1-4 パーティーの組み式
【4】パーティーの組み式
「このパーティーは・・・聖騎士のエキスパートジョブをもつ戦士に、盗賊と鍛冶のエキスパートジョブをもつ武闘家、僧侶、魔法使い、・・・ダークダンサーのエキスパートジョブか。」
「個々のレベルも高い。学園で最高評価できるAクラス相当のパーティーとして申し分ない。このパーティーで認め・・・」
「コホン・・・」
「ウィル先生・・・」
「はい?ではこのパーティーで・・・」
「だからウィル先生!」
「なんですかリブ先生?止めないで下さい。」
「違いますよ、教頭のお顔を見てください(と小声で囁いた)」
「えっ?ひっ!?」
ウィルは、リーブラクラスの担任リブの隣に座っている教頭の顔を、リブの頭越しにそっと見て、慌てふためいた。
「(小声)またですか?何がダメなんでしょう?」
「(小声)わかりませんよそんなこと。」
「(小声)だって、バランス良いですし、一人一人の熟練度も高い。何より聖騎士と賢者ですよ?パイシーズ(最高学年)というより、全学年通しても何人といない逸材が揃っているんですよ?ギルドでしか行えないので仕方ありませんが、学園が決裁できるのなら、ヘタをすればSクラスの評価をしても良いのに・・・」
「コホンコホン。」
エリザベート教頭の咳払いは1つの場合は警告を示し、2つの場合は再警告を表すサイン、であることを、教師でなくとも学園の誰もが知っていた。咳払いであるものの、嫌味を含んだ発音が特徴的である。3つ目の咳払いはおよそ誰も聞いたことがないが、それを聞いたが最後、世にも恐ろしいことが必ず起こる、という学校の都市伝説がある。生徒はおろか、教師の間でも実しやかに噂されて久しかった。
ウィルは観念した。
「えっ!は、はい。ではもう一度パーティーの組み直しをお願いします。」
その言葉に、対象の生徒たちは項垂れた。それもそのはず、パイシーズの仮パーティーの演習においては、2度もトップ3に入る好成績パーティーだったからだ。堪らず、ダークダンサーのオードリーが質問した。
「先生方!」
「ん?何ですかオードリーさん。」
長身で赤のロングヘア、おっとりした雰囲気の漂うウィルが柔らかく反応した。
「わたしたちの何が問題なんですか!教えてください!」
対してオードリーは、勝気な目をしたブロンドで、まだ16歳であるのにも関わらず妖しいまでのルックス、男性教師でも思わずドギマギしてしまうほどの美少女だ。
「問題は・・・うーん。と、とにかくもう一度組み直しです。」
「だから、それは何が!どこが悪いのか!というお話です!教えていただけないと私たちにはわかりませんし、それよりも全然納得できません!」
オードリーが、教師たちの座っている席まで詰め寄った。彼女の衣装は、露出が多い。男性教師であれば、思わず鼻の下をのばしてしまう。
ウィルの隣に座っている3人の男性教師たちも例外ではなかった。横から若く可愛らしい顔立ちのリブが、少しそれにムッとしながら、肘でウィルを押した。
「痛っ。と、とにかく駄目なものは駄目なのです。一度出た評価は変わりません。後のパーティーもずっと待っていますから、もう諦めて・・・」
「だから!それは何故?と聞いてるでしょ?訳がわからないわ!さっきのパーティーも、私から見れば、問題なかったわ。何を評価してるんですか!基準なんてないじゃない!」
「い、いえ基準はありますよ。ただし・・・教えられませんが。」
ちらっと横目で教頭を見た。教頭はサングラスをかけていて表情が分かりにくいが、涼しい態度である。それがかえって不気味に感じられた。
「ないわ!あるのは教頭の気まぐれでしょ!そんなんじゃやってられないわ!」
「コホン・・・それでは良いでしょう。あなたたちのパーティーを通す方法が無いわけでもありません。」
教頭の咳払いに、教師たちの背筋が一斉に伸びた。
「エ、エリザベート教頭?宜しいのでしょうか?」とウィル。
「構いません。ただし、それができれば、の条件です。確かあなた。オードリーと言ったわね?」
「はいエリザベート教頭!オードリー・クリスタです!名前を覚えていて頂いて光栄ですわ。」
ウィルとリブは、椅子から立ち上がってオードリーを必死に黙らせようとするが、オードリーは全く聞く気がなく、事もあろうに腕組みして挑戦的な態度をとった。
「わたしは、学園の全ての生徒の顔と名前、情報は一度見聞きしたら絶対に忘れません。」
「へえ、そんなんだ。まあ、すごいけど。だからって何なの。とにかく条件を教えてくださいな、教頭先生。」
「何、特に難しいことではありませんよ。シンプルな話です。選ぶだけです。」
「選ぶ?何を選ぶのですか?」
オードリーがそういうと、エリザベートは、手に持っていた扇を畳み、まっすぐにオードリーの顔に向けて突きつけた。
「あなたのいるパーティーにするなら解散、あなたがいなくするならば認めます。」
大講堂が一瞬静まり返った。全学年の視線がオードリーに向けられた。オードリーはそのプレッシャーで自然に一歩後ずさった。
「ば、バカなこと言わないで!わたしのいないパーティーだなんて。あり得ない。嫌がらせにも程があるわ!」
「そう・・・では、あなたはあくまで自発的にパーティーから外れないと?あなた自身がそんなにパーティーを大事に思っていたら、パーティーを抜けるべきでは?」
「私が?何で私がパーティーから?冗談じゃないわ!それに私がいなくなったら、うちのパーティーは成立しないわ!今までも、ダンジョン訓練でたくさんの場面で活躍したのは私!仲間もサポートしてきたもの!」
「では・・・振り返って、他のメンバーに聞いてご覧なさい。」
「えっ?」
オードリー・クリスタは、それに促されて、恐る恐る振り返った。
「!」
他のメンバーは一つにかたまり、いつの間にかオードリーと距離を取っていた。
「う、嘘でしょ?みんなどうして?えっえっ?ちょっと待ってよ、何の冗談?わたしが抜けたら困るでしょ?」
誰も答えない。
「だって大サソリの注意を私に向けさせて、不意をついてみんなが攻撃してやっつけたし・・・ワーウルフの集団を私のダンスで幻惑して同士討ちさせたり!そ、そりゃ、わたし自身は攻撃力は無いけれど、戦略的には役に立ってたでしょ?」
「答えは出たようですね。宜しい。それでは、オードリー以外のパーティーメンバーとして、あらためて私の権限でこのパーティーをAクラスとして認めます。いま評価したクラスは、アルバート国のギルドで実際に受ける審査評価と同じで、新規に登録する際には同等の評価を受けられます。そして聖騎士のディーン・シャイ二ー。」
「はっ!」
「あなたをパーティーのリーダーと致します。」
「ありがとうございます!」
「あえていう必要もありませんが、リーダーには、国内に散らばるギルド直営施設の使用、ダンジョンの入場、他国や魔界への自由な行動を許可する許可証、それを証明する輝石ライタルストーンを与えます。知っての通り、ライタルストーンはモンスターを倒したことにより、その色が変化していく性質があります。その輝きによって、国が運営するギルドから受け取ることができる毎月の報酬が多くなり、そして、得られる情報や権限も強くなります。また、パーティーメンバーの脱退、新たなメンバー登録の権限もリーダーだけが持っています。良いですね。」
「はっ!光栄です!」
「では、ダンジョンの最終フロアに進み、ラストモンスターを討伐できた結果、晴れて、この学園の卒業生と認めます。最終装備を整えお行きなさい。」
「承知しました!」
ディーンは、項垂れて呆然としているオードリーを横目に通り過ぎ、パイシーズ担任のフィッシャーから、許可証とライタルストーンをうやうやしく受け取った。そしてパーティーメンバーの元に戻る、その際に、オードリーに耳打ちした。
オードリーは泣き崩れてしまった。
「見苦しい。大魔王を討伐する重責を、国家から担う勇者たらんとする高い志があるとは、とても思えませんね。何をしているのですか。組み式を続けますよ。組み式の邪魔です。リブ先生、連れて行きなさい。」
「は、はい!申し訳ありません。」
リブは、すぐさま椅子から立ち上がり、大泣きしているオードリーに駆け寄り、なだめながら、その場を立ち去った。
パイシーズより1学年下のアクアリウスクラスの男子学生がひそひそと話している。
「これで何組目の合格だ?」
「まだ3組だよ。パイシーズ全員で48名だから・・・まだまだだよ。」
「うへっ!一体いつ終わるのやら・・・」
「去年は、終わるのに4日かかったじゃないか。その前は3日だったし…。」
「まったく毎年毎年、これじゃ死んじゃうよ。」
「ところでさ…パーティーを誰とも組めない生徒はどうなるんだ?」
「知らないのか?」
生徒が首をふると。もう1人が低い声で言った。
「退学だよ。」
次話からロビンとシルキー、二人の主人公が登場します。