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2-32 最弱の勇者

【32】最弱の勇者


「うーん…」

「どうかいたしましたか騎士様?何か困ったことでも?」

騎士の後ろを歩く、3人の先頭にいるクロエが屈託無く尋ねた。

「私の名はアリスタ・イスタ。アルバート王国騎士団の副団長をしている者だ。本来の職務からすれば無論逸脱した行為なのだが、あえて言わせてもらう。このまま登録をやめる気はないか?」

「なぜ?」

シルキーが少し強めに返した。


イスタ副団長が言わんとすることを察したためだろう。シルキーからすれば、実力を疑われたと理解しても仕方がない。だが逆にイスタからすれば、これは予想外の態度で、親切心を傷つけられたと思ったからか、先ほどの保護者的な態度ではなくなった。

「少々言いすぎるように聞こえるかもしれないが、お前たちはまだ若い。どれほどの戦闘経験があるのかは知らんが、悪いことは言わん。ここは逃げた方がいい。命を大事にしろ。」

「ご親切にありがとうございます…でもわたしたちは登録します。」

「なぜ?危険だ。もう一度いう。悪いことは言わん、やめるんだ!」

聞き入れが悪いと思ったのだろう、また外見からすれば年端もいかない少年少女なのだ。イオスは今度は高圧的な態度で指示に変わった。

「いえお申し出はありがたいのですが、わたしたちはこれでもアルバートの王国の民です。王都が危機に瀕しているのに放ってはおけません。」

「そーか…わかった。すまんすまん説明が足りなかったな。支援物資の中には金もある。魔獣を討伐したときとは、無論違って大分桁が少なくなるがな。それでも当面困らないよう暮らしの支えになるぐらいの額面は入っている、これは褒賞でもないのに破格のものだろう。この特別な計らいは、アルバート国王陛下が、今回の戒厳令があまりに唐突だったため、城門に参集していた民たちのことを、ことのほか憐れまれてな。執政官様がご進言あそばされて、陛下が直々に決裁されて金子も下賜されることになったのだ。陛下におかれても、執政官様におかれても、民草へのご温情、まったくありがたいことよ。民草であれば、それに素直にかしづいて感謝して受け取らねばバチが当たるというものだ。お前たちも、そう思うだろう?」


(それにしては、国王陛下から予定されている魔王討伐に報いる褒賞金は、僕・わたしは、まだいただいていないんだけれど…それ言ったらこの人はきっと怒るだろうなあ)

ロビン、シルキーは心の中で密かに、同時にツッコミを入れた。もちろん心に思うだけで、騎士団の騎士の前で不敬な発言はしない良識ぐらいは、一応2人ともわきまえていた。


「あのお、それはどういう?」

「お前がリーダーだな、名は?まだ聞いていなかった。」

「ロビン・クルソンです。」

「年はいくつになる。」

「16です。」

「レディに年を聞くのは失礼だが、そちらのお嬢さんたちは?」

「わたしはシルキー…16歳(小声で)石の時も入れると260?270?くらい…同級生はもう白ひげオジーサンで…」

「(シルキーにかぶせるように)僕はクロエ。17、ロビ君より一個上かな。ねーロビ君。」

クロエに対して、一々ロビンの名前を気安く呼ぶなと、イラつきの態度をシルキーが見せた。


「金子や戦闘の経験値によるパーティーのクラスアップはもちろんのこと、それに王の御前の戦いだ。またとない機会。功をあげたい気持ちは痛いほどわかる。だが焦ることはない。若さは可能性。これからお前たちには、たくさんのチャンスが広がっている。」

「うーん…なんのお話で?」

「だから止めておけと。確実に命を落とすことになるぞ。」


はあーーーーー


「な、なんだそのため息は…」

「申し遅れました、僕たちは王立勇者学園の卒業生なんです。だから、いずれにしましても勇者として国を守る義務があるので戦いには参加します。ご心配なく。」

「勇者…そうか。それならば…致し方ない。それが国の法だ。もう私に言えることは何もない。」

明らかにイスタの態度が悪くなった。言葉にもトゲがあった。まだ幼さも残る少年たちに、王国の騎士団のトップがため息をつかれて、逆に諭すように言われたからだ。騎士の沽券と矜恃を傷つけられたと感じているに違いなかった。

そのため自分の態度が悪かったと反省し、ロビンが謝ろうとしたその時だった。


「そうか…だが評価は?パーティーランクは授けてもらっているのだろう。」

少し間をあけて、ロビンが言いづらそうに答えた。

「ちょっと事情があって、クラスもランクもリセットされていまして…僕はEクラスで、パーティーランクも今はEランクです。」

「リセット?余程の事情ではないとランクはリセットされることはないが…それにクラスもランクも、ほぉEなのか。それで卒業できたというのか?不思議なこともあるものよ。してエキスパートジョブは?戦士か何かなのか?」

「…いいえ。僕はビギナーズです…ですがシルキーは…」

ロビンが言いかけて、シルキーが首を振って、それを制止した。


「いいんだいいんだ、全部聴きたいわけじゃない。へえー最近の勇者学園はビギナーズでも卒業できるのだな。知らなかった、随分優しい学校になったものだなあ。それじゃあ、卒業生の証、ライタルストーンももちろんあると思うが、ちょっと見せてはくれまいか?念のためだ。」


イスタ副団長は言いながら少し含み笑いをした。何かを期待しているようだ。

ロビンは怪訝に思いながらも、素直にライタルストーンを見せた。

ロビンのライタルストーンは、当然に無色透明。そこに何の実績が示されていないことは、素人目にもはっきりわかる。

「おーそうか。わたしの見間違いでなければいいのだが…確かにモンスターと戦った実績はあるのだな?」


「あるよぉー。」

「ク、クロエ!失礼だろ、そんなものの言い方!」

「べっつにー。だってそのオジさん、めっちゃやな感じなんだもん。」

ロビンが、はっとしてイスタの顔を見た。イスタは片手で口を塞ぎ必死に笑いを堪えているようだった。

「す、すまんな。それで何と戦ったのだ?フフフフ、ハハ…いやあすまんな…ヒヒヒ…いやなんでもない。ちょっと箸が転げても笑えてしまう年頃かな…悪い悪い。そーか、スライムかな?いや、良くてワーム系のやつかな。いやあ強かったろう、わたしにも倒せるかどうかだ。」

「いい加減にしてオジさん…その態度は失礼だろ?」

「クロエやめろ、王国騎士団の副団長さんなんだぞ!」

「いいんだロビン君。実際そのクロエ君からしたら、わたしなどただのオジさんなんだから。エリートのプライドが許さんのだろう。わたしはもちろんエリートの勇者学園になど入れなかった。その替わりに血反吐を吐くように上り詰めた現場のたたき上げだ。昔とんでもない優秀な人がいて、Sクラスになった先輩もいたにはいたが…まああの先輩は元々がおかしかったからな。話しはそれたが、わたしは勇者のエリートさんとは格が違う。でっ何かなクロエ君。」

「あなたは何クラスなの?」

「わたしか?そうだなあ、とてもロビン君にはかなわないよ。なにせ勇者学園をEランクパーティーで卒業し、その上そのリーダーがEクラス、エキスパートではなくビギナーズのまま、無色のライタルストーンで、これでも我が国きってのエリート学園の卒業生で、自信満々に勇者だと言ってくれるのだからな。まったく税金の無駄使いとでもいえばいいのか…そうさな二つ名をつけるなら…最弱…勇者なのに最弱…おおそうだ最弱の勇者でいいじゃないか!我ながらいいネーミングだ。そう思わんかね、最弱の勇者のロビン君。ハハハハハハハ。」

ロビンはうつむいた。

だがその時、シルキーの眼が完全に怒りの目に変わっていたのに気づき、ロビンはシルキーの顔がちょうどイスタ副団長からは見えなくなるような位置にさりげに移動した。

シルキーの気持ちが嬉しかった。


「ああ、言い忘れたが、わたしはちょうど今年昇格したところだ。たしか…そう、そうだな、たしかAクラスだった。ロビン君のEクラスとどっちが上なのかな。エリートさんのEクラスと、わたしの現場のAクラスは違うのだろうから。」


「オジさん。」

「何かな…おジョーちゃん。」

「さっき聞いたよね?ロビ君がどんなモンスターを倒したか?」

「ああ聞いたよ。でもスライムだって…いや別の何か…だったかな。違うのか?まあ違ってても大差ないだろうから。」

「大分違うから言っておきたいのだけど…倒したのは。」

「おお、倒したのは?」



「魔王よ。」











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