1-5 過酷な組み式
【5】過酷な組み式
組み式は、次々に行われ、選択や解散の質問を始め、チームワークを試す難題が、形を変えて繰り返された。
生徒たちは都度考えるが、どのパーティーも大抵は、チームの誰かを切り捨てる方を選択した。
「なんで俺なんだよ!」
「たりっ前だろ!」
「そ、そうよそうよ。あなたがいつも先に裏切るじゃない!あなたが居なくなれば最高のパーティーよ。」
「んだとコラァ!もういっぺん言ってみろよ、このアマ!」
という具合だ。
口論から、殴り合いの結果ならまだ良い方だが、ひどい場合は、魔法やエキスパートスキルを発動し戦闘を開始しようとする者たちが現れた。ただその場合には、各担任が彼等を上回る能力で、暴発者を直ちに取り押さえ、事なきを得ている。
特に、対魔法への対処は、エリザベートの得意分野であり、迅速に対応された。
「(聞き取れないほどのか細い声)も、もうこの学園ごと自爆してやる。大破壊呪・・・」
「おう、そんなら全員と相手してやらあ!俺のエキスパ魔法剣のスパークタイフーン斬りで、今から全校生徒ミンチにして俺の実力を見せてやるぜ!」
ヤケになった生徒たちがいても、
「ダークアロー」
と、次々に漆黒の矢を射て暴発しそうな生徒を石化した。
石化の呪文は、早くて3年、長いと30年以上も術が解けることがない。また、術の影響した時間が長ければ長いほど、良くて一時の記憶障害から、果てはエキスパートジョブや魔力自体を失う場合もあるため、禁忌魔法の一つだった。国王から与えられる数少ないランセンス保持者、通称ホルダーのみその技の習得と使用を許されている。教頭はそのホルダーであった。
「何も石化しなくても!」
たまらずリブが席から飛び出し、既に全身硬直しきって冷たい石になってしまった生徒に駆け寄り、抱きしめた。
「魔法解除!魔法解除!」
麻痺や魔法封印などのステータス異常を回復させることのできるエキスパート、大白魔導師のリブは、必死に呪文を繰り返した。だが、SS(ダブルS)クラスの勇者が放った呪文を、Sクラスのものが解呪することなど到底できなかった。
「教頭先生、解除してください!」
「できません。」
「お願い致します。生徒があまりにかわいそうです!」
「できないのです。」
「エリザベート教頭先生、私からもお願い致します!」
「フィッシャー先生ありがとうございます!」
「わ、わたしも!」
「ウィル先生!」
3人の担任は後の処罰を覚悟して申し出た。後の担任たちは黙っている。
「リブ先生、そして、フィッシャー先生、ウィル先生。できないのです。」
「何故ですか?」
「石化は一度呪文をかけたら、術をかけた本人の私でさえどうなるかわからない呪文なのです。だから禁呪なのです。」
(自分でわかってて!?ひどい!)3人が共通して心の中で思った。
「では教頭先生。石になった生徒たちはどうしたら元に・・・」
「あなた方3人の先生方は、今年から学園に新任されたばかりでしたね?どこから来たのですか?」
「わたしは、白魔導師の協会からこの勇者学園の要請で転属してきました。」
リブがすぐに答えた。
「わ、わたしは、王立魔法大学からの転職です。ゼクス学園長に、何とか採用していただきました。(教頭はわたしを落とそうとしたと聞いてますけどね!)」
ウィルが自信無げに答えた。
「俺・・・い、いえ自分は、ギルドの斡旋応募から志願しました。パイシーズは実際のダンジョンやモンスターのいるジャングルでの野外演習がありますので。経験ある冒険者でないと・・・と言われて。」
フィッシャーがギクシャクしながら答えた。歴戦の冒険者である彼であっても教頭は緊張するのだ。
「ここの卒業生では?」
「いえ自分は、一介の冒険者です、独学で。ギルドでSクラスのエキスパートになりましたので。それで。」
教頭は、ふんと鼻で笑ったように見えた。
「では、後で保管室をお見せします。ジェミニクラスのゲミ先生、先生方を後で案内して差し上げて。」
「はっ!教頭先生閣下、承知しました。」
ジェミニのゲミが、すぐに返事した。そして、教頭にオーバーリアクションで、うやうやしく頭を下げながら薄ら笑いを浮かべた。
3人は、このゲミに良い印象を持っていない。初等部のジェミニクラスを担任するゲミは、実際にも軍隊上がりであり、軍隊のような教育方針で生徒をしごき上げるので有名だからだ。12ある各国の王立勇者学園であってもそれが有名であり、各国の軍事の大臣が、わざわざ見学にやってくる程だ。
だが、行き過ぎた面があり、事故が頻繁で、精神的な苦痛もともない、それが元で、全クラスの中で退学者を必ず多く出すクラスでもある。通称ふるい落としのクラスとも言われている。
冒険は楽しいものだというポリシーのフィッシャーや、正義感の強いリブは、それがために快く思っていない。特にリブは、最初の印象からゲミを嫌悪していた。目つきがとても常人のものではなく、発するオーラが半端ではなく、闇に近いものだからだ。
「では、これで終わりですね。」
教頭がそう宣言すると、はーーーと全校生徒と教師たちから、一斉にため息が漏れた。
ここまでに不眠で丸3日間、途中随時で(教頭の気まぐれで)2時間ほどの休憩はあっても、ほぼ通しで、パーティー組み式が行われていたからだ。誰もが困憊している。
合格したパーティーは、大小グループ様々で7組。オードリーを始め、パーティーを組めなかった脱落者5名(うち2名が石化)が決定している。
「教頭先生お待ちください!」
声が上がり、一斉に大講堂全員が振り向いた。寝ぼけていた数名の生徒たちも、驚いて覚醒した。
「シープス先生、いきなり何ですの?」
「はい、まだパイシーズの生徒がおりますが。ね、フィッシャー先生?」
「えっ?あ、あーーー!まだおります!よろしくお願いします。」
エリザベートが、すでに横線や✖️印などでまっ赤に塗られたパイシーズのリストの羊皮紙を見ると、1名の生徒だけが残っていた。
「おい、ロビン。ロビン・クルソンはいるか?」
フィッシャーが、眉間にしわを寄せるエリザベートを無視して、ロビンを呼んだ。
全校の下級生徒たちの座席とは別に、パイシーズたちの待機場が設けられている。
この待機場はパーテーションで大きく区画されていて、さらに内部では大小合わせて15程のブースに分けられていた。
この小さな区画の中で、パイシーズの生徒たち、その中で特にリーダー候補たちが、しのぎを削り、互いの出方を伺いながら、パーティーメンバーの争奪戦を繰り広げていたのだ。
すでに心理戦、権謀術数を重ねて、将来的な利益分配や組織作りにまで言及しつくされている場であった。
ロビンは、シープスにせっかく魔力転移をして貰ったが、その全てをすぐに回復に使い切り、緑色の髪をした少女の快方をした。ロビンは、途中強引にリーダー候補から腕を引きずられて別のブースに連れて行かれて脅されたり、泣き落としされて呼ばれるなどで、一時的に、少女のいるブースを離れざるを得なかったが、パーティー作りのほとんどの勧誘には加わらず、1つのブースで世話を続けた。
彼自身、退学になることに残念な気持ちではあったものの、吹っ切れて、すでに自己完結していた。それが今は亡き父母の教えだったからだ。
そして少女は先ほど覚醒し、名前をシルキーと教えてくれた。
「はい先生!」
ロビンが待機場から現れ、続いて回復したばかりのエルフの少女シルキーを伴って現れた。
次はシルキーの存在が明らかになります。