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1-3 シルキーとの出会い

【3】シルキーとの出会い


「大丈夫ですか!?」

勇者学園への通学路の途中、過去の勇者たちを祀る慰霊碑にロビン・クルソンは立ち寄った。

慰霊碑は、通学路より外れた森の奥にあり、管理人以外は滅多に人が訪れることのない場所である。

今日は卒業試験の日で、ロビンはみんなが無事合格し、自分も晴れて卒業できるようにと願掛けを行うため慰霊碑に立ち寄ったのだ。ロビンは大勇者剣聖アルクスラインを尊敬しており、大事なことがあるとき、嬉しいことや感謝したいときにも、慰霊碑に彫刻されている彼のレリーフに向かって、密かに礼拝することが日課であった。

だが、ドサッという音がしたかと思うと、物音のほうに少女が倒れていた。少女は長い緑色の髪をしており、透き通る白い肌、見惚れてしまうほどの美しさであった。耳長でエルフの一族のようにも見えた。見える素肌のあちこちに酷い擦り傷があった。どこか高いところから転落したような姿だった。


「大丈夫だ。怪我がひどくて意識もないけれど、息はしている。せめて応急処置はしないと。」

まずは、そう自分を落ち着かせ、少女を抱き起こすと、すぐに癒しの呪文を唱えた。彼の魔力は圧倒的に弱い。その自覚はあるため、何度も詠唱を繰り返した。並のヒーラーの1回分がロビンの約10回に相当した。ロビンは20回ほど詠唱した。


「頬に赤みが差してきた。呼吸も穏やかになってきた。傷も小さくなったし。良かった!は、早くウィル先生に見てもらわないと。」とぜいぜいと息を切らした。


そしてロビンが少女を抱き抱えようとすると、重くて立ち上がることすらもできない。意識のない人を抱えるのは、非常に難しい。

「身体強化!」

一度の詠唱ではやはり難しかった。一瞬ためらったが、彼は3度身体強化の呪文を詠唱した。すると嘘のように軽々と少女を抱き抱えることができた。だが圧倒的に体力は無くなった。もうほとんど魔力はない。

「疾風!」

最後の魔力で詠唱すると、風のような速さで学園を目指した。


5分ほどで、ロビンは学園の校舎に辿り着いた。すでに教師や他の生徒全員が大講堂に集まっている時間で、校庭や校舎には人の気配がなかった。かなり遅刻していることは、ロビンにもわかっていた。

「とにかくウィル先生を探さないと・・・やっぱり大講堂かな?」

ヴァーゴクラスの担任教師のウィル先生は、この学園の保健を担当し、学園随一のヒーラーであった。


「おい、そこで何をしている!」

「あっシープス先生すみません。この子が、怪我をしていまして、大急ぎでウィル先生を探しているんです。大講堂にいますでしょうか?」

ちょうどシープスが女子生徒2人を伴い大講堂へと帰ってきたところだった。ロビンが見ると、2人の女子生徒は、顔をぐしゃぐしゃにして泣きはらした後の表情だった。多分、罰を受けたのだとわかった。


「確かお前は、パイシーズクラスの・・・」

「はい、パイシーズのロビン・クルソンです!」

すぐにロビンが答える。

「馬鹿者!パイシーズは卒業試験だろう!すぐに所定の場所に行け!」

「わかっています先生。ですが、この子の治癒が先です!」

シープスが少女を見た。

「エルフ族だな。うちの生徒ではないな。うーん・・・仕方ないか。」

そう言うとシープスは、ヒールの呪文を詠唱した。みるみるうちに、少女の傷が消えていく。学園以外の者に魔法を使用することは本来学園長か教頭の許可が必要だった。


「先生もヒールが使えたんですね。それも上級の。ありがとうございますシープス先生、本当に助かりました!」

言うのと同時に、ロビンの身体強化の効果がちょうど切れて、少女を抱き抱えていられずロビンはドスンと片膝をついた。先ほどまで泣いていた2人の女子生徒たちがすぐに駆け寄り、ロビンと少女を支えた。


「おいおい大丈夫か?お前まさか身体強化の呪文で、ここまでその子を運んできたのか?」

黙って、ロビンは頷いた。

「もしかして、魔力がもう尽きたのか?お前のエキスパートジョブは何だ?戦士か武闘家?ではないな。魔法使いか?それとも・・・」

「僕は・・・まだエキスパートジョブではありません。」

「ビギナーズなのか?お前、魔力も体力ももうないのだろう。大事な試験だぞ、これから。考えなかったのか?ただでさえ加護がないビギナーズは、回復が遅い。もう試験どころじゃないだろう?どうするんだ?」

女子生徒2人は心配そうに、ロビンとシープスの2人の表情を交互に見比べた。だがロビンは、吹っ切れたさわやかな顔をしていた。

「シープス先生。僕が試験に落ちたらそれはこの子のせいじゃなくて、僕がエキスパートじゃなかったからです。それに試験には全力で取り組みます。」

「馬鹿者!そんな状態では、試験どころか、他の生徒からパーティーに選ばれないかもしれないし、まして、バイシーズのフィッシャー先生が許可しないぞ。教頭ならさらに・・・」

シープスはそう言うと肩をすくめた。女子生徒2人も同じように少し身震いした。


「それは・・・」

ロビンの表情は曇った。

「かーーー今日はついてないな。仕方ないついでだ。手を出せ。」

「えっ?」

「早くしろ!これはその子を助けた比じゃない。見つかったら減俸モンだ。」

ロビンはシープスに言われるままに手を出した。シープスは、ロビンの手を素早くとった。

「魔力転移。」

シープスが詠唱すると、シープスの手が紫色の光を発した。ロビンは、シープスの手を通して温かなものが流れこんでくるのを感じた。魔力転移は、高等中の高等魔法で賢者のエキスパートジョブがないとこの魔法が使えない。ロビンも、女子生徒2人も見るのは、生まれて初めてだった。


「どうだ?」

ぜえぜえ言いながら、シープスが聞いた。

「はい先生!完全じゃなくとも魔力は回復しました。体力のほうはバッチリです!」

「そ、そうか?まだ全快しなかったのか?結構送ったぞ!お前魔力あるじゃないか。何でこれで魔法使いか賢者のエキスパートになれないんだ?わたしの魔力の半分以上も削られたぞ。」

シープスはまだ息が整わない。


「と、とにかくお前はもう行け!パーティー組み式も始まる頃だ。」

「はい!ありがとうございました!身体強化!」

ロビンは少女を抱えながら、シープスにお礼を言いながら、立ち上がって、大講堂へと駆け出していった。


「お、おいおい!その子は置いて行け、ぶ、部外者なんだぞ!」

「先生!」

「なんだ!」

「ロビンさん行っちゃいました。」

女子生徒2人は声を揃えて言った。

「カーーーーついてない!あいつまさか、陰険教頭にいわんだろうなあ。言うかな、やっぱり・・・真面目そうだったからな。」

女子生徒たちは顔を見合わせ、そして、はち切れんばかりの笑顔で言った。

「言うと思います!」

女子生徒2人とシープスは笑った。

「まあいいか・・・お前たちはいわないでくれよ。始末書は確実なんだから。」

「はい!」

「頑張れよロビン。」















宜しければブクマなどの評価お願いできれば。。。

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