破壊しなければ、奴を倒したことにはならんぞ!」
ゼクスが叫んだ。
「ですので、魔王の身体をとにかく削り取り、ブラックストーンを露出させて破壊するのが、わたくしたちの戦い!とにかく攻撃の手を休めてはなりません!」
再び勇者たちによる一斉の魔法攻撃がはじまった。
だが、バハムートも黙ってはいない。
一旦動きを止めたかと思うと、全身の黒い鱗が総毛だった。
次の瞬間、小型の炸裂弾が一気に発射されたように、その固い鱗が四方八方へと弾け飛んだ。
その鱗の弾丸は剣のように鋭利で平たい円盤のようで、月の山脈の硬い岩盤をも切り裂いた。
いかにイージスの盾で護られているとはいえ、ペガサスに騎乗している勇者たちの何人かは、そのスピードにかわしきれず、体を串刺しされて傷ついた。
「一旦退避! 傷ついたものはすぐに退避するのじゃ!」
ゼクスは傷ついた勇者とそのペガサスの一部隊を、ウルティマの神官たちがいる場所へと避難させた。
そこには、治癒魔法を使うことのできるヒーラーたちが救護班として待機しているのだ。回復はある程度すればできるが、現在はこれで戦力としては半減している。
だが、エビルバハムートの先ほどの鱗の攻撃は、かなりの魔法力を消費するようで、活動自体が小康状態になっていた。
ヒヒーン!!!
旧王都のメインストリート、そして神殿のような城の大階段の下へと、ユニコーンはたどり着いた。ロビンとシルキーが、そこで下馬したところに、フェルナンデスの魔導気球船が停泊していた。
「これはメディティの...」
そう言いかけたロビンの頭上に、シルキーが怪しい殺気を敏感に察知して叫んだ。
「ロビン危ない!」
シルキーが駆けてきて、そしてロビンの身体へと体当たりして突進し気球船の陰へと押しやった。二人は、気球船の下へとそのまま転がった。
すると、上空から無数の巨大な刃のような弾丸が、周囲に雨あられのように降り注ぎ、魔導気球船や地面、城の大階段や城壁へと突き刺さって止まった。あたりは、大小さまざまな石つぶてが舞い上がり、そしてばらばらと瓦礫となって降り注いだ。
「こ、これは...」
「わたしの...わたしの気球船が...」
同じように気球船の陰に隠れていたのは、フェルナンデスだった。ガタガタと震えている。
「フェルナンデスさん...」
「う、うわあ!よ、寄るな!わ、わたしはいかんぞ!あんな...魔王の...魔王のいる山の上なんぞには!絶対に!」
シルキーとロビンは顔を見合わせ、フェルナンデスの肩に触れようとした。
だが、フェルナンデスは、その手を振り払い一人駆け出してつまづいた。転んだ先には、運悪く先に降り注いだ鱗の刃が突出していて、その上に倒れこんでしまった。
「う、うぎゃーーーー」
鱗は、フェルナンデスの腹部に突き刺さっている。
ロビンとシルキーがすぐに駆けよった。
すると、物陰から黒い影が飛び出して、先にフェルナンデスの元へと走り寄った。
黒ドワーフ族のミナ・ルーンだった。彼女は治癒魔法を詠唱し、フェルナンデスの治癒を始めた。だが、なかなか出血は止まらない。
「ミナ...」
「ルーン...」
「あんたたち、馬鹿じゃないの?あんな場所に行くというの?」
ミナは、治癒魔法を使いながらも振り返らず、ロビンとシルキーに言った。
「相手は、こんなことをする化け物なのよ!勝てるわけない!それよりも、あんたたちはあのまま死んでしまっていたほうが良かった...そう思えたぐらい、きっと後悔するのよ!だから...だから行かないで!せっかく助かった命を大事にして!今逃げたって誰も恥ずかしくない!わたしも...この人も...あんたたちも!」
ミナは泣きながらね必死でフェルナンデスの治癒を施した。
彼女なりの苦しみ、葛藤があったのだと二人は察した。
ロビンとシルキーは、それぞれミナの肩に優しく手を置いて、
「大丈夫...ミナはそのまま手当てしてあげて。それがあなたにしかできない戦い。」
「僕たちは魔王を倒す!それが、僕たち...勇者の戦いだ!」
と二人の治癒魔法をミナへと伝導させた。
フェルナンデスの出血と傷は小さくなっていった。
ありがとう...
その時だった。
彼らの頭上に大きな影が横切った。
「魔王か!?」
ロビンが三人を護るようにオリハルコンの剣を構えて、影の本体をへと視線を見やった。
するとロビンたちの頭上から、青白い体の大きな翼のあるドラゴンが、彼らの目の前へと飛来して静かに舞い降りた。
そして、その大きな首を下すと、全身黒い甲冑に覆われた一人の騎士が彼らの前に降り立った。
「あなたはあのときの!」
シルキーが叫んだ。
「ようやく会えたな。君たちを待っていた。わたしも魔王討伐に参加しよう。」




