1-16 実力
【16】実力
ロビンとオードリーが目の前で起こっている状況が飲み込めず、息がもれるように呟いた。
「ゴーレムが…復活する!?」
「そんな…」
「目を凝らして、よくみてみろ。」
ディーンは、再生中のゴーレムの頭上、さらにこの部屋の最も暗い奥の方を指差した。
「何があるの?」とオードリー。
必死に、暗闇に目を凝らすが何も見えない。
「何もないじゃない。ロビンわかる?」
「わからない。何もないように見えるけど。」
「あれは何?」
シルキーだけが確認できたようだった。
「あれは暗黒の石…ブラックストーンだ。」
「ブラックストーン?」
「ブラックストーンは負の魔力結晶で、光を放つ世界樹セインデリアや、ライタルストーンとは真逆の性質を持っている。」
「まさか?」
シルキーが背筋に冷たいものでも走ったように、自分の両腕を自分で掴んだ。
「ブラックストーンは、自ら魔力を生成して、そして魔物…モンスターを生み出す源となる石だ。」
「オードリー!ロビン!」
「な、何?」
「あのブラックストーンをすぐに破壊しましょう!」
「おっと待ってくれシルキー、それでは、わざわざ説明した意味がない。まあいずれにしても、そう簡単には破壊できない代物らしいが…ダンジョンに魔物が消えない理由、ラストモンスターを倒しても再生する理由は、魔物を生み出すブラックストーンが必ずあるからだ。ダンジョンを消し去る…には、ブラックストーンを破壊しなくてはならない。だが、ブラックストーンは易々とは破壊できない硬度を持つという。私の光の槍では無理だ。ミスリルかアダマンタイトの聖剣でもないとな。」
「それだとしても、あれを破壊しない限り、わたしたちパイシーズクラス全員が助かることはないわ!」
「それは分かっている落ち着け。この部屋から出入り出来ることは、すでにロビンが証明済みだ。全てが終われば、外に預けているライタルストーンすべてを、この部屋に持ち込む…つまり、ゴーレムを倒した直後に、ライタルストーンを持っている生徒、その際にあわせてクラス全員を引き入れば、同時に石が魔力を吸収して、わたしたちパイシーズクラスは自動的に転送される…通常の流れという訳だ。」
「それは理屈としてはそうかもしれないけれど、魔力は何が起こるかわからない人智を超えるものよ。危険なことをしているのよ。」
「それはわかっている…だが」
ディーンがそう言って、光の砂時計をひっくり返した。光の砂はサラサラと流れ出した。ディーンはそれを確認するとパーティーメンバーに指示を与え、陣形を整え、ふたたび形を成した巨大なゴーレムへと対峙した。
「これからがパーティー対決だ。見ていろ!行くぞ、アタック開始だ!」
「はっ!」
ディーンの指示で、ディーンのパーティーメンバー全員が巨大なゴーレムへとたち向かって行った。リーダーであるディーンがいる時といない時とでは、明らかな差があるようにロビンたちには見えた。メンバーの1人1人が、まるでディーンの手足のごとく動き、しかも最もリスクの少ない方法で、間断なく効果的な攻撃を常に選択しているようだったからだ。
まるで1つの演劇でも見ているかのような統制のとれた流れのあるチームワークだった。
「これが最後だ!」
ディーンの腕から、ふたたび聖騎士のエキスパートスキル光の槍が放たれ、今度はゴーレムの上半身全てを吹き飛ばした。すさまじい破壊の爆風が部屋いっぱいに広がり、それとともにゴーレムは完全に消滅した。最初に放った光の槍は、あえて威力を抑えていたようだ。ロビンたちの目にも、高度の攻撃力であることは明らかで、C難度レベルのゴーレムでは、ディーンたちのパーティーにとっては敵にすら値しないのだろう。
「こんなものか…」
ディーンはそういうと、光の砂時計のもとに帰り、砂の量を見た。ほとんど落ちてはいないように見える。5分かかっていたかどうかだ。
ゴーレムはふたたび再生し始めた。
「光の砂時計が全て落ちきるまで、何回あのゴーレムを倒せるか?それがパーティー対決のルールだ。これでお互いのパーティーの力の差がはっきり見える。ゴーレムの再生する時間が少々インターバルとなって邪魔だがな。」
ロビンとオードリー、セリイグたちも、声を出せなかった。レベルの差は、すでに歴然だったからだ。
「こんなの間違っているわ!」
「シルキー…」
「何がだ?始める前にもう降参か?それとも…」
「そんなのじゃないわ!魔力は何が起こるかわからないわ。こんな不自然なこと、しかもまるで遊びのように弄んだら、きっと大きな代償を支払うことになるわよ!」
「ホゥーどんな代償をだ?そんなものがあるなら見てみたいもの…だ!!」
ディーンは話しながら、完成したばかりのゴーレムに向かって、光の槍を撃ち込んだ。さらにゴーレムの跡形もなく一瞬で消し去った。ディーン1人でもゴーレムなど相手にならないことを証明した。
「すぐにこんな馬鹿げたことを止めて、クラス全員を呼び集めて、ここから出るのよ!」
シルキーは扉に向かって早足で向かった。
「?」
シルキーが扉を開けようとするが、扉は微動だにしない。
「無駄だ。すでに誰かが一度この部屋から顔を出した後、すぐに外からロックズに扉を開けさせない魔法をかけるよう指示してある。次に扉が開くのは1時間後だ。」
「何てことを!何かあったらどうするの?白殺行為だわ、すぐに止めさせて!」
「どうやって?外と連絡を取る手段はないし、ましてや扉を破壊することはできない。ブラックストーンもな。素直にゲームに付き合ってもらおうか?」
「冗談じゃないわ、なぜ私たちがそんなことをしなければならないの?」
「決まっている。」
3度ディーンが光の槍を放ち、再生したゴーレムをふたたび破壊した。だが、一瞬ゴーレムの手足だけ残ったようにロビンには見えた。そのことに誰も気づいてないなかった。
「この光の砂時計が落ちるまでは私たちがゴーレムを倒し続ける。だが、それが終われば今度は貴様たちがあれを倒さなければならない。」
「な?」
セリイグが絶望的な表情を見せた。どんなに頑張っても、彼らのパーティーでは、ゴーレムをやっと一度倒せるかどうかだったからだ。運良く倒せても、ふたたびゴーレムは再生してしまう。それはやはりセリイグたちパーティーの全滅を容易に想像させた。
「貴様たちの実力はわからないが…せいぜい頑張るんだな。だが助けて欲しければ、方法はある。」
オードリーが目を見開き、ディーンを睨んだ、
「あなたのパーティーに、わたしたちを組み入れるということ!?」
「そうだ、簡単なことだろ?」




