1-14 ラストモンスターとの闘い
【14】ラストモンスターの闘い
「言っておくけど、わたしたちは、あなた方の組織には入らない。」
シルキーがさらりと言った。先ほどのディーンのぶった演説で、既にディーン達の配下に入っていた1組のパーティーとは別に、新たに4パーティーが傘下に入ることを表明していた。残ったのは、ロビンとセリイグのパーティーだった。
「結構結構。ただしこのパーティー対決に勝ったら、貴様ら全員、配下に入ってもらう。いいな!」
ディーンが口元を歪ませていった。
「いやよ。」とシルキー。
「わたしも嫌、絶対に嫌!」とオードリー。
シルキーとオードリーが、ロビンを睨んだ。
「も、もちろん僕だって!僕は必ず大魔王を倒す!」
「だーかーらー、それは無理なんだって言ってるだろ!仲間になれよ!」
腰巾着のロックズが横から口を挟んだ。するとセリイグが、ロックズの腕を捻じ上げた。
「あ、イテテテテテ!!!なにすんだ!離せセリイグ…イテテテテテ…離してくれー、頼む!」
「情けない声を上げるな、この腰巾着がっ!お前のおかげで、全員が命の危機にされされたのだ。これだけで済んでありがたいと思え!」
セリイグはそう言うと、ロックズをそのまま突き飛ばした。ロックズは、ゴロゴロと地面を転がり、先ほどディーンが立っていた岩場に身体をぶつけて止まった。
それを見たオードリーが、セリイグにハイタッチした。
「その辺にしてもらおうか。力づくで貴様ら全員を、私たちのパーティーに組み入れることは確かにできる。なにせ私たちは、現在34名のパーティーで旅団の資格もある規模だ。どんなに貴様ら2つのパーティーが合同チームを作って抵抗しようとも歯の立つ相手ではない。まあだが、私もまだパーティー全員の意思を統率しきってはいない。逆らうものもいるだろうから…」
「ディーンお前は、力づくで俺たちをパーティーに組み入れるのか!」
「まあ急くなセリイグ。そんな野蛮なことはしない。何度も言うが多分それも簡単じゃない。だからパーティー対決をしたいんだ。私たちの実力を見れば、貴様らの気持ちもすぐに変わるさ。」
「おい、いつまで寝ているロックズ。」
「は、はい…すみませんディーン様。」
「これを持っていろ。」
ディーンはそういうと、自らのライタルストーンをロックズに投げ渡した。ロックズは慌てて落とさないように、石のチェーンをなんとか掴んだ。ふーと息をついている。
「ロビン、セリイグ、貴様らもライタルストーンを外して、奴に預けろ。」
「なぜだ?」
「言う通りにしろ。」
「ロックズになど預けられん。」
「別にこいつでなくていい!誰でもいいから、預けたい奴に石を預けて、貴様らのパーティーメンバーと一緒に私の後についてこい。」
そういうとディーンは、当初合同していたパーティーメンバー7人を指名して呼びあつめ、彼らとともにラストモンスターの部屋に入っていこうとした。パイシーズクラスでは恐らくトップ8の実力者たちだ。
「何をしている!早くしろ!」
「チッ!なんか分からんが、ロビン、お前の石を借りるぞ!」
「えっ?」
言うが早いかセリイグは、ロビンのライタルストーンを掴み取り上げると、自分のライタルストーンと一緒にして、パルマンへと預けた。パルマンのパーティーは、彼のリーダーの意思で、ディーンのパーティー傘下になってしまったが、パルマンはセリイグの昔からの大の親友だった。もし、ライタルストーンを取り上げられそうにでもなれば、パルマンは全力でれを拒み、パーティーさえ脱退するだろう。
「頼むぞパルマン。」
「わかってるよセリイグ。安心してくれ。」
「よしロビン行くぞ!何をボーとしてる!!」
セリイグは、ロビンの腕を掴むとラストモンスターの部屋へと駆け出した。後からシルキー、オードリー、そしてセリイグのパーティーのクレア、ベイル、マイアが続いた。
全員がラストモンスターの部屋に突入した。
ラストモンスターの部屋は、大空洞だった。すでにディーンたちのパーティーが、ラストモンスターである巨大な石像ゴーレムと闘っているところだった。
「遅かったな。」
ディーンは何もせず、腕組みをして観戦を決め込んでいた。
「もう闘っていたのか?」
セリイグが尋ねた。
「ああ、部屋に入ってすぐ扉を閉めた瞬間、ラストモンスターとの戦闘が始まるからな。戦闘が始まってから、かれこれもう15分は経過している。」
「15分?もう15分も経ったのかな?」
「そんな細かいことはいいんだよロビン。俺たちは今からあれと闘うのか…身震いするぜ。」
「それよりディーン。僕たちも手助けしなくていいの?ここにいる全員が今からアタックすれば、そんなに倒せない難しい相手じゃない。僕たちのパーティーだけだと大変かもしれないけど、ここには、これだけ大勢のみんながいるから!…みんな?」
「そうだロビン、気づいたようだな。なにか不思議と思わんか?」
「あっ!」
「どうしたのシルキー。」
隣にいたオードリーが、シルキーの強張った表情を見て言った。
「わたしたち、ラストモンスターの部屋に入れている!」
「そうだ。その通りだ。シルキーとか言ったな。貴様は勘がいいようだ。」
ディーンは続けた。
「ラストモンスターの部屋が閉鎖空間になるのは、どうやらライタルストーンと関係があるようだ。つまりライタルストーンさえ、ラストモンスターの部屋にさえ持って入らなければ出入りさえ自由ということだ。ロビン、ちょっと部屋の外へ行ってみろ、大丈夫だお前の背後は私が護る。」
「ディーン・シャイニー、あなたは一体何者?なぜここまで、いろんな情報を知っているの?国家機密に近い情報ばかり…」
ディーンはいぶかしむシルキーには答えず、ロビンの歩く方向を見ている。
ロビンは言われるがまま
素直にラストモンスターの部屋を出た。いとも簡単に扉が開き、そして、外にいる他のパーティーメンバーたち全員と一斉に目が合った。
外のパーティーメンバーが待機している場所は、3名の僧侶のエキスパートジョブを持つ生徒たちが、そのスキル魔法で、聖なる結界を張り、リッチークラスの魔物でさえも進入してこられない場所を作っていた。いまやダンジョンの中で一番安全な場所といえた。そして、他の鍛冶屋や盗賊のエキスパートジョブを持つ者たちが協力して、周りにあるものと手持ちのアイテムを使って、豪華とまではいかないが、それでも立派な野営場を完成させつつあった。閉鎖空間と、外とでは時間のスピードさえも違い、ラストモンスターの部屋だけが何倍かの時間の速さ、流れがあるようだとロビンは理解した。
各パーティーとも、まるで遠足のようにのびのびして、くつろいでいた。
「おーロビンどした?」
「もう終わったのか?やっぱりラストモンスターだけあって、倒すのには時間かかるよな。」
「ロビン君ご飯食べた?食べるものあるよ。」
「みんなでこれから談議するんだ、お前も入るか?」
ロビンは振り返った。すると、そこでは巨大なゴーレムが巨体にも関わらず、凄まじいスピードで拳を振り上げ、地面や壁を破壊し、そしてディーンのパーティーメンバーと激しく戦闘を繰り広げている。その風圧は、ロビンには突き刺さるように感じるが、外にはその音も振動も漏れていないようだ。
ロビンは慌てて扉を閉めた。
「あいつどうしんだ?めちゃくちゃ慌ててたな。」
「何か必死な顔してたような…」
「ま、いんじゃね。あんだけ強いメンバーが揃ってるんだ。負けるわけねーさ。俺たちラッキーだな。ディーンたちがラストモンスターを倒してくれたら、自動的にこのダンジョンをクリアして、これであがれるんだからな。」
「ここから出たら、夢の大金持ちの生活ができるし!」
はははははは!
「でもなんでロビン君、ラストモンスターの部屋から顔出せたのかな?」
「気にすんなよ、んなこと。」
「とりあえず飯食って、俺たちの将来の夢でも語ろうや!」
大魔王、魔王との格付けを意識して、ラスボスではなく、ダンジョンの最後に現れるラストモンスターと表現しました。




