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2-46 ユニコーン 2人旅

【46】 ユニコーン 2人旅


「ここ…は?」

うっすらと木々の間からセインデリアの光が射し込み、近くに滝の音を感じながらシルキーは目覚めた。シルキーがぼんやりと目をさますと、ロビンが傍で、どこかから拾ってきただろう薪を順にくべて、膝を抱えて焚き火をしている姿があった。焚き火はパチパチと小気味良い音を立てている。身体の周りにはロビンのマントが掛けられている。そして焚き火の温かい風が、シルキーの方へと時折吹いてくる。

ロビンは、そんな、いつの間にか薄目を開けていたシルキーと視線が合った。


「気がついた?」

「わたし一体…あっ…ロビン…ロビンは大丈夫?どこも怪我してない?」

するとロビンが少し怒った顔をした。

「シルキー!少しは自分のこと心配してよ!全身傷だらけだったんだぞ!僕の治癒魔法で治らない傷だったらどうなっていたか。オリハルコンの力で魔法力がアップしていなければ、もしかしたら…もしかしたら死んでたかもしれなかったんだ!」

そんな心配そうなロビンの顔を見てシルキーは笑顔で言った。

「わたしは大丈夫…こう見えてもエルフは強いんだよ…そう…ロビンが大丈夫なら良かった。」

「君はバカだよ…僕なんかのために、船から命がけで飛び降りるだなんて…」

「違うよ…」

「えっ?」

「ロビンのためじゃなくて、わたしがわたしのしたいようにしただけだから。気にやむこと…ないよ…それにロビンが……」

「僕が?」

「ううん、なんでもない…よ。あっオルフェンブルー…生きてたんだね。本当に良かった。あなたにもう一度会えて…そう、あなたも嬉しいの…ロビンも、オルフェンブルーも…わたしも…わたしも嬉しいよ…」

シルキーはオルフェンブルーの頬を撫ぜながら涙を流した。


次の日、シルキーはすっかり元気になっていた。傷もロビンの治癒の魔法と、シルキー自身の精霊の魔法ですっかり良くなった。

2人はよく話し合い、これから向かう先を、目的の場所月の山脈の麓目指すことにした。運が良ければ魔獣の森に向かうと言っていたフェルナンデスの魔導気球船と合流して、クロエやクルスたちと再会できるとも考えた。そして、アルバートとウルティマツオーレの合同パーティーが組まれる集合の場所を知っているのは、唯一ここにいるユニコーンのオルフェンブルーだけだ。

するとオルフェンブルーは、2人の会話の内容を当然だとでも理解していたかのように、角のある自らの頭を下げて、2人に自分の背に乗るように…という仕草をした。

「いいの?オルフェンブルー?」

オルフェンブルーはシルキーのそれに応えるように、身体を震わせた。


2人は簡単に旅仕度を整えると、言われるがままユニコーン・オルフェンブルーの大きな背へと乗った。

景色が高い。2人が乗ってもまだ余裕がある広さだ。シルキーがたてがみを握り、ロビンがその後ろへと乗った。

「ロビン?そのままだと落ちるわよ。結構早いと思うから。わたしの身体に掴まって…」

「で、でも…いやそれは…ちょっと…」」

ロビンはシルキーの美しく流れる髪やしなやかな後ろ姿を見て躊躇した。

「何?わたしに触るのがそんなに嫌なの!」

「違う!むしろ…緊張するというか…嬉しいというか…いやなんというか…」

「もう!なんなの!はっきりしないわね!わかってる?急ぐ旅なのよ!ほら!」

シルキーはロビンの両手を強引に引き寄せて自分の身体へと回りこませた。


ー うわ!なんだこれ?や、柔らかい。それに甘いようないい香りがする…女の子ってみんなこうなのかな。なんか幸せだ。いやちょっと待てよ。シルキーはよく考えて…いやよく考えなくても、めちゃくちゃ美少女だ。それに今は2人きり…いままでは仲間としか見てなかったから。やばい!な、なんか意識してきたぞ…待て待てロビン!何考えてるんだ、それじゃあ勇者もパーティーリーダーとしても失格だ!今はそういう時じゃない、!落ち着け落ち着け…そうだ!シルキーを何か違うものに例えてイメージを変えてみよう!何がいいかな?そうだ、フワフワのパンだ!ああ、そう言えば何も食べてないからお腹減ったなあ。パン食べたいなあ。フワフワのモチモチの焼きたてパン…ー

ロビンの思考は一瞬にして駆け巡った。


「ちょっと…ロビンちょっと聞いてるの!」

「あ、ああ柔らかいね。もうフワフワでモチモチたまらないなあ…食べたいなあ…」

「え?」

「はっ!」

ロビンにシルキーの冷たい視線が刺さる。シルキーは自分の両手で自分の両腕を掴みロビンから離れた。

「ち、ちちちちちち、違うよこれは!シルキーはパンで、パンがシルキーで、シルキーは甘くて柔らかくて!食べたいというのはパンのシルキーの方で。決してシルキーの方ではなくて…でも、シルキーはパンじゃないから、ほらこんな…」

ロビンは、シルキーをパンに例えてしまったことへの失礼な想像を訂正するつもりで、シルキーの身体がパンではないと説明するため、さらに焦って肩から流れるようにシルキーの身体をあちこち触った。

「ロービーン!」

「えっ?」

「エッチーーーーー!」


「もう!じゃ行くから!」

「は、はい…すみません…」

ロビンの頬が赤く手形状に腫れている。その頬を押さえながらがっくりと項垂れている。シルキーにはなんだか、それが可愛いらしく見えてクスリと笑った。

「変なこと考えてないで、振り落とされないようにしっかり掴まっててね!」

「わ、わかりました…」

「じゃあ行くわよ!オルフェンブルー!」


ヒヒヒーン!


シルキーが促すとオルフェンブルーは、風のように走り出した。

黒い艶やかで滑らかな馬体が木洩れ陽で煌めく。オルフェンブルーは、本当に目的の場所を知っているようで、シルキーが指示をしなくとも、自らの足で行く先を決めて進んでいるようだった。

だが、そのスピードは、長く走れば走るほど増していった。ロビンが振り落とされそうになっている。

「わわわわ…お、落ちる。」

「しっかり掴まってて!身体強化のスキル魔法を使ってはダメよ!いざという時に使えなかったらダメなんだから!」

「わ、わかった!」

そういうとロビンは、しっかりとシルキーの腰に手を回した。


「…じゃないよ…」

「えっ?」

「…ロビンだったら、わたしは、やじゃないよ…」

「えっ何?風の音で聞こえない。今なんて言ったの?」

「ううん…なんでも…なーんでもないよ!オルフェンブルー、もっともっと走ろう!まだまだ速くなるよ!それっ!」

「え、エエーーーーー!」


アハハハハ…


疾走するユニコーンの背に、眩しい笑顔のシルキーとおっかなびっくりで乗っているそれでも笑顔のロビン…その2人だけの初めての旅だった。




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