1-23 記憶
魔王のレプリカントを討伐し、スローライフ風ストーリーへ
【23】記憶
「気がついた!オードリー、シルキーが目を覚ましたよ!」
「ほんとに!今度嘘だったらマジで!本気の、本気で!承知しないわよ!」
「何で僕が嘘なんか…」
「あなたこれまでに、何回紛らわしいことを言ったと思ってるのよ!」
「何回って、何回?」
「99回よ!99回!このわずか3日間で99回もよ!」
「ははははは、そんなオードリー…いくら僕でも、そんなには間違えないよ。やだなぁそんな大げさに…」
「いーえ!ちっとも大げさじゃない!あなたは、やれ、いま呼吸音が変わった…とか、やれ、耳に赤みが差してきた…とか、挙げ句の果てに、もしかしたら髪の色が変わった!とか、ほんっとにトンチンカン!その度に何度騙されたことか…ま、まあ、すぐそんなヨタ話に乗る私もどうかと思うは思うんだけど…でも!もし!今度という今度!違っていたら、記念すべき100回目として、私のハイジャンプアタックをおみま…いするん…」
ロビンに息を巻くオードリーが、ぼんやりといま目覚めたばかりのシルキーの視線と交差した。
「良かった!ほんとに良かった!もう!ほんとに心配してたんだから!」
オードリーは部屋の外から一気にシルキーへと抱きついた。
「お、オードリー?ここ…は?」
「ここは学園の保健室よ。あなたは、まるまる3日間も眠っていたのよ。私は大丈夫って言ってたのに、ロビンがもしかしたら…もしかしたらって縁起でもないことばっか何回も言って…ほんと大変だったんだから!」
「オードリー!」
「何よロビン、そんな怖い顔して…」
「嘘は良くないよ、それはオードリーのほうじゃないか!」
「馬鹿ね、私がそんなこと言うわけないでしょ?」
「だったら、あれ言うよ…いいんだね?」
「あれって何よ…」
「だから、あれだよあれ。」
「だからあれって何よ!男だったらね、はっきりしなさいよ!」
「じゃいうけど、慌てて葬儀屋の手配を…ファ、ふぁにすんふぁーーー」
オードリーは、途中まで言いかけたロビンの口に、見舞いのリンゴをそのまま口へと突っ込み塞いだ。
「や、やーねーロビン君たら…そんなにお腹空いてたの?し、仕方ないわねー、シルキーさん、このリンゴを一個いただくわね、ごーめんあそさっせー!おほ…オホホホホ…」
ガチャ
「シルキーさん!良かったあーやっと目を覚ましたのね!」
保健の担当のウィルだった。白衣を着ていて、さながらだ。
「おっシルキー!良かったな!意識がやっと戻ったか!」
「シルキーさん、良かった!ほんとうに良かった!」
フィッシャーとリブが続いて入ってきた。
「これはこれはシルキー嬢、お元気で何より…」
「何ですか、そのくさい挨拶は?」
「フィッシャー元先生、あのですねーこちらのお方はハイエルフの王族の方で…」
「まっそんな話は置いといて…そうだロビン!」
「もしもし!聞いてますかフィッシャー元先生、あのですね…」
「だーかーらーどっちに告ったんだ?シルかオーか?ま、まさかオメー両方か?えっ?マジか?ほんとにりょーほーなのか?わっかんねーよ、ほんとオメーは口下手だなー、あんなにカッコよかったのに…」
「そう!」
「ど、どうしたシルキー?気分でも悪いか?大丈夫か?」
フィッシャーがアタフタした。
「もういい加減にしてください!シルキーさんはまだ病人なんですよ、それなのに、こんなにも大騒ぎして!それにレディーが寝てるところに、殿方が大勢で入るものではありません!男は全員いますぐ出てってください!」
「そ、そうか、こりゃすまんかったのおウィル先生…イメルダ先生、わしは出直すとしますぞ。」
「えっあっちょっ、ちょっと待って待って!いやー!ゼクス学園長は行かないでくださいーす、すいませんー。」
ハハハハハハハ
ウィルは、ゼクスだけを残して自らも退室した。最後までオードリーがロビンと一緒にシルキーの側を離れない、と言って聞かなかったが、教頭のエリザベートが一喝してそれを収め、オードリーもろとも、室内の全員を人払した。
「いい友を持ったなシルキー。」
「うん。」
「じゃあ、もう寂しくないね?」
「え…そんな…そんなこと…」
「すまないシルキー…わしももうあの頃のオーリンではないしな。年を取りすぎた…」
「ううん、変わってないよオーリンは。私の中のオーリンはあの頃とちっとも変わってない。」
「そうか…ありがとう。」
「オーリン!」
「なんだ?」
「あのとき…あのときアルクスライン…」
シルキーは胸を押さえた。もし違っていたら、逆にそうだったら…思いが入り乱れていた。
「シルキー、最後の…」
「あ…ま、待って…」
「いや聞いてほしい。最後のことは誰一人、このわしでさえも何が起こったのか全くわからん。」
「え?」
「だってアルクスラインが!」
「アルクスライン?ああ、何か不思議な力が働いて過去の大勇者アルクスラインを呼び寄せたかもしれんし…それともロビンが何かしたのかもしれん…全員が放った最後の一撃だったのかもしれん。とにかく、わしらが意識を取り戻したとき、魔王どころかダンジョン自体も消えて無くなっておった。暗黒石ブラックストーンを破壊したのだ。当然の結果じゃな。」
「じゃあ…」
「真相はわからん…だが魔王は滅ぼした。あくまでもレプリカじゃが。それにパイシーズクラスは全員無事だ。もちろん先生方もな。」
「良かった…うん…それが一番だよねオーリン…」
「じゃからわからん。無理にわかろうとせず、わかるときがくるまで、待てばいいんじゃ。」
「もうオーリンの気の長さほんとに昔から変わらないね。だからいつもアルクスラインはオーリンに、そんなに待ったら、早く爺さんになるぞって…あっ!」
「だから1人で、もう爺さんになってしまったよ。」
「こめんね長い間、1人ぼっちにしてて…辛かった?」
「いや…お帰りシルキー。」
「ただいま、オーリン!」
石化していた自分を、百年以上も気の遠くなる時間を、パーティーメンバーも誰もおらず、ただ1人静かに護り続けていてくれたことに、ようやくシルキーは気づくことができた。
そんな優しい笑顔のゼクス・オーリンに、シルキーは満面の笑顔と大粒の涙で感謝した。




