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第2章 25 盗賊団

勇者学園と王都アルベルトンを結ぶ街道が中心となる第二章スタート。この世界においての勇者の存在とは...

【25】盗賊団


アルバート王立勇者学園は、アルバート王国の西側に位置している。

そして王都アルベルトンは、王国の中央部にあり、王都、中央都市などと揶揄されることもあった。


2人はアルベルトンへと続く、ある程度整備された街道を通り、王都を目指す。

だが、この街道も、都市と都市の間に進めば進むほど、果てしなく広大なジャングルを通り抜けることになる。

およそ数百キロの距離を徒歩だけで走破することは、例え勇者であっても険しい道のりだ。

午後に出発したものの、まだそんなに距離を歩いてはいないはずなのに、あっという間に辺りはすっかり夕闇に包まれた。

このまま徒歩で行くには何日かかるか。そんなことをロビンはずっと考えて歩いていた。

だが、シルキーは周りが森林になればなるほど、心なしか元気になっていくようにロビンには見えた。


2人はいま最低限の荷物しか持っていない。ほとんど身につける物ばかりで、街中とほぼ変わらない格好である。

これもゼクスの指示だった。

自分たち自身の力で旅を完遂すること、王都に辿り着きフラッグ・フォン・スタインに会うこと、この2つが、ゼクスからの[宿題]であった。通常、いずれの選択も一般人ならしない。なぜなら…


「シルキー、そろそろ夜営の準備をしようか。今のうちに食糧や飲み水を集めておかないと暗くちゃ何も探せないから…」

「多分それは後だわ。」

「何?…」

「し…囲まれてる。」


「勘のいい嬢ちゃんだなぁ。」

街道の脇の茂みの暗がりから現れたのは、ガラの悪そうな大柄の男たちだった。


へへへへへ


「シルキー!」

ロビンは、シルキーの手を取り、反射的に元来た道を走って引き返そうとしたが、反対側には10人前後の男たちが、すでに立ち塞がっていた。

盗賊団であった。


「ひゅーーーーーお頭ーーーー!こりゃ上玉も上玉!しかも…こりゃスゲー、エルフですぜ!」

子分らしき男が手に持っていた松明で、シルキーの顔をかざして言った。確かに闇夜の灯に照らし出されたシルキーは、盗賊でなくとも、ロビンでさえもあらためて見惚れてしまうほどの美しさだった。そして、さらに松明の揺らめきが、シルキーの妖艶さを演出しており、思わずロビンも息を飲んだ。


「ほうどれどれ。うおっ、これはこれは…間違いなく高く売れる…いや、それどころか闇のオークションにかければ、どれだけ高値がつくことか。何年か遊んで暮らせるぜ!」


(たかが何年…そんなんじゃない。もっと高値がつくはず…いやいやいやいやプライスレス!違う違う…こんな時になに考えてんだよ僕は。シルキーを…でなくて、そもそも人を売ったり買ったりしちゃいけない!)


「それに引き換え…こいつは貧相な坊ちゃんだな。何でこんな坊ちゃんに、こんな上玉のエルフが…お頭!」

「何ださっきから!でけえ声出すな、一々!ちゃんと聞こえてるよ!テンション上がるのは無理ないが程々にしろ!」

「違うんですお頭!こいつら荷物も何にも持ってねーんですよ!この分じゃ金目のものなんてありゃしませんぜ!」

「なにー?なにも持ってねーだと。ふん、どこかの貴族様の荘園から逃げ出した農奴ってところか…それなら話はわかる。なんせ世間知らずそうだからな。おーい坊ちゃん、嬢ちゃん…あんたら学校で先生に教えてもらわなかったのか?」

「何を?」

律儀にロビンが答えた。

「街道にはな、盗賊が出るってお約束をだよ!」


ロビンとシルキーが顔を見合わせ、そして、ため息をついた。

「ロビン、悪いけれど教えてあげて…」

「あ、うん。」

「何だあ?何を言ってる?」

「言いにくのですが、僕たちはそのぅ、ある先生に言われてここにいるのです。」

「はあ?先生に?何だあそのイカれたやつは…おい聞いたか先生に言われて来たんだとよ!」

「狂ってんなあ、そのセンセ!ぎゃははは。」

「本気か?俺がお前らの先生様ならこういうぜ!売り飛ばされたいなら、すぐに街道を行けってなあ!」


ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ…


(ただの先生じゃなくて、しかも勇者学園のトップ…学園長で大賢者のゼクス・オーリンから指示されて…なんていったら、このおじさん達はどういう顔するのかな?)


「お頭!」

「だから何だ騒々しい!」

「このエルフ、えらく反抗的ですぜ。目がえらく挑戦してやがる。綺麗な顔だけに、こういうお高くとまったアマは、売り飛ばす前に、ちょっと痛い目を見せて教育が必要ですぜ!」

「お、お頭!」

「今度は何だ?」

「お、おれもセンセになってよー、手取り足取り教育してーよ!」

「ああ…俺も…俺もなあ!そう思ってたぜーお前ら!よくわかってんなあ、今夜は宴だ!」


さっすがお頭ーーーー話がわかる、一生ついてきます!!!!


「どうする?」

「別に…」

「別にって?」

「倒すか、走って引き離すか、どっちかしかないでしょ。ロビンが決めて。」

「えっ、なぜ僕が?」

「だってロビンがリーダーだから。」

「えーーーーー仕方ないわかった…僕が交渉してくるからシルキーはここにいて、絶対に手を出さないでね。」

「絶対に?手を出したら何でダメなの?この人たち悪い人なんでしょ?」

「ダメダメ死んじゃうよ!」


「そうそう無駄な抵抗するな。それが最も賢い選択だ。それにこんな綺麗なお顔を傷つけたら、折角の商品が台無しだあ。」


「そうだ!もちろん殺さないんだったら、シルキーの好きにしていいからね!」

「わかった、そうする。でもロビンの交渉を見てるわ。お手並み拝見。」

そういうとシルキーは、腕組みして仁王立ちになった。

(この中でシルキーが一番怖いよ…交渉が失敗したらどうなることやら…)


「あなたがこの一団のボスさんですか?」

「あーーー?なんだその口の聞き方は?」

「それは…すみません。ですが1つだけお願いをしたいのですが…」

「何だ?命乞いか?もちろんいいぜ。ただし、なんでも言うことを聴くんだったらな。」

「物には限度がありますが…でも良いのですか?あー良かった!一時はどうなることかと焦ってしまって。多分断られるとばかり思っていたので。シルキー僕らもう良いんだって…」


「何を寝ぼけたことを!言ってんだ!!!」


ゴン!


盗賊団のボスは、手に持っていた混紡のような鈍器で、視線を外したロビンを思い切り殴りつけた。


「あーあ、お頭。まーた殺しですかい?困ったお人だまったく。人には、商品だからもっと大切にしろとか、いつも言うくせに、自分が一番切れちまうんですから…ん?お頭?お、お頭の腕なんか変じゃ…」

「何が変なんだ?何も…う、うわーーー!」


棍棒で殴りつけたはずのロビンはまったく平気であった。

涼しい顔をしている。

そう、ロビンを殴りつけたお頭の腕のほうが、逆に、あらぬ方向へと折れてしまっていたのだった。











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