1-21 ユニークスキル
【21】ユニークスキル
「わし達がここに残り、生徒たちは皆、協力しあってダンジョンを上へと引き返して登り、外に脱出するのじゃ!そして、他の先生たちに知らせ、このダンジョンごと封印するのじゃ。」
ゼクスの声が、ロビンたちの頭に響いた。言葉だけではない。確かなイメージも合わせて、具体的に頭の中に流れてきた。
そのイメージの中には、最後に、エリザベートのダークアローを、ゼクスたちが受けて、自らを石化する映像が流れた。おそらくは、身を守るための最後の選択で、この魔王を倒せるパーティーが来るまで、持ちこたえるという意思だった。だが、それは奇跡に近いことだった。
治癒を終えたフィッシャーはリブの手を握ってうなずき、そして、リブもそれに応えた。シープスは微かに震えているウィルの肩を抱きしめ、ゼクスの隣にいたエリザベートは不服そうな眼差しをゼクスへと向けていた。
だが…
「嫌です先生!」
ロビンが尊敬してやまないゼクス学園長に反している。
「ロビン…」
オードリーが目を閉じ、握りこぶしをしているロビンを見つめた。
「シルキー!」
「うん。」
「オードリー!」
「は、はい!」
「僕らは何だ?」
「…」
「僕らは勇者…勇者じゃないのか?」
「ロビン待てよ、お前何する気だ?バカなことやめろよ!」
ロビンはセリイグやクレアに向かって笑顔で首を振った。
「僕らは勇者だ。」
「行こうロビン!」
オードリー・クリスタが、輝くばかりの笑顔で言った。
「行きましょう!わたしがあなたたちを絶対に護るから!」
シルキーが決意の表情を見せた。
「僕らは勇者だ!魔王からこの世界を護る勇者だ!」
3人は駆け出した。
(ありがとうロビン!もう私一人残されるのは嫌…あなたに会えて良かった!わたしの全力をあなたに捧げる)
そして…
「ロビンの奴!あんなに弱いのに…」
「セリイグ!」
「分かってるよ!ロビンたちだけにいいカッコさせられるか!パルマン、クレア、マイア、行くぜ!俺たちも!俺たちは勇者のパーティーだ!」
オーーーーー!!!
ロビンの勇気が、パイシーズ全員に伝わり、生徒たち全員が参戦した。
傷を負ったあのディーンでさえも後に続いた。
「なんて無謀な!すぐに止めさせないと!」
そういったエリザベートに、ゼクスが言った。
「いやあそれには及ばんよイメルダ先生。わしが間違えたようだ。それよりも、戦いの最中ですまんが、魔王がよく見えんくなった。ちょっと方向を教えてくれんかの。」
「えっ学園長どうされ…あ、はい…わかりました学園長、わたしが指示をお出しします…」
ゼクスは大粒の涙をとめどなく流していた。
「あいつらめー!」
「フィッシャー先生、危険です。すぐにあの子たちを引き返させましょう!」
「そうですよーみんな危ない!」
「リブ先生!」フィッシャーだ。
「ウィル先生!」シープスだ。
「えっ?」
「俺たちも行ってきます!」
「ちょっと2人とも!もーーーー!」
2人がロビンたちのほうに駆けていく後ろ姿を、リブとウィルが怒って見送った。
「こうなったらやるしかないわね、行くわよみんな!」
「はい!」
リブ、ウィル、僧侶のエキスパートジョブを持つ生徒たち3人が、他のメンバーたちに対して光のバリアーを張った。
「オードリー、オーラのダンスを!全員に!」
ロビンがいつになく、果敢な態度であった。
「えっ?わかったわ、やってみる。」
オードリーのオーラのダンスは、特定の生命それぞれに内在するオーラを活性化させ、最大限の潜在能力を一時だけ引き出す、ダークダンサーのエキスパートジョブを持つオードリー最大の、パーティー全体への支援のスキル魔法だ。
オードリーは、このダンジョンの訓練の間、しかもそれは生涯で一度しか成功していない術式だった。
「シルキー、このことをゼクス学園長に伝えて!ゼクス学園長から全員に作戦指示を!」
「わかったわ!ロビンたちも気をつけて!」
シルキーもロビンの指示を受け、ギガントロプスの頭上、最前線で戦い続けるゼクスとエリザベートの2人のいる空中へと飛んだ。
「うん!」
「なるほど、それは面白い!ならば…」
シルキーからオードリーの話を聞いたゼクスはふたたび思念を送った。
文字通り、空から全員にメッセージを送ったのだ。
「なるほど、それなら。」
「やれるかも!」
「うんうん!」
「頼んだぞオードリー!」
生徒も教師も、最後の作戦に賭けてみよう、と体制を立て直し、オードリーを中心としたまるで1本の矢のように陣形を作り上げた。
魔王の大きな一つ目が光り、なぜかオードリーへと敵意が向いた。
何かを察したのかもしれない。
理由はわからないが、モンスターは最もそのパーティーにおいて全体の核を成すだろう相手を、瞬時に狙いを定めて襲いかかる傾向がある。
「いかん、オードリーを守るんじゃ!」
ギガントロプスは、巨体ながらもオードリーに向かって突進した。
オードリーを踏み潰さんとする激しい勢いだ。
一方オードリーは、真剣な面持ちで目を閉じ集中した。
全く魔王の接近など意に介してはいない。
全ての仲間を信じて疑わず、己の役割に殉じて。
オードリーは闘いの神の加護を導くため、この激烈な闘いの中であっても、人々がそれ自体を忘れて見惚れてしまうほど、美しく舞い踊った。
皆に勇気を、そして人の世界の平和を願って…。
その美しき舞い姫を守るため
ゼクスが雷を放つ
エリザベートが炎を放つ
フィッシャーがミスリルの戦斧をふるい
シープスが生徒たちの魔力と自分の魔力を、彼らに転移した
セリイグのパーティーがオードリーをぐるりと囲んで護り
シルキーが最大級の風の魔法、ジオ・トルネードを放った
グオーーーーー!!!
咆哮を上げてギガントロプスは、足から崩れ落ちた。
それと同時に、オードリーが闘いの神の加護を降ろして、光を放った。
「今じゃ!全員最大級の攻撃を、ただ一点、あの暗黒の石目掛けて撃ち込むのじゃ!」
全員の攻撃が一点集中した。
ブラックストーンは…見事木っ端微塵に破壊された。
その黒い結晶は、ガラスのようにパラパラと砕けて落ちた。
ウオーーーーー!!!
全員が歓喜した。
が、次の瞬間…
「危ないオードリー!」
グオーーーーー、大きな咆哮とともに、ギガントロプスは倒れこむ瞬間にオードリーを握り潰そうとして、腕を伸ばした。
咄嗟のことで身動きできなかったオードリーだったが、誰かが、魔王の巨大な手とオードリーに割って入るようにして、彼女の体を押した。
「ディーン!」
オードリーの身代わりとなったのは、ディーンだった。ギガントロプスは、ディーンを掴みながら、その巨大な体をゆっくりと持ち上げ、そして立ち上がった。
「どうして?ブラックストーンは破壊したのに!」
「あれだ!あれじゃないか!」
フィッシャーが叫んだ。
全員がその方を見ると、砕けたブラックストーンのところに、石となった人の顔らしきものが浮かんでいた。
「あれはゲミ…ゲミなのか?それとも…」
「どちらにしても、あれが核になっている気がします!」
「シープス先生、あと一撃分…一撃分でいい。俺に魔力転移を頼む!」
シープスがフィッシャーに首を振った。彼自身に魔力のかけらも、体力のかけらもなかった。全てを先ほどまでの攻撃に全力を注いでいたのだから。
ゼクスも、他の教師、生徒たち全員が同じだった…
ただ一人を除いて…
「えっ?ロビン…ロビンどうしたの、ロビン!?」
シルキーが叫んだ。ロビンの周りに、霧のようなものが現れ、ロビンの姿全体を覆い隠したのだ。そして、その不思議な霧が晴れると、そこには銀髪の長身、一人の男が立っていた。
「ア、アルクスライン!?」




