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2-31 魔月の雫

【31】魔月の雫


王都の城門の前には、大勢の人だかりで山となっていた。数百人の人々がそれぞれグループにはなっているものの、それより先には進んでいない様子だ。

「何かあったんだろうか?」

「わからないわ、とにかく行ってみましょう。」

ロビンがシルキーに促され、クロエと3人で、人だかりの間を縫いながら、人混みの先頭へと進んでいった。


「おい頼むよ。中に入れくれ!」

「だめだだめだ、王命でここは通せない!」


「そんな困るよ!今日中にこの荷を届けなきゃならんのだ。そうしないと、店がつぶれちまうよ!」


「わたしもだ頼む!今夜、いや明日の朝までには、どうしても会わなければならない人がいるのだ。」


「お願いします、うちの子が病気で...早くお医者様にみせないと...お願いしますお願いします!」


「そうだ!もし通してくれたら衛兵さん、うちはあんたに1000ゴールド払おう。どうだ?悪い話ではないだろう?」


「なんだ金を出せばいいのか?ならこっちは3000ゴールドだ...」


「待ってくれ、おれなら10000ゴールド出そう!10000だぞ、10000。3年は遊んで暮らせる金だぜ、どうだ?」


「待て待て!ならばわしは100万だ!100万ゴールドをだそう!」


おーーー

あれ見ろよ!馬車の荷台のシンボルを…

あれは豪商メディティ家の紋章だ

かーやることすごいねぇ

金持ちっていうくくりじゃないな、もはや次元が違う

メディティの馬車にでも忍び込むか


「えーーーーーーーい、黙れ!金を積もうが泣き落とそうが、一切だめだ!これは王命だ。貴様ら国王様に逆らうつもりか!」


「カイモーン、カイモーン!」

人々が衛兵とそんなやり取りをしていると、開門の合図があって、しばらくすると大きな城門が開いた。アルバート王国随一の大都市アルベントンの城門は、高さ30メートル、幅20メートルはある鋼鉄製の跳ね橋になっている。城塞都市をグルリと取り囲む城壁の堀を一息に渡れてしまう程の大きさだ。


「皆の者、静まれ!勅命である!」

そう告げられると人々は静かになり、そして臣下の礼をとった。

すると伝令の騎馬がうやうやしく巻紙を取り出し、それを両手で伸ばし、さらにその内容に威厳を持たせて読み上げた。

「今宵、数百年に一度といわれる魔月の雫が起こり、我が王国最北端、ウルティマツオーレ国との国境にあたる月の山脈、それを源流とする大河ビクトールが氾濫すると王国預言者フラッグ・フォン・スタイン様が予見した。この氾濫による国土、農作物、各都市への影響はほぼ軽微である。しかし、王都の北にあたる魔獣の森への影響は甚大である。古の例によれば、魔月の雫が起こる時、必ず魔獣の大群が押し寄せるという。よって本日正午をもって王都アルベントンは戒厳令を既に施行し実質封鎖した。現状で城門付近にいる衆人は、それぞれの責によって直ちにこの地から遠方へと避難せよ。なお避難に対する支援物資は速やかに配給するものとする。アルバート王国執政官ベル・フォン・ルージュ。」


この布告が成されるやいなや、群衆はパニックとなった。泣いて王都への入場を訴える者、即座に支援物資をもらい逃げ出す者、また支援物資を要領よく集め商魂たくましく商売にしてしまう者などさまざまであった。


既にこのことも予見されていたのか、王国騎士団鳳凰デルタの騎士隊が城門の警護と治安維持を始めた。またギルドからのおそらく斡旋なのだろう。冒険者のパーティー、数百のグループが別の魔獣対抗策として既に招聘されていて、城門の外で野営の準備を始めていた。


「僕たちなんか大変な時に重なってしまったね。街のギルドにもいけないんじゃパーティー入りの儀式もできないなあ。あーあ残念。」

クロエが両手を頭の後手にして、つまらなそうに呟いた。

「そうね。まあ楽しみは取っておいたら?」

「わかった、そうするよシルキー。」

「ちょちょっとまって2人とも!これからどうするか決めなきゃいけないのに、そんな悠長に会話してる場合じゃないじゃないか!」

2人があまりに余裕を醸し出しているため、ロビンは諭すように言った。


「だって私たちは…」

シルキーが何を当たり前なことをと言わんばかりに、何かを言いかけた時だった。

「そこのお前たち!」

鳳凰デルタの騎士であった。白と赤をモチーフにした立派な鎧を身につけている。特に、兜の飾りに大きな鳥の羽が付いていて、明らかに上級士官のようだった。

「えっ?あ、はい!」

ロビンは勇者学園以外で、職位を持つ者と話したことがなかったため、緊張して慌てて声が裏返ってしまった。


「お前たちは避難するのか、それとも見るから…通りすがりの冒険者パーティーのように見えるが…若いな。わたしはいま、この場所を組織管理をするため、ここにいる者の身分を個々に確認している最中だ。お前たちがもし魔獣の大群に対する防衛活動に参加するのなら向こうで登録する…が、避難するのなら支援物資を配給している場所に案内するから直ちに移動するんだ。どちらか言えば、避難を勧めるが。どうする?」

厳しくも優しい口調だ。ロビンたちがまだ若いため、避難した方が良いと判断してくれたのだろう。

ロビンには、とてもいい大人に見えて親しみを覚えた。


「えっと僕たちは…その…まだ決めてな…」

「はい、わかりました!」

ロビンの言葉を即座にシルキーが遮った。

そしてクロエが満面の笑顔で続いた。

「はい!僕たちは冒険者パーティーです!それも魔獣退治、めっちゃ得意でーす!ねーロビ君!」


はあーーーーーやっぱりそうか…そうですよね…












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